生保受給者で医療上の必要性が認められない場合、後発薬処方となるため「特別料金」は発生せず――長期収載品の選定療養でQ&A(2024年8月21日)
厚労省は8月21日、10月から始まる「長期収載品の選定療養」と生活保護の医療扶助との関係などを整理した事務連絡「長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その2)」(以下「QAその2」)を発出した。生活保護受給者である患者が、医療上必要があると認められないにもかかわらず、単にその嗜好から長期収載品の処方や調剤を希望する場合、その長期収載品は医療扶助の支給対象とはならないことを明確にした。また、このような場合は原則として後発医薬品の処方や調剤を行うこととなるため、選定療養に係る「特別の料金」が発生するケースは生じないとしている。
生活保護受給者については、厚生省告示「生活保護法第52条第2項の規定による診療方針及び診療報酬」第二号にもとづき、「長期入院選定療養」以外の選定療養は医療扶助の支給対象とはならないこととされている。
また、生活保護法第34条第3項にもとづき、医学的知見に基づいて後発医薬品を使用することができる場合は、原則として後発医薬品の処方や調剤を行うこととされている。
以上により「QAその2」では、生活保護受給者である患者が単にその嗜好から長期収載品を希望した場合、選定療養に係る特別の料金を徴収するケースは生じないとした。
医療上必要があると認められる場合は医療扶助の支給対象
長期収載品の処方等を行うことに「医療上必要があると認められる」場合は、当該長期収載品は医療扶助の支給対象となる(QAその2・問7、問8)。
「医療上必要があると認められる場合」とは、7月12日付け事務連絡「長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)」(以下「QAその1」)において次の①から④までの4類型が示されている。
■医療上必要があると認められる場合
薬に係る使用感などについては、基本的には「医療上の必要性があると認められる」場合としては想定されていない(QAその1・問1、問3)。
令和6年10月1日より前に処方された長期収載品
令和6年10月1日前に処方された長期収載品であって、薬局に10月1日以降に処方箋が持ち込まれた場合や、2回目以降の調剤のためにリフィル処方箋または分割指示のある処方箋が持ち込まれた場合については、制度の施行前の取扱いとなり、選定療養の対象とはならない(QAその2・問2、問3)。
また、令和6年10月1日以降に、旧様式の処方箋で処方された長期収載品であって、後発品変更不可にチェックがあるものの、理由について記載がされていないものについては、薬局から処方医に対して疑義照会を行うなどの対応を行うこととされている(QAその2・問4)。
なお、医事会計システムの電算化が行われていないものとして届け出た医療機関・薬局については、薬剤料に掲げる「所定単位当たり薬価が175円以下」の場合は、薬剤名、投与量等は不記載でかまわないとされているが、医療上の必要性等により長期収載品を処方や調剤した場合の理由についても記載不要とされた(QAその2・問6)。
令和6年10月1日から始まる「長期収載品の選定療養」に係る対象医薬品
選定療養の対象となる長期収載品とは、後発医薬品のある先発医薬品(価格差のある後発医薬品があるもの。「準先発品」を含む)のことで、次の「1」または「2」の要件を満たし、長期収載品の薬価が、その長期収載品の後発医薬品(組成、剤形及び規格が同一であるものに限る)のうち最も薬価が高いものの薬価を超えているものとされている(令和6年保医発0327第10号掲示事項通知・第3の30⑵⑶)。
後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過した長期収載品(後発品置換え率が1%未満のものは除く)
後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過しない長期収載品であって、後発品置換え率が50%以上であるもの
対象となる長期収載品の詳細は、厚労省ホームページ「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」の対象医薬品リスト(厚労省マスタ)において示されている。
入院患者等は「長期収載品の選定療養」から除外
令和6年10月1日から始まる本制度の対象から除外されるものとしては、①入院患者、②長期収載品を処方等または調剤することに「医療上必要があると認められる」場合、③医療機関・薬局において、後発医薬品の在庫状況等を踏まえ、後発医薬品を提供することが困難な場合――が該当する。
上記①に関連して、「退院時処方」については、点数表留意事項通知で「退院時の投薬については、服用の日の如何にかかわらず入院患者に対する投薬として扱う」とされているため、入院と同様に取り扱うこととされ、対象から除外される(QAその1・問8)。
なお、在宅自己注射を処方した場合は本制度の対象となる(QAその1・問9)。
上記②については、具体的には処方箋の「変更不可(医療上必要)」欄に「✓」または「×」が記載された長期収載品は、「医療上必要があると認められる」ため保険給付の対象となり、本制度の対象にはならない。逆に、患者の希望を踏まえ銘柄名処方され、「患者希望」欄に「✓」または「×」を記載された長期収載品や、一般名処方され、患者が調剤を希望した長期収載品は、本制度の対象となる(令和6年保医発0327第10号掲示事項通知・第3の30⑹)。
②に関連して、「変更不可(医療上必要)」欄および「患者希望」欄の双方に「✓」または「×」がつくことは、通常は想定されていないが、仮にそのような場合があれば、薬局から処方医に対して疑義照会を行うなどの対応を行うこと。医療機関では、「変更不可(医療上必要)」欄に「✓」または「×」を記載した場合、「患者希望」欄には「✓」または「×」は記載しないこととされている(長期収載品の処方等又は調剤について(令和6年保医発0327第11号))ことから、「医療上の必要性がある」場合は、「変更不可(医療上必要)」欄にのみ「✓」または「×」を記載することとされている(QAその2・問1)。
上記③については、出荷停止、出荷調整等の安定供給に支障が生じている品目かどうかで判断するのではなく、あくまで、現に医療機関・薬局において、後発医薬品を提供することが困難であるかどうかで判断することとされた(QAその1・問10)。
公費、地単も「長期収載品の選定療養」の対象
国の公費負担医療制度の対象となっている患者が、長期収載品を希望した場合も、他の患者と同様に本制度の対象となる。
また、こども医療費助成(マル子)等のいわゆる地方単独の公費負担医療が対象となっている患者についても同様。この場合も、上記の「医療上必要があると認められる」場合に該当する場合は、従来通り、保険給付となる(QAその1・問11、問12)。
「長期収載品の選定療養」に係る掲示も必要
掲示事項等告示(平成18年厚生労働省告示第107号)において、「後発医薬品のある先発医薬品の処方等又は調剤に係る費用徴収その他必要な事項を当該保険医療機関及び当該保険薬局内の見やすい場所に掲示しなければならない」こととされており、その掲示事項については原則としてウェブサイト掲載が求められている。ただし、自ら管理するホームページ等を有しない医療機関・薬局はこの限りではなく、ウェブサイト掲載については、令和7年5月31日までの間、経過措置が設けられている。
この院内およびウェブサイトに掲示する内容については、参考として以下のポスターが紹介されている(QAその2・問5)。
患者負担総額は「特別の料金(消費税分含む)」+「自己負担」
本制度における患者負担の総額は、「特別の料金」に係る費用と、3割等の「自己負担」を合算した額となる。
「特別の料金」については、上記「厚労省マスタ」にある「長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1」の値を用いて、数量等に応じて点数表の算定告示に基づいて点数に換算する。その点数に10円(診療報酬では1点が10円とされているため)と消費税率10%を乗じて(保険対象部分でないため消費税の課税対象)計算する。
計算方法の考え方や詳細については、7月12日付の事務連絡「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養における費用の計算方法について」において示されている。実際の計算においては、四捨五入等の関係も踏まえ、上記「厚労省マスタ」の値により算出することとされている。
計算の具体例(イメージ)
例えば薬価100.0円のXX錠10mg(内服薬)、1日2錠30日分に係る費用(自己負担率3割)は以下の「A」から「E」までのとおり計算され、10月までとの差額は「F」のようになる。ただし、厚労省マスタの該当行は次の「1」から「3」までのとおりとする。なお〔 〕は説明用の注である。
後発医薬品最高価格:49.3
長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1:【a】12.68〔(100-49.3)÷4=12.675の小数第3位を四捨五入〕
保険外併用療養費の算出に用いる価格:【b】87.32〔100-【a】12.68〕
A:「特別の料金」に係る費用
①点数表算定告示に基づき点数に換算
所定単位(1剤1日分)あたり:【a】12.68円×2錠=25.36円⇒3点〔五捨五超入〕 ※薬剤料15円以下は1点
30日分:3点×30日=90点
②「特別の料金」に係る費用(課税対象、消費税率10%)
90点×10(円/点)×(1+0.10)=【A】990円
B:選定療養を除く保険対象となる費用
③点数表算定告示に基づき薬剤料に係る点数に換算
所定単位(1剤1日分)あたり:【b】87.32円×2錠 =174.64円⇒17点〔五捨五超入〕
30日分:17点×30日=510点(保険適用分点数)
④選定療養を除く保険対象となる費用:510点×10(円/点)=【B】5,100円
C:患者自己負担
⑤5,100円×0.30(3割負担)=【C】1,530円
D:保険外併用療養費
⑥5,100円×(1-0.30)=【D】3,570円
E:患者負担総額
⑦【A】990円+【C】1,530円=2,520円
F:患者の令和6年10月からの追加負担(9月までとの差額分)
⑧100円〔薬価〕×2錠=200円⇒20点、20点×30日分=600点⇒6,000円、6,000円×0.30(3割負担)=1,800円〔選定療養がない場合の費用〕
2,520円-1,800円=720円〔追加負担(差額)〕
変更後の医薬品マスターは9月6日公表予定
長期収載品を選定療養として処方した場合(処方箋を交付する場合を除く)、レセプトの「投薬」・「注射」欄に、その医薬品名の後に「(選)」を記載し、所定単位につき、選定療養に係る額を除いた薬価を用いて算出した点数を記載することとなっている。
レセプト記載も変更
また、長期収載品について、医療上の必要性があるため「変更不可」欄に「レ」又は「×」を記載して処方箋を交付する場合は、理由について、以下に示す項目を参照してレセプトに記載することとされている。
また、長期収載品の選定療養の対象となる場合、医薬品名の末尾に(選)を設定した「67」で始まる「医薬品コード」を使用して請求する。なお、長期収載品の選定療養に係るレイアウト変更後の医薬品マスターについては、令和6年9月6日(金)に公表予定となっている。