いわゆる「総合型DC」の実態把握を要請ーー第36回企業年金・個人年金部会
厚生労働省の社会保障審議会企業年金・個人年金部会(部会長=森戸英幸・慶応義塾大学大学院法務研究科教授)は7月31日、確定拠出年金(DC)制度の環境整備やアセットオーナープリンシプルの案などについて審議した。
DC制度の環境整備
簡易型DC制度は通常の企業型DCに統合する案が示される
DC制度については、中小企業向けに設立手続きを簡素化した「簡易型DC」制度を2018年に創設したものの、いまだに導入実績がない状況となっている。簡易型DC制度を導入しにくい理由としては、中小企業退職金共済制度とのすみ分けが不十分であることや、対象者が第2号被保険者全員とされているため役員等を対象外としたいというニーズに対応できないといった指摘がある。その一方で、必要書類等の削減などの設立手続きの簡素化は、引き続き中小企業でニーズがあるものと考えられることから、手続きの簡素化の一部については通常の企業型DC制度に適用し、簡易型DC制度については通常の企業型DCに統合する案が示され、この案を支持する委員が多数となった。
iDeCoプラスは要件について議論
中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)は、事業主が個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入する従業員の掛金に追加的に拠出する制度で、確定給付企業年金(DB)など他の企業年金制度を実施していない従業員300人以下の事業主が利用できる。厚労省はこれらの要件について見直しを行うかどうかという論点を示した。DBとの併用については委員によって賛否が分かれたが、従業員300人以下という要件については、全厚生年金保険適用事業所の99%をカバーしていることを踏まえ、まずは普及促進や加入者数の増加を優先させ、緩和しないという意見が多数出された。
制度として設けられていない「総合型DC」が中小企業で増加
企業型DCでは、2つ以上の事業主が1つの企業型年金を実施している場合、代表事業主が規約の承認・変更申請等を行うこととなっている。代表事業主が「総合型DC」と称して加入事業主を広く募っているケースがあり、このうち代表事業主が運営管理機関の関連会社である例も存在し、厚労省は、このいわゆる「総合型DC」の利用が中小企業で増加していると見ている。この状況に対して委員からは実態をまず把握するべきという意見が出されたほか、事業主の責任や中小企業が活用しやすいガバナンスについて考えるべきなどの意見が出された。
自動移換者対策に少額の払い戻しを認める意見が多数
企業型DCでは、加入者資格喪失後6ヵ月以内に移換等の手続きをしなかった場合、年金資産が国民年金基金連合会へ自動的に移換される仕組みになっている。しかし、国民年金基金連合会に資産処分の権限はなく、運用されず手数料負担によって資産が目減りし、将来の年金受給が十分に確保できなくなる。これまでも事業主への指導や自動移換者への通知など対応策を講じているが、自動移換者は毎年一定数の流入が続き、既存の自動移換者数と資産額が増え続けている状況にある。自動移換の新規発生を抑制し、既存の自動移換者対策として委員からは、少額の払い戻しは認めてもいいのではないかという意見があった一方で、手数料を上げたほうがいいという意見、企業の負担を考えてできるだけ自動移換にならない仕組みをどう考えていくのかといった意見が出された。
アセットオーナープリンシプル
法令・ガイドラインとの性格の違いを示す
前回、骨子が示されたアセットオーナープリンシプルについては、補充原則を追記した案が示された。厚労省は、パブリックコメントの取りまとめを行い、回答の公表とともに内容を確定するとしている。また、厚労省は、DBにおいては法令やガイドラインによって加入者等のための忠実義務等の各種規定が整備されているとし、これまでもアセットオーナープリンシプルの内容に整合的な運用がなされているとの認識を示した。また、アセットオーナープリンシプルは「法令やガイドラインと性格が異なり、アセットオーナーが受益者等の最善の利益を追求するために備えがあることを自ら点検し、ステークホルダーあるいは対外的に示すことで理解や対話、協働につなげ、運用力の向上を図っていくことに活用してもらうもの」としている。今後はアセットオーナープリンシプルの受け入れに関する具体的な表明の方法などについて周知に取り組む予定だ。
委員からは、アセットオーナープリンシプルの受け入れ表明について「基金型DBの場合、代議員会で決定するケースが多いことから、代議員・事業主・加入者の十分な理解を得るための時間について認識・配慮してほしい」との要請があった。