救急救命士によるエコー検査の実証について議論(2024年2月7日)
厚生労働省の救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会ワーキンググループ(児玉聡座長)は2月7日、救急救命士のエコー検査の実証について議論した。デジタル田園健康特区の岡山県吉備中央町と岡山大学病院が救急救命士のエコー検査の実証調査について提案し、特区での実証承認を求めたが、委員からは検査の安全性や教育・研修体制に関する課題が指摘された。【社会保険旬報編集部】
2021年の法改正で救急救命士が処置できる場所が病院前から救急外来までに延長されたことを受け、ワーキンググループでは救急救命処置の範囲の拡大と、それに伴う先行的な実証について検討している。現在、救急救命士が実施する救急救命処置の範囲等にエコー検査は含まれていない。したがって、まずは内閣府の国家戦略特区制度におけるデジタル田園健康特区内のみでの特例的な実施について検討し、2023年度中に一定の議論のとりまとめを行うこととなっている。
搬送中の一次評価が予後改善に資する
冒頭、吉備中央町と岡山大学病院が提案について発表した。救急車と病院との間で情報伝送を行う環境を構築した上で、重度傷病者のうち、主に腹痛や下腹部痛を訴えている傷病者や事故等で外傷が生じている負傷者、意識状態やバイタルサインが不安定な傷病者に対して、医師の判断に基づきエコー検査を実施することを想定。伝送の実施・未実施ごとの転送・転院発生件数や救急搬送における時間短縮効果を測定する考えを示した。
吉備中央町長の山本雅則参考人は、町内に二次救急病院がなく、傷病者の搬送に平均1時間以上を要するといった地域課題を抱えているとした上で、「全国の中山間地域にとって、地域医療や高度医療の不足は喫緊の課題。規制改革を実現し、住民に安心感を与えたい」と述べた。
岡山大学病院講師の牧尉太参考人は、「エコー検査は侵襲性がなく、操作や画像の判読補助の基礎的な能力があれば十分に対応可能。救急車での搬送中に病変の確認、一次評価を行うことで、適切な搬送先選定と早期の処置実現が可能となる。また、病院到着後に直ちに処置を実施することも可能となり、救命率の向上、予後の改善に資する」と実証の意義について説明した。
搬送中の検査実施に懸念
発表を受けて、日本医師会常任理事の細川秀一委員は、「健康な被験者が安静にしていればエコーは比較的当てやすいが、動いている車の中でエコーを当てるのは困難。救急搬送時の実証実施であれば、緊急走行や準緊急走行下で研修を実施する必要がある」と指摘した。
また、日本看護協会常任理事の井本寛子委員は、「救急車は揺れも大きく、狭い中で静止できない患者も多い。救急救命士はすでに車内でかなり多くの処置に対応している。そのような中で難易度の高いエコー検査をさらに行うことに対して、まだ理解できない」と、検査の安全性と難易度への懸念を示した。
仙台市消防局救急課長の佐々木隆広委員は、「ドクターカーがある都市や搬送時間が短い地域、一本部一病院のような搬送先が決まっている地域では、搬送中のエコー検査の必要性が低く、必ずしも全国一律で取り入れる処置にならないのではないか」と述べ、特区での実施にあたり日本全国でのニーズと有効性を検証する必要性を指摘した。
日本医療法人協会会長の加納繫照構成員は、「実証中にエコー検査をしなかったことで患者に不利益が生じた場合についてどう捉えるのか。医師の診断が間違っている場合、見落としの責任はどうなるのか」と質問。牧参考人は、エコー検査はあくまで診断補助とする方針だが、実証計画は今後も議論したいとの認識を示した。
救急救命東京研修所教授の田邉晴山委員は、「どこまでの症例を対象にするのか、どこまでの所見を救急救命士に求めるのか、明確化したほうがよい。対象を一定程度絞らないと難しいのではないか」と述べた。