#18 公的年金制度の一元化
今回からしばらくは公的年金一元化の課題を取り上げてみよう。
わが国に国民皆年金の枠組みが導入されたのは、国民年金制度が導入された1961年であった。国民皆保険の実現と並んで、社会保険制度が整備されていく大きな一歩であった。
この結果、1960年代には国民は国民年金、厚生年金、船員保険のほか7つの共済組合のいずれかに加入することとなったわけであるが、給付内容や保険料の負担が制度ごとに大きく異なるという問題点があった。
民間被用者に適用される厚生年金と公務員グループに適用される共済組合では給付水準に差があり、官民格差が解消されるべき課題として議論されるようになった。また、自営業者・農業者等に適用される国民年金は、所得の捕捉が難しいことから、定額給付・定額負担の制度とされ、被用者に比べると給付水準は低く定められた。
一方、1970年代には、産業構造・就業構造の変化により現役被保険者が減少し、財政が不安定化する制度が出始めた。農業人口の減少に伴う国民年金の財政見通しの悪化、海運や漁業の従業員の減少による船員保険職務外年金部門の財政悪化、高速道路網の整備による鉄道輸送の減少から生じた鉄道共済年金の財政悪化が認識されるようになった。
こうした一連の格差是正問題と財政問題が絡んで、公的年金制度の一元化が課題とされるようになったのである。1985年の改正で、船員保険が厚生年金に統合され、国民年金は全国民に適用が拡大され基礎年金を支給する制度に再編され、厚生年金と共済年金は報酬比例年金を支給する制度として給付算定式が統一された。ただし、公務上の制約を考慮して厚生年金相当額の2割に相当する職域部分が共済年金には設けられることになった。その後、1997年には鉄道共済年金をはじめとする旧三公社共済年金が厚生年金に統合され、2002年には農林年金が厚生年金に統合された。
こうして、現在は全国民に国民年金が適用され、被用者にはさらに厚生年金もしくは3つの共済組合のいずれかが適用されることとなっている。さらに、小泉政権が郵政解散の後の総選挙で圧倒的勝利を収めた後、その強いリーダーシップのもとに被用者年金を一元化する閣議決定が2006年4月に行われ、それを受けて全被用者を厚生年金の被保険者とすることを軸とした法案が2007年4月に国会に提出されたが、(その当時は)まだ審議されるに至っていない。
以上が公的年金一元化のこれまでの動きであるが、このテーマについて議論する上で確認しておくべき事項がいくつかあるように思われる。①なぜ制度分立という事態になったのか、②社会保険制度の考え方と照らし合わせると一元化はどのようにとらえられるのか、③公務員の職務上の制約をどのように考えればよいか、④自営業者・農業者を含めた一元化をどう考えるか、という点である。これらを次回から順に議論してみようと思う。
[初出『月刊 年金時代』2008年11月号(社会保険研究所発行)]
【今の著者・坂本純一さんが一言コメント】
公的年金制度の一元化という課題については、2012(平成24)年に成立した「被用者年金制度の一元化を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(以下「被用者年金一元化法」)により、大きく前進したと言える。これにより、公務員、民間被用者を問わず、すべての被用者が厚生年金被保険者となり、経過措置を経て同一給付・同一負担が適用されることとなった。それまで共済年金制度と厚生年金保険制度に分かれていた制度が、厚生年金保険制度に一本化され、財政も統合されたのである。
ここから先は
¥ 100