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75歳に達した日以後に、本来請求・繰下げの申出をしたらどうなるのか?

-これまで取り上げていない、ちょっと気になる事例-

長沼 明(ながぬま あきら)/浦和大学客員教授・前埼玉県志木市長

今月は、これまで取り上げていなかった、ちょっと気になる本来請求と繰下げ申出を取り上げていきます。

さて、すでに、2023年8月25日掲載の本稿で記しましたように、「繰下げみなし」には、「他の年金たる給付の受給権を取得した場合」(厚生年金保険法第44条の3第2項第1号)と、「75歳に達した日後に、繰下げ申出をした場合、75歳に達した日に繰下げ申出をしたとみなす場合」(厚生年金保険法第44条の3第2項第2号)があります。

 今月は、予告していたテーマをちょっと変更し、「75歳に達した日以後に、繰下げ申出をした場合、75歳に達した日に繰下げ申出をしたとみなす場合」の事例について、取り上げていきます。

 75歳に達した日以後に請求する場合

75歳に達した日以後に請求する場合ですが、イメージ図をみていただいたほうがわかりやすいので、【事例1】をご覧ください。

スマホの画面だと、スライドの文字が小さくなってしまって読みにくくなっていますので、同じ内容ですが、本文でも記しておきます。

(1)75歳に達した日以後(受給権発生日から起算して10年を経過した日以後)に、「本来請求」をした場合は、請求の「5年前の日」にさかのぼり、特例的な繰下げみなし増額が適用され、請求の「5年前の日」の翌月分から増額された年金が支給されます。

一方、(2)「繰下げの申出」を選択すると、75歳の時点で繰下げの申出を行ったとみなされ(「繰下げみなし」)、75歳に達した日の翌月分から増額された年金が支給されます。

80歳に達した日以後に請求する場合 

 80歳に達した日以後に請求する場合ですが、これもイメージ図をみていただいたほうがわかりやすいので、【事例2】をご覧ください。

同様に、スライドの文字が小さくなってしまって読みにくくなっていますので、同じ内容ですが、本文でも記しておきます。

 80歳に達した日以後(受給権発生日から起算して15年を経過した日以後)に、(1)「本来請求」を選択した場合は、特例的な繰下げみなし増額は適用されず、増額のない本来の年金額を受給することになります。

支分権が時効消滅している期間については、本来の年金額は支給されません。

 一方、(2)「繰下げの申出」を選択した場合は、75歳の時点で、繰下げ申出があったとみなされ、75歳に達した日の属する月の翌月分から増額された年金を受給することになります。

この場合もやはり、支分権が時効消滅している期間については、本来の年金額と繰下げ加算額は支給されませんが、【事例2】のイメージ図をみておわかりのとおり、このような事例の場合には、「本来請求」を選択するよりは、「繰下げの申出」を選択したほうが、受給する年金額の金額は大きくなります。

ちょっと気になる本来請求、5年前にさかのぼれるのか? 

 それでは、ちょっと気になる事例です。

「本来請求」(5年前にさかのぼって請求:特例的な繰下げみなしの申出)をすると、請求の「5年前の日」が、施行日前(令和5年4月1日)になる場合、特例的な繰下げみなし、は、適用されるのでしょうか?

【事例3】をご覧ください。

事例の概要は以下のとおりです。

【事例】 
・ 昭和27年(1952年)12月15日生まれの元・地方公務員(男性)。単身者。
・ 大学卒業後、市役所に任用。地方公務員共済組合の組合員(第3号厚生年金被保険者)となる 。
・ 平成24年(2012年)12月14日に60歳となり、平成25年(2013年)3月31日に市役所を定年退職。
・ その後は、平成25年(2013年)4月1日より、65歳<平成29年(2017年)12月14日>まで、民間企業で働く(第1号厚生年金被保険者)。
・ 令和4年(2022年)12月14日に70歳となる。
・ とくに、生活に困っているわけではなかったので、年金受給額を増やそうと思い、繰下げ待機をする。
・ 令和5年(2023年)12月14日に71歳となるが、ここで、繰下げの申出をするか、5年前にさかのぼって受給するか(本来請求:特例的な繰下げの申出)を考えるが、5年前にさかのぼると、 施行日の令和5年(2023年)4月1日よりも前に「特例的な繰下げ申出日」が到来することになるが、本来請求は可能か?

結論は、【事例3】のイメージ図・右下の緑色で網掛けした欄に記してあるとおり、「特例的な繰下げみなし日」(5年前の日)が、施行日である令和5年(2023年)4月1日前となる場合でも、「特例的な繰下げみなし」は、適用されます。

このことは、2023年6月23日掲載の本稿に記した通知文(年管管発0320第1号、令和5年3月20日付厚生労働省年金局事業管理課長名で、日本年金機構の事業企画部門担当理事・年金給付事業部門担当理事宛に発出された「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う年金の受給開始時期の柔軟化に係る事務の取扱いについて」 )の、「(3)経過措置等」の「④」に、次のように記されています(筆者が一部、文言を削除している)。

 「④ 施行日(令和5年4月1日)の前日において71歳未満(受給権発生日から起算して6年未満)である場合(略)には、特例みなし日が特例増額の施行日より前である場合についても適用する。」

 なお、「3号老厚」と「1号老厚」の本来請求(特例的な繰下げみなし)は、同時に行わなければなりません。

あわせて、【事例3】のイメージ図は、スペースの関係で、地方公務員共済組合の旧3階部分・経過的職域加算額(退職共済年金)は示せていませんが、旧3階部分・経過的職域加算額(退職共済年金)は3号老厚と一体的に取り扱われます。

すなわち、旧3階部分・経過的職域加算額(退職共済年金)も、「特例的な繰下げみなし」が適用されます。

 10月を過ぎると、そろそろ令和6年度の年金額がどうなるのか、気になり始める時期です。

「物価」と「賃金」から目が離せません。


長沼 明(ながぬま・あきら)/浦和大学客員教授・前埼玉県志木市長

地方公務員を中心に共済組合等の年金に関する第一人者。埼玉県志木市長を2期8年務め、市長在任中に日本年金機構設立委員会委員、社会保障審議会日本年金機構評価部会委員、日本年金機構のシンボルマークの選考委員を歴任。著書に『共済組合の支給する年金がよくわかる本』(年友企画)などがある。

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