106万円の「年収の壁」を撤廃することに賛同多数――第23回年金部会
厚生労働省の社会保障審議会年金部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事、法学学術院教授)は12月10日、被用者保険の適用拡大における賃金要件の撤廃や、マクロ経済スライドによる調整期間の早期終了、遺族厚生年金の男女差解消について検討した。
被用者保険の適用拡大については、前回の検討を踏まえて、いわゆる「年収の壁」のうち、厚生年金への加入条件の一つとなる年収106万円(月額8.8万円)の賃金要件を撤廃する案を厚労省が示した。また、現行制度では従業員数51人以上とされている企業規模要件について50人以下の中小企業にも適用する案も合わせて提示。このほか、常時5人以上の従業員を使用する個人事務所で非適用業種となっている農業や林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業などについても適用の対象とすることを提案した。委員からはおおむね賛成する意見が多く出された。
基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了については、今年の財政検証で設定した経済前提のうち、経済成長が過去30年間と同程度で続くと想定した「過去30年投影ケース」の場合、2036年に基礎年金部分と報酬比例部分の調整期間が終了することになる。調整期間中、年金水準は一時的に低下するものの、調整期間終了後の所得代替率は2004年改正時と比較して6.0%のプラスとなり、就職氷河期以降の世代の年金水準確保に効果があることを厚労省が示した。
委員からは早期終了を行う際に、厚生年金の積立金が基礎年金により多く使われることになる点について慎重になるべきという意見や、一時的でも調整期間に年金水準が低下する点が不十分だとする意見などがあったものの、厚労省の案に賛同する意見が多く出された。
遺族厚生年金については、子のない妻には無期給付であるのに対し、55歳未満の夫には給付がなく、現行制度には男女差が生じている。この差を解消するため、厚労省は妻・夫ともに原則5年間の有期給付とする案を示した。見直し案に対する配慮措置として有期給付加算を設けて年金額を増額するほか、婚姻期間中の厚生年金加入記録を分割することで遺族の老齢年金を充実させる。また、年収850万円未満という受給要件を廃止し、収入にかかわらず受給可能とすることや、有期給付終了後さまざまな理由から生活の再建が難しい人に対しては5年目以降も継続給付が受給できるようにする配慮措置案なども合わせて示した。有期給付の対象者については、まず40歳未満の子のない配偶者とし、その後20年かけて60歳未満の人まで対象範囲を拡大していくため、現在の受給者や高齢者に影響はない。委員からは、おおむね賛成とする意見が多数出された。