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年金制度改正に向け社保審・年金部会が本格的な議論を開始

 (こちらは4月5日に「Web年金時代」に掲載したものです。)

  社会保障審議会年金部会(菊池馨実部会長)は3月28日、次期年金制度改正に向けて本格的な議論を開始した。この日は年金制度を取り組む経済社会状況の変化や、昨年12月に取りまとめられた全世代型社会保障構築会議報告書について年金局から説明を受けた後、フリーディスカッションを行った。委員からは、短時間労働者への被用者保険の適用拡大をはじめ、第3号被保険者の在り方や基礎年金の在り方、遺族年金の見直しなどについて幅広く意見が出された。
    年金局はこの日の意見を踏まえて次期制度改正の課題・論点を整理し、同部会で個別の検討を深めていく考え。今後、1~2カ月に1回程度会合を開催していくとしている。

厚生労働省ホームページ▶第2回社会保障審議会年金部会

第3号被保険者の在り方を提起


 全世代型社会保障構築会議報告書では、勤労者皆保険の実現を目指し、次期制度改正に向けて検討すべき項目として、▶短時間労働者への被用者保険の適用に関する企業規模要件の撤廃▶常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消▶週労働時間20時間未満の短時間労働者への被用者保険の適用拡大──が挙げられている。さらにフリーランス・ギグワーカーの社会保険適用の在り方の整理も要請されている。
 年金数理人の小野正昭委員は、厚労省が示した資料を踏まえ、「1号被保険者の中に被用者が多い状況だ。被用者には被用者に相応しい制度を適用する原則から相当乖離した状態になっているのではないか。被用者保険の適用拡大の徹底が課題だ」と指摘した。第1号被保険者の就業状況を見ると、2020年で被用者が38.9%と最も多く、503万人いると推計されている。

厚生労働省資料

 UAゼンセンの永井幸子委員は、適用拡大の企業規模要件の速やかな撤廃と個人事業所の適用業種の検討を主張。そのうえで、第1号保険料とのバランスを踏まえた年収要件の引き下げや、雇用保険の加入要件を踏まえた労働時間要件の引き下げ、フリーランスなども含めたすべての労働者への適用に向けた議論を求めた。また日本経団連の出口博基委員も適用拡大の推進に賛意を表明し、適用拡大のメリットの広報を求めた。
 一方、日本商工会議所の小林洋一委員は、適用拡大の方向性に理解を示しつつ、「企業経営への影響」に対する配慮の必要性を訴えた。適用拡大による社会保険料の事業主負担が増加するとともに、第3号被保険者の従業員が労働時間を減らす就業調整を図ることで「人手不足を加速する」ことに懸念を示した。
 慶大教授の権丈善一委員は、週労働時間20時間未満の短時間労働者への被用者保険の適用拡大において、全世代型社会保障構築会議報告書では「国民年金制度との整合性等」を踏まえつつ検討を求めている点に触れ、「厚生年金保険の事業主負担のみを課す形にならざるを得ない」と指摘した。さらに、事業主負担のみで給付が厚生年金の半分になる制度を「厚生年金ハーフ」とし、週労働時間20~30時間のパート労働者に対して、本人負担分がある厚生年金とのいずれかを選択させるようにすれば、就業調整を行っている問題は解決するとした。
 大和総研の是枝俊悟委員も適用拡大を進めること支持。他方、「被用者の配偶者で収入が一定以下は保険料を免除する仕組みは議論の余地がある」と指摘し、第3号被保険者の見直しを訴えた。昨年12月22日の男女共同参画基本計画の計画実行・監視専門調査会における、お茶の水女子大学の永瀬伸子教授の主張を踏まえ、第3号被保険者のような保険料免除制度の対象を被用者の配偶者から「育児ために低収入・無収入になっている者」に変えることを検討するよう求めた。
 参考:内閣府男女共同参画局 計画実行・監視専門調査会(第20回)
   少子化対策の一環として、産前産後の国民年金の保険料免除期間について現在の4カ月から更に延長することを検討するように提案。さらにフランスにおいて子どもの人数により年金受給額を増額していることを紹介。そうした海外の取組みについて、「保険料を拠出するだけでなく、子どもを育てることも年金制度への貢献とみなして給付に反映する考えは検討に値する」と述べた。

第2回社会保障審議会年金部会(2023年3月28日)

基礎年金の基盤強化を指摘


    連合の佐保唱一委員は、基礎年金の見直しに言及。国庫負担を引き上げ、財政基盤を強化する一方、マクロ経済スライドの対象から外すよう提案した。
   立教大教授の島村暁代委員は、「基礎年金水準の低下を防ぎ、所得再分配機能の低下を防ぐためにはマクロ経済スライドの調整期間は(厚生年金と)一致する必要があるのではないか」と指摘した。
    また「遺族年金は原則終身で給付され、女性の高齢期を支えているが、本来の趣旨は何なのか。高齢期を支える給付は本来老齢年金ではないか。遺族厚生年金は男女とも配偶者の死亡直後の収入の激減に対して生活を保障する給付と整理して有期の形に特化するのも一案」と述べた。
   東北大大学院教授の嵩さやか委員も「老後の所得を支える上で基礎年金の意義は重要。その意義を再定義して基礎年金を強化することが重要だ」と指摘。遺族厚生年金の見直しにも触れ、受給要件の男女格差の解消などを課題とした。
   社労士の原佳奈子委員も遺族年金について、考え方から丁寧に時間をかけて議論するよう求めた。

 

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