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被用者年金の適用拡大を議論——第4回社会保障審議会年金部会

 第4回社会保障審議会年金部会が5月30日に開催され、今回から各論の議論に入った。この日の部会は「被用者保険の適用拡大」が議題とされた。

 被用者年金の適用拡大については、手取り収入が減ることなどを理由に、労働時間を調整するなどして、適用を回避する動きが短時間労働者のなかにみられる。企業にとっては、適用拡大が労働者の確保につながらず、人手不足に陥るケースも起こっている。
 この日、部会に提出された「「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」(企業郵送調査)及び「働き方に関するアンケート調査」(労働者Web調査)結果」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)によると、国民年金の第1号被保険者、第3号被保険者などの労働者に、「今後、更なる適用拡大が行われた場合の働き方の変化についての意向」を聞いたところ、「わからない」が56.1%であるものの、適用拡大を許容する働き方をするとの回答は24.9%、適用されないよう労働時間を短縮するなど適用拡大を回避する働き方をするとの回答は18.2%となった。

 こうした調査結果も踏まえ、委員からは、社会保険に加入することのメリットなどを情報提供することで、適用拡大を許容するよう働きかけることの重要性を指摘する意見が示された一方、社会保険は強制適用が基本で、就労調整することで適用を回避できることの問題性を指摘。強制適用を前提に、負担と給付のしくみのあり方を検討する必要性を指摘する意見もあった。
 これまで、適用拡大を拒んできた理由として、事業主の社会保険料負担が増えること以上に、適用されることで保険料が徴収され手取り収入が減ってしまうことに対して労働者自身が適用拡大に反対の声を上げてきたことが挙げられる。とりわけ短時間労働者では低い収入から保険料が徴収されることから、一般労働者に比べ負担感はさらに高まる。しかし、適用対象者はすべて加入し、すべての加入者の経済リスクに対応するのが社会保険の役割である。個人の選択で適用を回避できない強制加入の制度でなければ社会保険制度は基本成り立たない。手取り収入が低いことによる負担感を緩和するような保険料負担のあり方、それに応じた給付のあり方についての検討も、更なる適用拡大を進めていく上で必要になってきたようだ。

 また、この日の部会では、厚労省が今後の年金部会での議論の進め方についてスケジュール案を示した。それによると、令和5年夏から、次期制度改正に向けた主な検討事項について議論。令和6年1月、年金財政における経済前提に関する専門委員会が基本的な考え方をとりまとめて年金部会に経過報告を行い、それを踏まえ、年金部会では制度改正内容を盛り込んだオプション試算について議論。令和6年春、経済前提専門委は、内閣府の中長期試算や(独)労働政策研究・研修機構の労働力需給の推計も踏まえて議論をとりまとめ、年金部会に報告。それに基づき、厚労省は財政検証を実施。令和6年夏には、厚労省は財政検証結果を年金部会に報告。年金部会では制度改正の内容を議論し、令和6年末に、議論のとりまとめを行う予定だ。

厚労省が示した「次期制度改正に向けた主な検討事項(案)」

①総論的な事項

 公的年金の役割/多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方/公的年金と私的年金の連携/制度の周知、広報・年金教育
②現役期と年金制度の関わり
 被用者保険の適用拡大(勤労者皆保険)/子育て支援等/障害年金/標準報酬月額の上限
③家族と年金制度の関わり
 遺族年金/女性の就労の制約と指摘される制度等(いわゆる「年収の壁」等)/第3号被保険者制度/加給年金
④その他の高齢期と年金制度の関わり
 高齢期の働き方(在職老齢年金制度等)/基礎年金の拠出期間延長/マクロ経済スライドの調整期間の一致/年金生活者支援給付金

参考:厚生労働省ホームページ
「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」(企業郵送調査)及び「働き方に関するアンケート調査」(労働者Web調査)結果

年金部会における議論の進め方(案)

被用者保険の適用拡大


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