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ヘルスケア産業PFが中間年薬価改定の廃止などを要請(2024年12月2日)

医薬品・医療機器関連の労働組合で構成するヘルスケア産業プラットフォーム(篠原正人代表、写真左から3人目)は12月2日、中間年薬価改定の廃止などを盛り込んだ薬価・材料制度改革を求める要請書を厚生労働省の内山博之医薬産業振興・医療情報審議官に提出した。

要請書(下記)では、①中間年薬価改定の廃止②各流通当事者が不採算に陥ることのない、安定供給に資する薬価・流通・材料制度の構築③イノベーション創出および良好な患者アクセスを実現する薬価・材料制度の構築④予防やセルフメディケーションを促す医療費控除制度の見直し――を求めている。

【要請書】
1. 中間年薬価改定の廃止

一部メーカーによるGMP違反に端を発し4年に亘って継続する医薬品の供給不安は、「中間年改定をはじめとする過度な薬価引き下げ」と「物価上昇コスト等の価格転嫁が実質不可能な産業構造」に伴う、企業体力低下や薬価制度の信頼性低下が影響していることは明らかです。
実際に、今年度ヘルスケア産業プラットフォームが実施したアンケート調査では、回答した全ての企業が「生産部門の人員が不足している」と回答し、労働条件の悪化を背景とする「採用競争力の低下」と「離職の増加」によって医薬品生産に必要な人員の確保すら困難となっている実態が浮き彫りとなりました。
また、医薬品流通担当者を対象に実施したアンケート調査では、84.4%の方が「医薬品の供給不安に伴う需給調整業務に最も時間を割いて対応している」と回答するなど、薬価制度の根幹を支える個々の医薬品の価値に基づく市場実勢価格の形成に十分な時間を割くことが出来ていない実態が改めて示されました。
さらに、政府を挙げて物価上昇を上回る賃上げの実現に取り組む中、医薬関連産業は他産業(他業種)と比較して低い賃上げ水準にとどまるなど、度重なる薬価引き下げと物価高騰の影響によって、特に医薬品生産の川上にある原薬生産や受託生産機関(CMO)、さらには医薬品卸において、物価上昇を上回る賃上げが困難な実態が明らかとなりました。
労働条件の悪化等を背景とした離職の高まりによる慢性的な人手不足が、さらなる離職や人手不足を引き起こすという負の連鎖も確認されており、我が国の安定供給を支える人材基盤そのものが失われつつあります。
そもそも、診療報酬改定がない年の薬価改定いわゆる中間年薬価改定は、2016年12月に当時の4大臣によって決定された「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に基づき実施されておりますが、本方針が決定された当時とは、前提や取り巻く環境が大きく変化しており、時代にマッチしていないことは明らかです。(以下に主な前提や環境の変化を抜粋)
終わりの見えない供給不安に終止符を打ち、品質の高い医薬品を安定供給し続けることができる体制を再構築するために、医薬品産業全体を疲弊させ、様々な歪みを生み出す要因である中間年薬価改定を廃止いただきますようお願いいたします。

2. 各流通当事者が不採算に陥ることのない、安定供給に資する薬価・流通・材料制度の構築
十分に流通改善が進捗していない中、度重なる価格引き下げ施策によって薬価や材料価格が過度に低くなってしまったこと、さらに医薬品や医療材料は公定価格が決まっているため原薬や生薬、原材料や燃料等の上昇分を価格転嫁することが実質不可能であることなど複合的な要因が重なり、今年度も多くの品目が不採算品再算定の対象となりました。(医薬品については特例の不採算品再算定が2年連続で実施)
しかしながら、不採算に限りなく近い製品は対象外となるなど、その効果は限定的であり、流通改善(単品総価、過大な値引き)が十分に進捗していない現状に照らすと今後も多くの品目が不採算に陥ることは想像に難くありません。また申請から不採算品再算定の適用まで約半年を要し、高い品質と安定供給が求められる医薬品や医療材料を長期に亘って不採算のまま放置することは不適切であると言わざるを得ません。
国民の命と健康に直結する医薬品や医療材料について不採算での生産を余儀なくされるような状況をなくすべく、以下のとおり、調査・検討を開始いただきますようお願いいたします。
≪薬価・流通制度改革≫
□急激な物価高騰など、安定供給に大きな影響を与える特殊な事情がある場合には、不採算が確実に解消されるよう、即時薬価を引き上げる仕組みを創設する。
□生産・出荷状況を管理するデータベースの構築
□最低薬価導入当時からの物価変動等を踏まえ、剤型ごとに定める最低薬価の引き上げを図る。
□不採算品再算定の対象は平均乖離率以下の品目となっているが、メーカーの関与できないところで単品総価の対象となり、大幅な値引きがなされ、不採算品再算定の対象から外れてしまうケースもある。適用可否の判断に当たっては、メーカーやCMOへのヒアリング等を丁寧に行ったうえで、判断を行う運用とする。
□また、薬価上の措置では直接的な恩恵を受ける事が出来ない原薬や中間体の製造業者や受託生産機関(CMO)や流通を担う医薬品卸等における実態を調査したうえで、薬価以外の対策を講じる。
≪材料制度改革≫
□医療上のニーズが高く、医療基盤を支える医療材料について、医療材料の特性を踏まえた価格下支えの制度(基礎的医療材料制度)を新設する。
□安定供給を図るために関係者の理解を得たうえで価格転嫁が実現しているケースについては、実勢価を適切に償還価格に反映する。(特定保険医療材料の保険償還価格算定の基準にある「改定前の基準材料価格を超えることはできない」の削除)

3. イノベーション創出および良好な患者アクセスを実現する薬価・材料制度の構築
医薬品や医療機器の研究開発は、モダリティ(治療手段)の多様化、AIやIoT技術の進展に伴い複雑化・高度化しており、多様な患者ニーズに応え、世界に先駆けてイノベーションを生み出すためには研究開発投資を継続的かつ迅速に行うことが可能な透明性と予見性のある薬価・材料制度改革が求められています。
また、再生医療等製品をはじめとする新規性や革新性が高い品目、さらには希少疾病を対象とした医薬品や医療技術など、既存治療が十分に確立されていないため、現行の価格算定基準では評価が難しいイノベーションの登場が今後も想定されます。とりわけ、世界に先駆けて超高齢社会が進展し、医療資源がひっ迫する我が国において、「公的介護費や生産性損失」や「医療従事者の省力化や安全性確保」、「医療の質の向上」にかかる有用性については、社会課題の解決という意味で極めて重要です。
以上を踏まえ、イノベーション評価の抜本的見直しに向けて調査・検討を開始いただきますようお願いいたします。
≪薬価制度改革≫
□シンプルに特許期間中の医薬品の価格を維持する運用へと見直しを行う。
□現行薬価算定方式には、類似薬効比較方式と原価計算方式の2つがあるが、いずれも、新規モダリティ医薬品のイノベーション評価として十分に機能しているとは言い難いことから、「我が国の社会課題の解決につながるようなイノベーション」や「世界に先駆けて生み出されたイノベーション」を積極的に評価し得る第3の価格算定方式あるいは加算制度を新設する。
≪材料制度改革等≫
□技術革新が早く、改良改善が繰り返されるという医療機器の特性を踏まえ、医療従事者の業務省力化・効率化に寄与し、働き方改革や負担軽減に資する医療機器・医療材料評価充実を図る。
□技術料に包括されて評価される医療機器のイノベーションの評価について、より予見性の高い制度を実現する。
□体外診断用医薬品についても、診断・治療に顕著な進歩改善をもたらす品目や検査プロセスが改善され医療従事者の業務省力化に寄与する品目、希少疾病等、検体数が少ないことが想定される品目については、加算的に評価する。
□安全性確保を意図したICタグ付きのコンビネーション製剤等、医療安全に寄与する製品等の評価を新設する。
≪プログラム医療機器の評価≫
諸外国の制度も参考にしたうえで、以下イノベーションについて加算評価を新設する。
□医療従事者の業務省力化・効率化に寄与し働き方改革や負担軽減に資する要素
□患者に提供される医療の質の確保や向上にかかる要素
□医療費の削減につながる要素(削減コストの半分を評価に回すなど)

4. 予防やセルフメディケーションを促す医療費控除制度の見直し
国民が健康や予防に対する意識を高め、その取り組みを促していく観点から、公費負担による定期接種の実施のみならず、自らに基づく任意接種による予防接種費用について、医療費控除の対象とするよう見直しをお願いいたします。
セルフメディケーション税制については、OTC医薬品の購入額から差し引く下限額12,000円の引き下げや所得控除上限額88,000円の引き上げ、対象品目をすべてのOTC医薬品・OTC検査薬に拡大する、妊娠出産や上述の予防接種にかかる医療費控除との併用を可能とするなど、利用しやすい制度への見直しをお願いいたします。
また、セルフメディケーション税制は、購入や服薬にかかる履歴管理が不十分なため活用が進んでいないとの指摘もあることから、医療DXを加速させ、医療用医薬品とOTCを一元管理する電子お薬手帳の導入などの検討をお願いいたします。

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