医療DX推進に向けた全体像示す 医療保険部会(2024年8月30日)
厚労省の社保審・医療保険部会は8月30日、医療DXの推進に向けた検討の全体像を示した。「全国医療情報プラットフォームの構築」「医療等情報の二次利用の推進」「支払基金の抜本改組等」の3つを取り組みの柱としており、電子カルテ情報の二次利用のためのデータベース構築や、支払基金の改組等を掲げている。
医療保険部会に「医療DXの推進に関する法整備に向けて検討が必要な事項の全体像(案)」が示された(下図)。
このうち「医療等情報等の二次利用の推進」に関しては、電子カルテ情報データベース(仮称)の構築を掲げた。8月30日に公表された厚労省の令和7年度の概算要求では、データベース構築に向けた調査設計が盛り込まれている(下図)。
また、「全国医療情報プラットフォームの構築等」に関しては、①電子カルテ情報共有サービスの構築等、②PMH(Public Medical Hub)による公費負担医療制度等の資格情報等の連携、③診療報酬改定DXの推進を掲げた。①については、傷病名等の6情報等を閲覧できる仕組みを新たに構築する事業を概算要求に盛り込んでいる(下図)。「自治体検診DX」のモデル事業も実施する。
さらに、社会保険診療報酬支払基金(支払基金)を医療DXの運用主体として抜本的に改組し、「医療DX推進機構(仮称)」とすることを掲げた。支払基金の改組により、医療保険者に加え、国・地方が支払基金の運営に参画することとなる。また、医療DXの総合的な方針として、「医療DX総合確保方針(仮称)」のもと、支払基金が中期的な計画を策定する。
今後、各論点について、医療保険部会および医療部会にて、9月~12月にかけておおむね月1回のペースで議論することとなる。
電子カルテ情報共有サービス、令和7年度中に本格稼働――令和7年1月からはモデル事業も
「医療DXの推進に関する工程表(医療DX工程表)」(令和5年6月2日医療DX推進本部)において、「オンライン資格確認等システムを拡充し、全国医療情報プラットフォームを構築する」および「2024年度中の電子処方箋の普及に努めるとともに、電子カルテ情報共有サービスを構築し、共有する情報を拡大する」ことが明記されている。
電子カルテ情報共有サービスは、「健康診断結果報告書」・「診療情報提供書」・「退院時サマリー」の3文書情報を医療機関等が電子上で送受信でき、全国の医療機関等では患者の電子カルテ情報(6情報)を閲覧できるサービスで、患者本人等も自身の電子カルテ情報(6情報)を閲覧・活用できるものとなる。
電子カルテ情報共有サービスは、令和7年度中の本格稼働に向けて、令和7年1月からはモデル事業も始まる予定。
3文書・6情報をFHIR形式に変換する改修費を補助――令和6年3月末から申請受付開始
電子カルテ情報共有サービスで取り扱う、上記の3文書・6情報については、標準規格であるFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)形式に変換する必要がある。変換するために必要な改修等の費用は「電子カルテ情報標準規格準拠対応事業」として補助が行われる。
補助の対象は、①電子カルテシステムに標準規格化機能を導入する際にかかる費用(システム改修・標準規格変換機能整備費用、システム適用作業等費用(SE費用、ネットワーク整備等)と、②健康診断部門システムと電子カルテシステム連携費用となっている。補助条件として、「既にオンライン資格確認等システムおよび電子処方箋管理サービスを導入していること」とされているが、電子処方箋管理サービスについては、「導入する旨の申し出がある場合は導入しているとみなす」こととなっている。
補助額・補助率については、「健診結果報告書」を扱う健診実施医療機関(健診部門システム導入済医療機関)の場合は、200床以上で「事業額1,315万8千円を上限に1/2補助(上限657万9千円)」、200床未満病院で「事業額1,091万3千円を上限に1/2補助(545万7千円上限)」となっている。
なお、補助金申請の受付は、令和6年3月から開始されており、その期間は、令和13年3月31日までに電子カルテ情報共有サービスの導入を完了したうえで、令和13年9月30日までに申請する。補助金申請に必要な書類は下表のとおり。
電子カルテ未導入の医療機関には、標準型電子カルテの導入を促す――補助金については今後議論
標準型電子カルテについては、医科無床診療所を想定したα版の開発に令和6年4月中旬から着手している。令和7年3月からα版のモデル事業を開始し、その知見を踏まえ、令和8年度に本格版の開発に着手する予定となっている。最終的なゴールは令和12年度末に設定されている。
また、医療機関におけるシステム更改は5~7年周期となっており、1月や5月といった大型連休にシステム更改が集中するケースが多い。そのため、令和7年1月頃を予定している電子カルテ情報共有サービスのモデル事業に向けた対応を皮切りに、電子カルテ情報の標準化に対応した医療機関の増加を目指すとしている。
標準規格化への対応に係る支援としては、現時点においては、電子カルテをすでに導入している「病院」は、医療情報化支援基金(ICT基金)により、改修費の2分の1が補助される(上記の「3文書・6情報をFHIR形式に変換する改修費を補助」を参照)。
電子カルテをすでに導入している「診療所」については、経済産業省所管のIT導入補助金の活用が可能となっている。
ただし、電子カルテ未導入の病院・診療所については、現時点では補助がないため、今後の検討事項とされた。
近未来健康活躍社会戦略においても、医療・介護DXのさらなる推進
医療保険部会と同日の8月30日、厚労省が推進していく近未来の政策方針である「近未来健康活躍社会戦略」が取りまとめられて公表された。このうち「医療・介護DXの更なる推進」に関する取組みとしては①全国医療情報プラットフォーム構築等、②医療等情報の二次利用の推進、③医療DXの実施主体、④マイナ保険証の利用促進、生成AI等の医療分野への活用――が掲げられている。また、「医療DXの推進に関する工程表」に基づき、各取組をより実効的かつ一体的に進め、速やかに関係法令の整備を行うとしている。
関連書籍
オンライン資格確認、電子処方箋、マイナ保険証、医療DX工程表等については、社会保険研究所発行『医療DXの今後に向けて 電子処方箋・オンライン資格確認Q&A(令和5年4月版)』が詳しい。