見出し画像

#54|管理監督者の労働時間管理のポイント

竹内 潤也(たけうち じゅんや)
ドリームサポート社会保険労務士法人/特定社会保険労務士

労働分野の実務の参考となる情報を提供する「プロが伝える労働分野の最前線」第54回のテーマは、管理監督者の労働時間等の管理です。企業・組織において課長、次長、室長、部長、あるいは店長などの役職に就き、管理監督者とされる人の労働時間等は、どのように管理されているでしょうか。残業代が発生しない、出退勤の時間を本人の裁量に任せているなど、通常の従業員とは異なる管理をしている企業も多いと思われますが、法令に基づきドリームサポート社会保険労務士法人の竹内潤也さんがポイントを解説します。


管理監督者とは?

管理監督者について、顧問先様からの問い合わせがこれまでよりも多く寄せられている感覚があります。

管理監督者については、①管理監督者といえるかどうかの課題と、②管理監督者の労務管理はどうあるべきかの課題、の2つがあります。

根本的には、管理監督者とは? という①の管理監督者といえるかどうかの課題に集約されるのですが、②の労務管理についての問い合わせが多くなっていますので、今回はこちらを考えてみたいと思います。

管理監督者には残業代を払わなくてもよいだとか、休日を与えなくてもよいといった使用者側からの視点で語られたり、出退勤が自由で裁量的に働いてよいというような労働者側の視点で語られたりしますが、これらはいずれも「出口」の話です。
もともとどのようなルールであって、どうしてこれらの「出口」の話につながるのかが重要ですので、まずは条文を確認しましょう。

管理監督者に関する労働基準法の規定

(労働時間等に関する規定の適用除外)
第41条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
1(略)
2 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者(後略)
3(略)

労働基準法第41条を一部略記

「……労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の労働者(監督若しくは管理の地位にある者)については適用しない」と書いてあります。
この文面を見ると、労働者が法律の規定から解放されるように読めてしまいますが、実際の「労働時間、休憩及び休日に関する規定」を見てみましょう。

(休日)
第35条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

労働基準法第35条第1項

まず休日に関する規定では、「使用者は……与えなければならない」と、国から使用者への規制をかけている条文だとわかります。
これを第41条で、「……は適用しない」としているので、つまり、管理監督者については、休日に関して「国から使用者への規制」を適用しない、ということです。法律の規制から解放され自由になるのは、管理監督者本人ではなく使用者側ということになります。
これは労働時間や休憩などに関しても同様で、対象となるのは主に次の規定です。

(労働時間)
第32条 使用者は労働者に1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならない。
(休憩)
第34条 使用者は……休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
(時間外・休日の割増賃金)
第37条 使用者が、労働時間を延長し又は休日に労働させた場合においては、……の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

労働基準法第32条・第34条・第37条を一部略記

管理監督者の労務管理上、使用者はこれらの規定を守らなくても罰せられない、ということになるのです。労働基準法に書かれているのは以上です(省略した他の条文も同様に読むことができます)。

管理監督者に必要な労務管理

では、管理監督者に対して必要な労務管理はなにかと言えば、上記以外の労務管理の「すべて」ということになります。

例えば、年次有給休暇(法第39条)は法定通り付与しなければなりませんし、10日以上の付与であれば、一般の労働者と同様に年に5日は取得させる義務があります。
管理監督者には出退勤の自由があるということからいうと、違和感があるかもしれません。

また、深夜労働の割増賃金の規定(法第37条第4項)も適用除外に含まれていませんので、管理監督者が22時から翌朝5時までの間に労働した場合は25%以上の割増賃金を払わなくてはなりません。こちらも、出退勤の自由があるうえで、管理監督者本人の選択で深夜に労働したにもかかわらず、使用者に割増賃金の支払い義務が発生するという点に疑問を感じる方もいるかもしれません。

法第32条に関連して「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)も、管理監督者は適用除外とされていますので、一般の労働者と同様の労働時間の把握の必要はありません(つまり、どのように管理監督者の正しい深夜労働の時間の把握をすればよいのかについては示されていないということです)。

しかし、深夜労働の割増賃金を払うには深夜労働を行った時間数を把握しないと実務上給与計算ができませんので、この点では何らかの方法での労働時間の把握が必要です。

「管理監督者の働き方」のイメージからは違和感や疑問があるとしても、適用除外になっている事項以外の労務管理は行う、と考えれば理解しやすいのではないでしょうか。女性労働者の産前産後休業も同様に考えればよいでしょう。

ここまで、管理監督者の適用除外の定めとそれ以外の義務が残るものの主なものを見てきましたが、いずれも労働基準法上のものであり、それ以外の法律に基づく労務管理は、すべて一般の労働者と同様に行わなければなりません。

労働時間の状況の把握に関する安衛法の規定

労働時間に関する規定は、労働安全衛生法にも規定があります。

(面接指導等)
第66条の8の3 事業者は、(略)面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(略)の労働時間の状況を把握しなければならない。

労働安全衛生法第66条の8の3を一部略記

労働安全衛生法上では、労働者の健康管理のために「労働時間の状況を把握」しなければならないと定められており、管理監督者も適用除外にはなっていません。

よって、この規定に基づき、厚生労働省令で定める方法を用いて実務上は管理監督者であっても労働時間の状況を把握することになります。
厚生労働省令で定める方法とは以下のようなものです。

(法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法等)
第52条の7の3 厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法やその他の適切な方法とする。
※その他の適切な方法とは、使用者による現認など。これらを採ることができず、やむを得ない場合は適正な申告を阻害しない等の適切な措置を講じた上で自己申告によることが可能。
※記録は、3年間保存

労働安全衛生規則第52条の7の3第1項を一部略記(※は筆者が追記)

なお、一般の労働者についても、前述の労働基準法によるガイドラインに示された方法よりこちらの厚生労働省令の方法のほうが「厳しい」ため社内実務上も、労働基準監督署の指導上も、この方法を導入する必要があるのが現実です。

一般の労働者と管理監督者で分けることなく、労働安全衛生法による方法で、労働時間の状況を把握しましょう。

最後に

管理監督者は労働基準法の一部の規定から適用除外されるだけにもかかわらず、労務管理全般から対象外になるというイメージが使用者にも当の管理監督者にも、またその部下にも持たれがちです。
社内で「管理監督者とは」と共通して、管理監督者の労働時間についても示されたものがあるといいでしょう。


竹内 潤也(たけうち じゅんや)
ドリームサポート社会保険労務士法人/特定社会保険労務士

早稲田大学法学部卒、旅行会社に16年間勤務。2011年、たけうち社会保険労務士事務所設立。2013年、特定社会保険労務士付記。2015年、法人化(ドリームサポート社会保険労務士法人)。
約300社の顧問先企業のために労使紛争の未然防止、社内活性化のための人事制度構築支援、裁判外紛争解決手続代理業務、経営労務監査、創業支援(雇用と人材育成の視点を持った事業計画の策定支援)にあたる。
大学、新聞社、地方自治体、各種経営者団体での講演実績多数。東京都商工会連合会エキスパートバンク専門家。

ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。

ドリサポ公式YouTubeチャンネル
代表 安中繁が、労働分野の実務のポイントをわかりやすく解説している動画です。ぜひご覧ください。


社会保険研究所ブックストアでは、診療報酬、介護保険、年金の実務に役立つ本を発売しています。