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訪問介護・居宅介護支援等における同一建物利用者への提供などが争点に――第230回介護給付費分科会(2023年11月6日)<その2>

厚生労働省は11月6日、第230回社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。

テーマは横断的事項である「介護人材の処遇改善等」「複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」のほか、各サービスでは「訪問介護・訪問入浴介護」「訪問看護」「訪問リハビリテーション」「居宅療養管理指導」「居宅介護支援」が対象となった。

本記事では、各サービスのうち「訪問介護・訪問入浴介護」と「居宅介護支援」について紹介する。


訪問介護は特定事業所加算、訪問入浴介護は新加算で看取り期対応を評価

訪問介護・訪問入浴介護においては、「看取り期の利用者への対応」が論点となった。

訪問介護では約4割の事業所が、訪問入浴介護では約6割の事業所が看取り期の利用者へサービス提供をしている。

こうした背景を踏まえ、訪問介護では特定事業所加算における重度者対応要件として、「看取り期にある者」に関する要件を新たに追加する案が提示された。

現行区分の整理統合と併せて要件を見直すという対応だ。

一方、訪問入浴介護では、看取り期の利用者への対応に係る多職種との連携体制の構築や長く要するサービス提供時間を踏まえ、新加算を設ける案が示された。

加えて、訪問介護では「同一建物等居住者にサービス提供する場合の報酬」が論点となり、対応案が示された。

訪問介護では、サービス付き高齢者向け住宅等の建物と同一の建物に所在する事業所が、当該住宅等に居住する一定数以上の利用者に対しサービスを提供する場合の評価を適正化のため、平成24年度の介護報酬改定より同一建物減算が導入されている。

同一建物減算の算定実績のある事業所では、減算を算定する利用者のみにサービス提供する事業所が半数以上あり、同一建物等居住者へのサービス提供割合が多くなるにつれ訪問件数の増加や移動時間等の短縮がみられていた。

こうした背景から、「現行の同一建物減算について、事業所の利用者のうち、一定割合以上が同一建物等に居住する者への提供である場合には、段階的に報酬の適正化を図る仕組みとして、更に見直す」との対応案が示された。

集合による効率化と減算の在り方に焦点、中山間地域等では新たな評価も

訪問介護における「同一建物等居住者にサービス提供する場合の報酬」に関しては、健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員が効率化・適正化の観点と、サービス提供の実態を踏まえた意見として「減算をさらに推進するべき」と主張した。

一方、同一建物減算について疑問視する意見も複数挙がった。

日本慢性期医療協会の田中志子委員は「点在する独居高齢者や老老世帯に対する支援策の一つとして在宅系施設への住み替えが進められた経緯がある」との認識を示し、集合により効率が上がったために報酬を引き下げるという減算の在り方が正しいのかと疑問を呈した。

民間介護事業推進委員会の稲葉雅之委員も、24時間スタッフを常駐させることで安否確認等のコミュニケーションを図る集合住宅の運営について言及。
訪問介護の隙間を埋める大切なコミュニケーションを維持するために、訪問介護の報酬がある程度確保される必要があると訴えた。

このほか訪問介護では、「中山間地域等における移動距離等を踏まえた報酬の見直し」が論点となった。

現在サービス確保が困難な中山間地域等に事業所が存在する場合・利用者が居住する場合には、特別地域加算等により評価している。

しかし、中山間地域等であっても加算の要件に該当しない場合があることから、非効率にならざるを得ない事業運営で利用者へサービス提供を継続的に構築している取り組みを、新たに評価することが提案されている。

居宅介護支援等でも「同一建物利用者へのケアマネジメント」など7つが論点に

居宅介護支援に関しては、「医療介護連携の推進」「ケアマネジャー1人当たりの取扱件数」「同一の建物に居住する利用者へのケアマネジメント」など7つが論点として挙げられた。

今後、医療・介護双方のニーズを有する高齢者の増加が見込まれることから、医療はより「生活」に配慮した医療が、介護はより「医療」の視点を含めたケアマネジメントが求められる。

「医療介護連携の推進」ではこの、「医療」の視点を含めたケアマネジメントを推進していく観点から、次の対応が提案された。

  • 入院時情報連携加算の要件を入院当日中または入院後3日以内に情報提供した場合の評価とする(現行では入院後3日以内または7日以内)

  • 通院時情報連携加算について、利用者が歯科医師の診察を受ける際に同席した場合も対象とする

  • 現在末期の悪性腫瘍患者に限るターミナルケアマネジメント加算の対象疾患を限定しないものとする(あわせて特定事業所医療介護連携加算におけるターミナルケアマネジメント加算の算定回数要件を見直す)

「ケアマネジャー1人当たりの取扱件数」については、拡大する案が示された。

居宅介護支援費(Ⅰ)の逓減制が適用される件数を現行の40件から45件にするとともに、事務職員配置・ケアプランデータ連携システムの活用により業務効率化を行っている場合に居宅介護支援費(Ⅱ)の逓減制を現行の45件から50件とするよう緩和する。

さらに、要支援者を担当する場合は利用者数に2分の1を乗じて参入しているが、3分の1を乗する形に見直す。

なお、これ踏まえ運営基準も整合性を図る観点から見直す案となっている。

「同一の建物に居住する利用者へのケアマネジメント」に関しては、居宅介護支援においても、利用者が事業所と併設・隣接しているサービス付き高齢者向け住宅等に入居している場合や、複数の利用者が同一の建物に入居している場合に、実態を踏まえた評価とすることが挙げられた。

ケアマネジャー1人当たり1月間の労働投入時間を見ると、居宅介護支援事業所と併設・隣接しているサービス付き高齢者向け住宅に入居している利用者と入居していない利用者とで差異が見られることなどから、提案されたものとなっている。

逓減制(Ⅰ)は40件から45件など、1人当たりケアプラン担当件数拡大を歓迎

全国老人福祉施設協議会の古谷忠之委員は「医療介護連携の推進」のうち、入院時情報連携加算の要件の見直しについて懸念を示した。

できるだけ早期の情報提供の重要性に対し理解を示しつつも、「入院が勤務終了後の時間や休業日であると当日の対応は非常に困難」と、ケアマネジャーの負担増に配慮を求めた。

一方、ターミナルケアマネジメント加算の見直しに関しては、人生の最終段階における利用者の意向を適切に把握することを要件とした上で、対象疾患を限定しない取り扱いに賛同を示した。

「ケアマネジャー1人当たりの取扱件数」に関しては、全国老人保健施設協会の東憲太郎委員は、ケアマネジャーの人員不足の観点から見直しについて賛成。一方で、業務負担の増加に見合った賃上げの観点から「処遇改善が必須」との考えを示した。

日本介護支援専門員協会の濵田和則委員も、逓減制の適用により「賃金への反映や職場環境改善に活かせる取り組みを期待できる」と歓迎した。

一方、一部市町村の運営基準において異なる取り扱いとするローカルルール(1人35件以上担当できないなど)が見られるとして、整合性を図るよう求めた。

また、「同一の建物に居住する利用者へのケアマネジメント」については、訪問介護における「同一建物等居住者にサービス提供する場合の報酬」と同様、慎重な意見が複数挙げられた。

濵田委員は、労働時間減少は併設サービス事業所等との連絡調整の効率化や各種生産性向上の取り組みによる効果であるとし、「各事業者従事者による生産性向上への取り組みの努力を否定する」ことになるとし、導入の見合わせを訴えた。

オンラインモニタリングの活用や事業所連携により、居宅訪問は2月1回に


居宅介護支援・介護予防支援については、前に挙げた3つのほか「他のサービス事業所との連携によるモニタリング」「介護予防支援の円滑な実施」「公正中立性の確保」「質の高いケアマネジメント(特定事業所加算の見直し)」の4つが論点となった。

「他のサービス事業所との連携によるモニタリング」は、利用者の状態に応じて、テレビ電話装置等を活用したモニタリングを可能とするもの。

具体的には、次の要件が挙げられている。

利用者の同意を得ること
サービス担当者会議等において、主治医、サービス事業者等から以下の合意が得られていること
・利用者の状態が安定していること(主治医の所見等も踏まえ、頻繁なプラン変更が想定されない等)
・利用者がテレビ電話装置等を介して意思表示できること(家族のサポートがある場合も含む)
・テレビ電話装置等を活用したモニタリングでは収集できない情報については、他のサービス事業者との連携により情報を収集すること
少なくとも2月に1回(介護予防支援の場合は6月に1回)は利用者の居宅を訪問すること

「介護予防支援の円滑な実施」では介護予防支援における「他のサービス事業所との連携によるモニタリング」に加え、管理者を主任ケアマネジャーとすることや、ケアマネジャーのみの配置で事業を実施できるようにすることが提案された。

報酬においては、居宅介護支援事業者が指定を受けて行う場合に、市町村長に対し介護予防サービス計画の実施状況等の情報提供を運営基準上義務づけるとともに、これに伴う手間・コストを基本報酬上評価する。

また、居宅介護支援事業者が指定介護予防支援を行う場合は、居宅介護支援と同様に特別地域加算、中山間地域等における小規模事業所加算、中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算の対象とすることが提案された。

このほか、事業者から利用者に対する説明義務(前6月間に作成したケアプランにおける訪問介護等各サービスの利用割合など)を努力義務に改める「公正中立性の確保」のほか、特定事業所加算の主任介護支援専門員等の専従要件を介護予防支援等との兼務を可能とする要件緩和などの「質の高いケアマネジメント(特定事業所加算の見直し)」が提案された。


次回の第231回介護給付費分科会は11月16日(木)午前中に開催予定。

横断的事項である「介護人材の処遇改善等」「複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」や「訪問看護」「訪問リハビリテーション」「居宅療養管理指導」については、別の記事で紹介する。

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