#44|フリーランス新法と高年齢者のこれからの働き方
フリーランス新法とは
2023年5月、フリーランス新法(正式名称「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)が公布されました。この法律は、2024年11月までに施行される予定です。これによりどんな影響があるのでしょうか。詳しく説明します。
フリーランス新法でいう「フリーランス」とは
新法ではフリーランスを「特定受託事業者」と定義しています。特定受託事業者とは、組織に属しておらず、従業員を雇っていない個人の事業者のことです。法人化した一人社長も自分以外に役員や従業員がいない場合は当てはまります。自分の知識や技術、技能を生かし個人で事業を行うフリーランスは、多様な働き方の一つとして年々増加しています。
フリーランスと雇用との違い
労働基準法第9条では、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義しています。労働基準法の「労働者」に当たるか当たらないかは、この定義に基づき、以下の2つの基準で判断されることとなります。
上記の2つの基準により労働者性が認められるかどうかは、契約形態にとらわれず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要因から、個別の事案ごとに総合的に判断されます。
フリーランスに労働者性が認められれば労働基準法などが適用され、労働時間の管理や労働保険・社会保険への加入が必要となります。
フリーランスをめぐっては、不当な取引や、対等でない契約を強いられるなど、トラブルに巻き込まれる可能性が高いことが今までも問題視されてきました。よって、2018年頃より、一方が有利となるような一方的な取引、低い対価など、フリーランスを取り巻く課題が見直されることになりました。
個人で働くフリーランスは現状の労働関係法令で保護の対象とならないことから、より働きやすい環境を整備するために定められたのが「フリーランス新法」です。
フリーランス新法の概要
では、具体的にどんなことが定められたか、概要を確認していきましょう。
フリーランス相談窓口
フリーランス新法が施行される前であっても、契約、契約後の業務でトラブルになった場合、以下に相談することができます。
高齢者の多様な働き方
総務省統計局が毎年「敬老の日」にちなんで取りまとめている統計トピックスによると、総人口が減少する一方、高齢者人口(65歳以上の高齢者)は、2022年9月時点で3,627万人と、前年に比べ6万人増加し過去最多を記録しました。労働力調査(2021年)によれば、15歳以上の就業者総数に占める高齢者の就業割合は前年と同率の13.5%と、過去最高となっています。
私が所属する社労士法人にも定年退職後のフリーランス契約に関する相談が増えてきており、最近は、誰しもがフリーランスになり得る時代へと変化していっているように感じます。
高齢のフリーランスが増えているのは、2021年4月より高年齢雇用安定法の改正(通称「70歳就業法」)が施行され、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務となったことも関係しているでしょう。
この改正は、労働者一人ひとりの多様な特性やニーズを踏まえて、70歳までの就業機会の確保について、様々な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの措置を制度化する努力義務を求めるものです。70歳まで必ずしも正社員として雇うことを義務づけるものではありません。
就業には雇用だけでなく、業務委託、フリーランスや有償ボランティアなども含まれます。フリーランスとして、70歳まで継続的に業務委託契約をすることを、事業主としても従業員としても、選択肢の一つとしても考えてみてもいいかもしれません。
ただ、フリーランスになることで、今までの働き方とは変わります。労働者ではなくなるため、就業規則も適用外となります。お互い気持ちよく働くためにも、契約書にはフリーランスの委託内容、報酬などの条件をきちんと記載して、トラブル防止に努める必要があります。
例えば、クライアント側が求める業務ができなかった場合、何回までやり直しを頼むか、どんな役割を求めるか、を記載するなどが考えられます。
高年齢期には体力や健康状態に個人差があるだけでなく、家庭環境も様々です。「どれだけ働いて欲しいか」「どこまで働きたいか」を契約前に面談し、よく話し合いましょう。そして、契約書に記載しましょう。考えられるリスクを書き出して共有しておくことがリスクヘッジになります。
高年齢者が働きやすい職場は、他の社員にとっても働きやすく、社員の定着が望めます。いきいきと働く高年齢者の姿は理想の社員像にもなり得ます。
人生100年時代に、高齢者から若者まで、全ての人々に活躍の場があり、全ての人が元気に豊かな生活を送れる社会、安心して暮らせる社会づくりが社会全体に求められています。私たちは、個々の家庭環境や個人の能力、特性などを活かし多様な働き方を選択できる時代を生きています。だからこそ、会社が求めている範囲と働き手がどこまで仕事とするか、を言語化し、お互いに気持ちよく働けるように努めていきましょう。
高齢者の就労の場としてフリーランスを検討し、改めてフリーランスについて理解を深めることがその第一歩となります。
渡邉 早央莉(わたなべ さおり)
ドリームサポート社会保険労務士法人
社宅代行の不動産業や行政機関にて、契約関係・手続き業務等に従事。育児と仕事との両立に厳しさを感じる中、時間的制約があっても責任ある仕事をしたいとの思いを強くし、転職活動を開始。2021年、週4正社員®制度を実施しているドリームサポート社会保険労務士法人に入社。現在は国分寺支店にて主に顧問先企業の給与計算や社会保険手続を担当、後輩の指導にも力を注ぐ。周囲への感謝とチャレンジ精神を大切に日々業務に取り組みながら、当法人のフットサルチームにも所属しアクティブに活動している。
ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。
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代表 安中繁が、労働分野の実務のポイントをわかりやすく解説している動画です。ぜひご覧ください。