第43回日本年金学会総会・研究発表会 基調講演「公的年金制度と労働供給」 講演要旨
公的年金制度と労働供給
清家 篤 氏
日本赤十字社 社長 / 慶應義塾 学事顧問
労働力人口の減少が公的年金制度の課題
年金制度については、大問題をかかえ、この問題解決しないと日本の社会保障は、どうにもならないという状況はすでに脱し、今はそういう状況ではない。年金は、医療や介護に比べてそれほど給付は増えないことが、年金の問題が大きく意識されていないことの一つ目の理由だ。二つ目の理由としては、年金は基本的には保険料や税金で財源を得て、そして、年金給付というお金で給付を行うといういわばお金の世界の中で完結する仕組みであるということだ。
ただ、年金について考えるべき課題がないのかというと、そのようなことはなく、さまざまな対処をしていかなければいけない問題がある。とくに社会保障制度の支え手を増やしていく観点からは、年金は課題を抱えている。
2040年だけで1,200万人以上労働力人口が減っていく。労働者数が減るということは、社会保障の財政的な持続可能性にマイナスの影響を与える。しかし、人口が減っても、その中で働く意思を持った人の比率、労働力率を高めることができれば、労働力人口は必ずしも人口とパラレルに減っていくわけではない。
厚生労働省雇用政策研究会の推計によれば、30代の女性や60代の男性の労働力率を引き上げることができれば、労働力人口は、何もしなければ1,200万人以上減るところを500万人程度の減少で抑えられる。
60代後半と女性の就労促進が必要
これからの年金と雇用の基本的なあり方を考えたときに、二つのあるべき姿がある。
一つは、マクロ経済スライドによる年金の財政的な持続可能性と、繰下げ受給による生活の持続可能性を確保するために、特に60代後半の就労を促進していくことだ。しかし、在職老齢年金制度は繰下げ受給による就労の促進効果を減殺してしまう。このように在職老齢年金制度は、ネガティブな効果が大きいので、できるだけ速やかに廃止すべきだと考える。
もう一つは、女性の就労と年金との関係についてだが、女性の就労について年金は、加入権、あるいは保険料負担において、就労に影響を与える。そうしたことから、年収の壁については、勤労者皆保険をできるだけ早くすすめていくべきである。まずは、規模要件はすぐにでも撤廃していただきたい。
全世代型社会保障という考え方
年金制度のような公的制度は、その制度をよく知っていると得するとか、知らないと損をするというようなことはあってはいけないものだ。気づかなくても給付を受けられるということが自動的に行われるべきだ。
大切なことは、給付・負担を社会保障において一体で考えなければいけない。また、社会保障改革は、社会保険制度の中だけでも解決はしない、税と一体で考えていかなければならないということがだんだんと共有されてきた。
また、社会保障制度の問題点は、決していわゆる世代間対立ということではない。むしろ給付と負担にバランスがあるのは、世代によって違うというよりは、1人の人間のライフステージのなかで、より多く負担する時期と、より多く給付を受ける時期があるというふうに考えていく。まさにそれが全世代型社会保障という考え方の背景にある。