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新しい年金時代

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#数理の目レトロスペクティブ

数理の目レトロスペクティブ|#6 財政再計算と制度改正

 公的年金制度の財政は人口や経済等の社会経済環境の変化の影響を受ける。このため定期的な財政状況の検証が政府に求められてきた。これは、これまでは財政再計算の規定として知られ、昭和29年以来少なくとも5年に一度実施されてきた。  財政再計算の結果、年金財政の均衡が崩れていると判断されるときには、均衡を回復するための制度改正が行われてきた。この伝統は世界に誇っていい実績だと思う。アメリカでは毎年度財政検証を行うが、財政均衡が崩れていても制度改正はなかなか行われない。  しかしなが

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数理の目レトロスペクティブ|#7 制度改正と支給開始年齢

 人口の長寿化が進むと、老齢年金を何歳から支給するかについて見直すことが課題となる。長寿化そのものは慶ぶべきことである。しかしながら、終身年金を支給する公的年金制度にとっては、給付設計を見直さなければ長寿化は負担増の要因であり、財政的な持続可能性の問題に遭遇することとなる。  この場合、寿命が伸びた期間すべてを年金生活とするのは健全な社会の考え方ではないのであろう。とすれば、公的年金の支給開始年齢を引き上げることは自然な発想と言える。多くの国で長寿化が進行しているが、実際こ

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数理の目レトロスペクティブ|#8 支給開始年齢とドップラー効果

 今回は趣向を変えて、年金制度のような社会制度の中にも、自然科学的な現象が現れることを書いてみたいと思う。閑話をご容赦いただきたい。  前回(#7)では老齢年金の支給開始年齢について、高齢者の平均余命が伸びるときの制度改正の選択肢のひとつとして支給開始年齢を引き上げることが議論されることに触れた。この支給開始年齢の引き上げは、逃げ切り世代が発生するという問題点があるが、平成6年改正や平成12年改正のようにこれを実施した場合、光や音という波動の観測の際に現れるドップラー効果と

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数理の目レトロスペクティブ|#11 最終給与比例給付

 給付算定式のしめくくりとして、最終給与比例の算定式を取り上げてみたい。最終給与比例の算定式とは、退職直前の給与額、ないし退職直前の数年間の平均給与額に勤続年数により定められた乗率を乗じて年金額を計算する算定式である。  最終給与比例は職域年金、企業年金で使われる給付算定式で、公的年金で使われることはない。生涯の納付保険料が多いにもかかわらず、たまたま最終給与が低い人の給付が低くなることになり、世代内の公平性が保てないからである。  一方、企業年金の世界ではこの算定式が使

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数理の目レトロスペクティブ|#10 定額給付と報酬比例給付

 わが国の被用者は、高齢になったときには定額の老齢基礎年金と報酬比例の老齢厚生年金を受給する。ここで定額の給付とは、現役時の報酬に関係なく保険料拠出期間にのみ比例して支給される給付のことであり、報酬比例の給付とは、現役時の報酬と保険料拠出期間の双方に比例して支給される給付のことである。  被用者に対する公的年金給付はこのように定額給付と報酬比例給付を組み合わせることにより、現役時に報酬が比較的低かった人にも、ある程度の水準の給付を行うこととしている。一種の所得再分配であり、

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#21 公務員職域年金の給付設計の行方

 被用者年金制度を一元化する際に課題となるのが、公務員共済年金に存在している職域年金部分の取り扱いである。  昭和60年の年金改正で厚生年金と共済年金の給付額算定方式を揃えたときに、共済年金には厚生年金相当額の2割に相当する額を職域年金部分として上乗せすることとされた。それまでの共済年金は公務員制度の一環としての側面をもつとともに、また民間の企業年金の性格ももっていることからこのような措置が取られたのである。  当時国会に提出された被用者年金一元化法案は、附則において職域年金

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#20 公的年金と制度の分立

 公的年金には強制加入という基本原則がある。公的年金の目的は、老齢、死亡、障害による所得の喪失という人生における経済リスクに遭遇した人に給付を行うことによって、この人が困窮化しないようにすることである。また、強制加入の原則は、その給付を社会全体で支えるという考え方に由来している。   このような社会保険の仕組みが各国で導入されているのは、産業革命以来、都市部で発生した個人の責任によらない貧困問題を解決するために行われた試みのうち、自由市場を基本とする経済体制下でビスマルクが

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数理の目レトロスペクティブ|#19 給付の水準と制度分立

 わが国の公的年金制度は、1985年当時、10の制度に分かれ、就く職業により適用される制度が異なっていた。その後、徐々に統合が進んできたが、まだ完全ではなく、制度分立が継続している。そもそもなぜこのように多くの制度が分立し、職業で適用される制度が異なるようになったかという点は、おおむね4つの流れがある。  第1の流れは、明治政府が官吏恩給制度を導入したことである。これは一定年限公務に就いて退職した官吏や軍人に対する国の恩恵的給与という側面を持っていたが、やがて非官吏の公務員

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#18 公的年金制度の一元化

 今回からしばらくは公的年金一元化の課題を取り上げてみよう。  わが国に国民皆年金の枠組みが導入されたのは、国民年金制度が導入された1961年であった。国民皆保険の実現と並んで、社会保険制度が整備されていく大きな一歩であった。  この結果、1960年代には国民は国民年金、厚生年金、船員保険のほか7つの共済組合のいずれかに加入することとなったわけであるが、給付内容や保険料の負担が制度ごとに大きく異なるという問題点があった。  民間被用者に適用される厚生年金と公務員グループに適

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#17 積立金の役割――米国の場合

 公的年金における積立金の話を続けよう。  積立金保有国は、わが国のほかに、アメリカ、カナダ、スウェーデン、ノルウェー、韓国などがある。それぞれの積立金はその国のGDPに対し相当規模の金額になるので、運用の原則の確立に各国とも努力している。  そうしたなかで極めてユニークな運用原則を採用しているのがアメリカである。他の国々は資本市場で積立金を運用しているのに対し、アメリカだけは資本市場での運用を行わないことを原則としている。公的年金の積立金のような連邦政府の資金が民間の資

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#16 積立金の役割

 公的年金制度は、老齢・障害・遺族という人生における経済リスクに遭遇した人々が困窮化しないように、その時々に生産された財・サービスの一部を分配するルールであることは、これまでもしばしば触れた。その意味で、公的年金制度は基本的に強制的な所得移転の制度であり、その運営で積立金を保有する必然性はない。  もちろん歳入だけでは給付が賄えないとき、積立金を取り崩せば給付が行えるため保有価値は十分にあるが、仮に企業年金のように積立金を保有しても、それによって、公的年金制度が実現しようと

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#15 厚生年金の財政方式の変遷

 前回(#14)は厚生年金の財政方式が積立方式、すなわち平準保険料方式で出発したことに触れたが、今回はその後の変遷をたどってみることにしよう。  昭和29年の改正で、厚生省(当時)は平準保険料率を法律に規定することを提案したが、労使の強い反対に遭った。そこで段階的に保険料率を引き上げる計画を作ったうえでこの計画を法律に規定することを提案したが、これも反対されたため、その打開策として当面はこれまでの保険料率を据え置くが、少なくとも5年に一度、保険料率を見直す、とする財政再計算規

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数理の目レトロスペクティブ|#14 厚生年金の財政運営の特色

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数理の目レトロスペクティブ|#13 続・定義の大切さ

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