#52|働き方の未来②~会社は大介護時代をどう支える?~
大介護時代の到来
少子高齢化が過去にないスピードで進行していますが、ビジネスケアラーを取り巻く介護問題も「まったなし」の状況です。
大介護時代の到来と言われ、12年後には国民の3人に1人は65歳以上となると予測されています。また、介護等が必要な期間を示す平均寿命と健康年齢寿命との差は、約10年あると言われています。
ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族を介護する人たちのことです。
仕事と介護の両立は難しく、介護離職につながってしまうことも多いため、企業の適切なサポートが必須です。
前編で、管理監督者も介護休業や介護休暇の取得が可能と申し上げましたが、最近は介護の問題に直面する責任世代と呼ばれる人たちが増え、働き方や休み方、給与などに関する、具体的なご相談を顧問先から数多くいただくようになりました。
今回は、介護を支える会社の未来について考えてみます。
介護休業に関連するおさらい
まず、介護に関連する制度について確認しておきましょう。
介護休業
要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護する労働者は、介護休業を取得することができます。
取得回数は対象家族1人につき3回まで、申し出は原則休業開始予定日の2週間前まで、取得期間は対象家族1人につき通算して93日までです。介護のほか、施設入所など、介護の状況を整えるために使われることが一般的です。
介護休業給付金
雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす人は、介護休業期間中に休業開始時賃金日額の67%相当額の介護休業給付金が支給されます。雇用の継続を援助、促進するための給付です。
介護休暇
労働者が要介護状態にある対象家族の介護や世話をするための休暇です。通院の付添いや介護サービスの手続代行の場合などでも利用でき、ケアマネジャーなどとの短時間の打ち合わせにも活用できます。
対象家族が1人の場合は年5日まで、2人以上の場合は年10日まで、1日または時間単位で取得できます。
働きながら介護をしやすい雇用環境を整備し、職業生活と家庭生活の両立を図るようにすることが、事業主にも求められています。
育児・介護休業法の改正
2025年の4月には、介護に関する以下の改正が予定されています。
男性育休のときと同様に、両立支援の仕組みを周知し、意向の確認が求められます。
経済産業省も「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を先日公表しました。ガイドラインでは、企業が取り組むべき事項をステップごとに示しています。
まずは、ステップ1で経営者のメッセージを発信し、次にステップ2で自社の実態の把握と適切な目標設定、最後にステップ3で会社が積極的に情報発信をする、という流れです。
例えば、研修を実施したり、相談窓口を設置するというような、段階的で具体的なステップです。もちろん、より積極的に、会社独自の制度を用意することも有効でしょう。
介護休業・介護休暇の制度はわかりにくいため、50歳代の社員だけでなく、40歳代の社員にも早期に説明しておくようにしましょう。
介護は突然始まる場合もあります。また、若年性認知症や子どもの障害など、必ずしも高齢期のサポートだけにとどまりません。
法改正事項の中にもあるように、介護に直面する前の早い段階で、支援制度等に関する情報提供が必要なのです。
ここまで法改正としての国の対応を見てきましたが、次に、貴社の環境をどこまで整備しますか? という問題について考えます。
法改正を超えて自社はどうするか
貴社は、社内の介護を取り巻く環境や状況について把握できていますか?
いくつか代表的なケースについて見ていきます。
ケース①前時代的な意識や前提があるケース
「介護は女性が担うべき」「育児は母親が担うべき」「男性が時短勤務、ましてや育児休業や介護休業なんてあり得ない」など、無意識の思い込みや前提はないでしょうか?
そのような空気が社内にあると、上司が初動を間違ってハラスメントに発展するケースもあるので注意が必要です。
ケース②不公平感が存在しているケース
小さな摩擦や壁があるケースも多いです。
介護は育児と違っていつまで続くのか予想がつかないうえ、介護の状況は十人十色です。
周囲の人は、介護が大変なのはわかっているものの、業務の負担が増えれば結果として「またなの?」「いつになったら元のように働けるのかしら」という態度を匂わせ、休業を取得する側も「これ以上迷惑をかけられない」「わかってもらえない」と感じ、「もっと大変になってから相談しよう」と心を閉ざしてしまいがちです。
ケース③配慮しすぎでぬるい職場になってしまうケース
配慮は十分な職場であっても、成果や目標へのコミットがなければ、不公平感はさらに広がり「ぬるい職場」になってしまうリスクもあると考えます。貴社のビジョンや目標達成へのマネジメントは引き続きしっかり行いましょう。事情があるからこそ、目標達成にどのような支障があり、どのような配慮が必要か、面談もこまめに行うことが必要です。
ケース④信頼関係があり、チームで対応できる理想的な職場のケース
実は私も現在、義父の遠方施設介護と実両親の遠方介護に向けての準備を体験中です。兄弟姉妹や親戚、近所の人と力を合わせることの大切さや、一人で抱えずチームで対応する力を実感する毎日です。
職場でも困ったときには他の従業員の力を借りるなど、チームで対応する力がますます重要となってきます。そんなときに必要なのは、日頃の関係性の構築であり、なんでも話せる心理的安全性であり、自分の強みを活かしてチームに貢献できることなのではないでしょうか。
想像力を働かせ、互いを思いやる寛容力、社員同士の関係性を含めた会社の雰囲気(ソフトの部分)も醸成することが、制度(ハードの部分)を機能させ、活かすことになると考えます。そこには人材確保のヒントも隠されていると言えるでしょう。
介護に対する制度を、早期から整理している会社もあります。
例えば、管理監督者が介護休業を取得した場合に、休んでいる期間の役職手当など月単位で支給されている手当を減額すべきか否か、という問題が起こります。これについては、会社が決めればよいことなのですが、このような状況を想定し、給与規定などで事前の準備をしっかりしていることで、対応できます。
個人の生き方を会社が支持する新しい会社のあり方
今般、週10時間以上の労働者へ雇用保険を適用拡大する改正が、令和10年10月1日に施行されることが決まりました。多様性の時代も見据えた法改正とも言えます。
自己都合退職者の失業給付の給付制限期間を原則2ヵ月から1ヵ月にするという改正もあります。背景にあるリ・スキリング(=学び直し)への取り組みを想定し、その支援を充実させています。
今後は、法改正に振り回されるのではなく、早めにTo Be(企業としてどうありたいか)を考え、現状の課題やギャップをとらえ、To Do(やるべきこと)を決めるアプローチがますます大切になります。
人生の節目となる場面で、それぞれの選択や価値観を見つめなおす個人を、会社はどう支えられるのか、後押しできるのか。法改正の周知の際には、会社としてのメッセージも添えて伝えられるように今から準備してはいかがでしょうか。
鎌田 良子(かまた りょうこ)
ドリームサポート社会保険労務士法人/特定社会保険労務士
大手金融機関に15年間勤務、総務経理マネージャーとして勤務体系の整備や、人材育成に携わる。 出産を機に、働く女性の両立支援、子どもの教育支援などの長期的なキャリア目標の実現に向けて、社労士業界へ転身を決意。社会保険労務士事務所エスパシオを経て、2015年法人化に伴いドリームサポート社会保険労務士法人へ転籍。2019年社会保険労務士登録、2021年特定社会保険労務士付記。 現在は部門のリーダーとして多数の顧問先を担当、組織の顕在化していない課題の本質を捉え、お客様にとことん寄り添い共に課題解決を目指す姿勢が、経営者、人事担当者から高い信頼を得ている。 週4正社員制度を活用し、医療的ケア児のボランティア等の社会貢献活動に取り組む一方、社労士の枠にとらわれない学びを続け、チームビルディングや人の強みの見つけ方など学びの成果を顧問先企業に伝えるとともに、社内メンバーの指導、育成でも発揮している。
ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。
ドリサポ公式YouTubeチャンネル
代表 安中繁が、労働分野の実務のポイントをわかりやすく解説している動画です。ぜひご覧ください。