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協会けんぽが第10回調査研究フォーラムを開催(2024年5月30日)

全国健康保険協会(協会けんぽ)は5月30日、都内で「第10回調査研究フォーラム」を開催した。医療の質の向上や医療費適正化に向けた有識者による委託研究と、協会けんぽ支部による調査研究の結果が発表された。開催に当たって北川博康理事長は、データ分析に基づく課題抽出・解決を協会けんぽの事業につなげていることに触れ、「データ分析に基づく事業実施を進めていくためには外部有識者に協力いただくことが不可欠」とあいさつした。

協会のデータも活用した研究を有識者が報告

協会けんぽは2021年度から委託研究に取り組みはじめた。本フォーラムでは、2022年度(第Ⅱ期)に開始した5件と2023年度(第Ⅲ期)に開始した4件、合計9件の中間報告が行われた。

指導内容の正確な入力、把握が必要

東京大学の井出博生特任准教授は、「協会けんぽにおける今後の保健事業等の基盤整備を目指した調査分析」を報告した。
「積極的支援」の終了者は中断者よりも翌年度の健診結果の改善度合いが高かったことなどを示した。一方で、保健指導内容について記載の欠損が多いことから、指導内容による効果検証のためにはデータ入力をより充実させる必要があるとした。

医療費地域差を転居者の受療行動から分析

上智大学の中村さやか教授は、「患者・供給者の行動変容と保険者機能強化による医療サービスの効率化」を報告した。医療費の地域差を生じさせている要因を分析するため、転居者を利用した要因分解を行った。
協会けんぽ加入者の住所情報の正確性を、住所情報と受診先の医療機関所在地との整合性を分析し、検証した。その結果として、住所情報はおおむね正確であるが、正確性が疑わしい個人を分析対象から除外すると転居による医療費の変化がより大きく推定されるとした。

疾患による周囲の人のうつ病発症の起きやすさを検討

京都大学の井上浩輔特定准教授は、生活習慣病とメンタル疾患の双方向的な関わりについて、新たに行った3つの研究結果を報告した。
第一の研究では、パートナーがCVD(心血管疾患)を発症した際に、どのような特徴を持つ集団がうつ病になりやすいかを機械学習モデルを用いて検討した。この結果、脆弱性が高い集団の属性として「女性」「基礎疾患が少ない」等が挙げられることを報告した。その他、糖尿病診断と自殺リスクの関連や、SGLT2阻害薬によるCVD予防効果の検討結果についても報告した。

受診勧奨により大腸がんの精密検査受診率が上昇

一方、支部の調査研究報告では、大阪支部が「レセプトを活用した職域がん検診の精密検査受診勧奨」を発表した。

大阪支部が提供した大腸がん検診において、2021年10月から2022年1月の4か月間に要精密検査の判定を受けた1万2434人から、先行研究の推定手法を用いて、検診受診から3か月以内の大腸内視鏡検査の未受診者9905人を介入対象者と推定。介入対象者に対して、検診受診から8か月後に精密検査の受診勧奨文書を郵送したところ、精密検査受診率が介入前後で35.4%から40.3%へと4.9ポイント上昇があったと報告した。

これらの研究結果から、職域における大腸がん検診において、受診勧奨の介入効果は明らかとの考察を示している。

(詳細は社会保険旬報本誌でもお伝えします)

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