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#2|被用者保険の適用拡大(勤労者皆保険)の論点

高橋 俊之(たかはし としゆき)/日本総合研究所特任研究員、前厚生労働省年金局長

 2025年に予定される次の年金制度改正に向けて、厚生労働省の社会保障審議会年金部会の議論が行われています。日本総合研究所特任研究員で前厚生労働省年金局長の高橋俊之さんが、より良い社会に向けた年金制度の課題について、わかりやすく説明し、皆さんと一緒に考えていきます。

 連載の第2回の今回は、被用者保険の適用拡大(勤労者皆保険)の論点です。昨年5月30日の第4回年金部会で議論された「被用者保険の適用拡大について」と、9月21日の第7回年金部会で議論された「女性の就労の制約と指摘される制度等について(いわゆる「年収の壁」等)」の議論を振り返りながら、解説します。


1.週20時間以上の短時間被保険者の企業規模要件の撤廃

 被用者保険(厚生年金と健康保険)は、「所定労働時間及び所定労働日数が、通常の就労者のおおむね4分の3以上」という基準で適用されてきたため、短時間労働者の多くは適用対象外で、薄い社会保障のまま残されてきました。

 そこで、2012(平成24)年の法律改正により、①週労働時間20時間以上、②月額賃金8.8万円以上、③勤務期間1年以上見込み、④学生は適用除外、⑤従業員500人超の企業、という5つの要件の下で、短時間労働者への適用拡大が2016年10月から施行されました。

 前回の2020(令和2)年の年金法改正では、③の勤務期間1年以上見込みの要件を撤廃するとともに、⑤の企業規模要件を、2022年10月から100人超規模、2024年10月から50人超規模に引き下げました。

 当初は、企業規模要件は、2012(平成24)年改正法附則の「当分の間」の経過措置であることも踏まえ、撤廃が目指されましたが、中小企業の経営について配慮してほしいという事業者側からの声が強く、企業規模要件を撤廃した場合の約半数が新たに適用になると見込まれる50人超規模までの企業を対象とし、50人未満については、その後の検討事項とされました。

 2020年改正法案の国会審議の附帯決議でも、「当分の間の経過措置となっている企業規模要件については、できる限り早期の撤廃に向け、速やかに検討を開始すること。」とされており、昨年5月の第4回年金部会でも、多くの委員から、企業規模要件の撤廃をすべきとの意見がありました。

 昨年5月の年金部会の資料では、企業規模要件の撤廃により、130万人程度が適用拡大の対象となると推計されています。

 企業規模要件の撤廃は、2025年の次期年金制度改正で行われる方向と見込まれますが、撤廃のスケジュールが論点です。第4回年金部会では、早期の撤廃を求める意見が多かった一方で、中小企業の経営者の立場の委員から、企業経営への影響を考慮して、段階的に進めるスケジュールが重要という意見もありました。

 前回の法改正時に、次は企業規模要件の撤廃が課題となると予告されていたわけですから、準備期間は十分あったと考えられ、できるだけ早く施行することを期待したいと思います。

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