第43回日本年金学会総会・研究発表会 特別講演「これから5年で確実に起こる雇用シフト」講演要旨・シンポジウム 討議要旨
特別講演「これから5年で確実に起こる雇用シフト~年金財政には吉と出る~」
海老原 嗣生 氏
大正大学 特命教授
人手不足は非正規人材において顕著
人手不足と言われる中、大卒者はこの30年で1.6倍に増加した。大卒ホワイトカラーの人手不足は景況によるもので、不況になれば少子化社会でも大卒は余る。一方、高卒者はこの30年で5分の1まで激減し、構造的な人手不足。販売サービスや製造業の現業職はとてつもなく採用困難になっていく。
この25年で生産年齢人口(15~64歳)は激減したが、人口減少とは関係なく、就労者は増え続けた。これは衰退産業からの人材流出と、主に高齢者や主婦パートの労働参加によるもの。しかし、高齢者の戦力化は75歳までで、今後、前期高齢者は激減していくから労働力不足を高齢者で補うのは難しい。
また、女性は大卒の正社員が増え、非正規人材が減少している。そもそも大卒者の増加は女性の進学率上昇で起きた。かつて企業は「男しか」戦力化していなかったが、人口が半分になっても男女平等に戦力化すれば人材は足りる。もはや、大手では新卒正社員採用は男女半々で、女性総合職社員は結婚・出産で辞めない。各年代の大卒正社員に占める女性比率が上昇し、新任課長の3割が女性となった。女性の労働は量から質へと変換し、現在の非正規人材難につながっている。
非正規人材の賃上げから潜在労働力の掘り起こしへ
非正規人材が枯渇して賃上げ圧力が高まる中、「年収の壁」への対応政策がスタートした。国による助成分が賃金に還元されると4割程度の賃上げになる。助成は最大3年間だが、企業はこの間に4割賃上げした後、賃金を下げるわけにはいかないから企業淘汰が進んでいく。
一方、女性就労者数の直近トレンドを見ると2019年をピークに非正規数は減少し、2021年に底を打って反転した。これは非正規賃金の急上昇により潜在労働力の掘り起こしができたからだと考えられる。非正規賃金の急上昇が就労人口の増加をもたらしたということだ。
非正規賃金が急上昇して就労人口が増加し、社会保険の加入者数が増加すれば、これは社会保障財源の好転材料となる。この好循環が起こりつつある。加えて、少しずつ外国人労働者も拡大している。こう考えれば、この5年で起こってくる雇用情勢の変化は、年金財政には良い影響をもたらすと言える。
シンポジウム「社会経済の変化と公的年金保険の相互作用」
いわゆる年収の壁の問題
永瀬氏は、厚生年金保険料を月3万円払い、受給期間15年で1万円増えるのは、少ないような気がすると指摘。積み上げられない世代には、特例があってもよいとした。邢氏は、主婦たちの体感で言うと働いて年金額が少ししか増加しないならば、主婦が労働に対しどういう感情をもっているかが決め手になるとした。
これに対し是枝氏は、(標準報酬月額の下限)8.8万円ぎりぎりの人の保険料はそのまま基礎年金拠出金として支払う形になるにもかかわらず、厚生年金の報酬比例部分の受給権が得られる形になっていることを説明。後から生まれる世代ほど年金の給付額は、支払った保険料に対して少なくならざるを得ないのは、マクロ経済スライドの仕組みから仕方がないとしたうえで、新たに女性が働く場合にだけ特別に上乗せの年金を与えるようなことをすると、他の人の給付を削らなければならなくなってしまうと指摘した。
海老原氏は、企業が保険料を負担することを嫌がっていることが一番の問題とした。
遺族年金について永瀬氏は、例えば夫が500万円の世帯と、夫が400万円と妻が100万円の世帯では、夫が亡くなった場合、妻の100万円の年金はなくなって夫の400万円分の遺族年金のみになってしまい、夫が500万円だった世帯より低くなるという仕組みになっていると指摘。永瀬氏の夫婦合計4分の3を5分の3にするという提案に対し、是枝氏は、最終的に夫婦合計の50%という形を目指していくべきとした。
全世代型社会保障構築会議の報告書における年金改革案
是枝氏は、106万円の壁対策のための助成金を出してしまった以上、20時間未満の改革を急がなければならない。厚生年金に入らずに働いている人になるべく厚生年金の報酬比例の受給権を与えることが最優先課題だとした。
永瀬氏は、新たに厚生年金加入すると、女性の利益が増えるということが見える制度にするべきとし、就業促進しようとしている40代・50代をどうするかが大事な視点であると論じた。