一本化の処遇改善加算にケアマネ対象を求める声、新複合型には厳しい意見も――第230回介護給付費分科会(2023年11月6日)<その1>
厚生労働省は11月6日、第230回社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。
横断的事項である「介護人材の処遇改善等」「複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」のほか、各サービスでは「訪問介護・訪問入浴介護」「訪問看護」「訪問リハビリテーション」「居宅療養管理指導」といった訪問系サービスに加え、「居宅介護支援」がテーマとなった。
本記事では、横断的事項である「介護人材の処遇改善等」「複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」について紹介する。
介護職員処遇改善加算等3加算の一本化、ベースアップ等要件を全体に適用
介護人材の処遇改善等に関しては、「処遇改善加算の一本化」と「職場環境等要件等の見直し」が論点として挙げられ、対応案が示された。
介護職員等に対する処遇改善に関する加算は現在、介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算の3つが設定されている。
これについて、事業者の事務負担軽減・利用者にとってわかりやすい制度の確立・そして柔軟な事業運営をかなえる観点から、3つの加算の一本化した新加算を創設する。
具体的には、ベースアップ等要件に新加算全体に適用し、「介護職員を基本とし経験・技能ある職員に重点的に配分しつつも柔軟な配分を認める」職種間賃金配分ルールに統一するとともに、職場環境等要件を見直す案が示された。
なお、賃金改善方法の変更等の対応が必要な事業所のため、一定の移行期間(新旧加算を算定できる期間)を設ける考えだ。
また、「職場環境等要件等の見直し」に関しては、より実効性が高いものとする観点から、次の見直しを行う案が示された。
多くの事業所が要件(処遇改善加算は24項目中1以上、特定処遇改善加算は区分ごとに1以上)を超えた項目数の職場環境等改善の取組を行っている現状を踏まえ、取り組むべき項目数を増やす
現行の特定処遇改善加算の「見える化要件」について、職場環境等要件の各項目ごとの具体的な取組内容の公表を求める旨を明確化
年次有給休暇取得促進の取組内容を具体化(上司等からの声かけ・業務の属人化の解消等)
研修受講支援の対象に、介護福祉士ファーストステップ研修・ユニットリーダー研修を追加
職場環境等要件のうち「生産性向上及び経営の協働化」に係る項目についても、拡充を検討するものとしている。
なお、現行の職場環境等要件は次の通り。
一本化に反対意見は出ず、算定要件にはさらなる検討が必要か
厚生労働省から示された3加算の一本化について、委員からの反対意見は見られなかった。
しかし、職場環境等要件などその算定要件に関しては、それぞれの立場から様々な意見が寄せられた。
健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員は、取り組むべき職場環境等要件の項目数を増やすだけでなく「必ず実施するべき項目」を設けることを提案した。
一方、全国老人福祉施設協議会の古谷忠之委員は、多くの事業所がクリアしている要件を廃止するなど、要件の一層の簡素化を求めた。
また、加算の対象者に関しては対象職種の拡大、特に介護支援専門員を含めた処遇改善を求める声が相次いだ。
日本介護支援専門員協会の濵田和則委員は資料を提出。それをもとに、介護支援専門員の確保困難な状況や、居宅介護支援事業所の介護支援専門員の給与差などを示し、他の職種も含め処遇改善加算等の対象とするよう求めた。
こうした加算の対象拡大に関しては、他の複数の委員からも賛同の意見が寄せられた。
新複合型案:訪問介護員等2.5人以上・登録定員29名以下で報酬は包括
続いて、「複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」に関する議論が実施された。これは、「訪問介護」と「通所介護」を組み合わせた地域密着型サービスを、複合型サービスとしてを創設する案。
「訪問」と「通所」における利用者の態様を把握した上で随時共有、きめ細かなサービスの提供を行うことで生活機能の維持・向上を図り、在宅生活が継続できるよう効果的かつ効率的なサービスを行うことを目的としている。
この新たな複合型サービスに関しては、次のような「人員基準」「設備基準」案が示された。
訪問介護事業所の指定を合わせて受け、一体的に運営されている場合は、訪問介護員に関しては双方の基準を満たす特例を想定している。
さらに「運営基準」案では、①6月に1回以上開催する運営推進会議を設けること、②居宅介護支援事業所の介護支援専門員が作成したケアプランに基づきサービス提供を行うこと、③上記介護支援専門員との連携のもと、個別サービス計画で利用日時等について決定することが示された。
なお、基本報酬については時間区分にとらわれないサービス提供を行う観点から、要介護度別の包括払いに。現行の訪問介護・通所介護を基本としつつ、包括報酬等の特性を踏まえた加算・減算を設定する。
報酬に関する詳細については今回の議論を踏まえ、次回提案する考えが厚生労働省から示された。
訪問介護の人材不足対策なら通所介護の規制緩和で、複数の委員から否定的意見
全国老人クラブ連合会の正立斉委員は自身の介護経験を踏まえ、利用者の負担軽減につながるとしてこの複合型サービスを歓迎。前向きな議論を求めた。
一方、このサービスの設立については、その効果を疑問視する声も相次いだ。
全国老人保健施設協会の東憲太郎委員は、訪問介護の人材不足対策として新たに複合型サービスを作るのなら、「現存の通所介護事業所が訪問介護もできるよう規制緩和をしては」と提案した。
既存の通所介護事業所がこのサービスを立ち上げる場合、新たに地域密着型サービスとして市町村の指定を受ける必要がある。こうした手間を踏まえると、複合型サービスの立ち上げが、既存の訪問介護事業所の人材不足対策となるのは難しいとの考えだ。
慶応義塾大学大学院の堀田聰子委員も新類型の立ち上げに慎重な立場を示し、規制緩和などを進めながらパイロット的に検証していくプロセスが必要ではとの考えを示した。
こうした意見は、ほかの複数の意見からも挙げられた。
新たな複合型サービスの動向とあわせ、訪問介護・通所介護の在り方にも注目したい。
第230回社会保障審議会介護給付費分科会における各サービスに関する議論については、別の記事で紹介する。