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#51|働き方の未来① ~「日本のラストチャンス」2030年に向けて~

鎌田 良子(かまた りょうこ)
ドリームサポート社会保険労務士法人/特定社会保険労務士

労働分野の実務の参考となる情報を提供する「プロが伝える労働分野の最前線」第51回のテーマは、働き方の未来①と題して、仕事と育児の両立支援をテーマに取り上げます。政府のこども未来戦略は、若年人口が急激に減少する2030 年代までが少子化の状況を反転させるラストチャンスだとしており、仕事と育児の両立支援策の拡充が次々と実施される予定です。その概要をドリームサポート社会保険労務士法人の鎌田良子さんが解説します。
次回は仕事と介護の両立支援を取り上げる予定です。


4月は、弊社でも子どもが保育園を卒園し小学校に入学したという人や、育休から復帰したメンバーもいて、育児や子どもの成長に関する話題にあふれていました。

育児関係の施策に目をやれば、新年度の両立支援助成金においても「男性育休」の拡充だけでなく「業務代替支援コース」「柔軟な働き方選択制度等支援コース」の新設など、「こども未来戦略」による「共働き・共育て」の取り組み推進が早くも実施されています。

2025年度以降、異次元の少子化対策として、仕事と育児の両立に関わる法改正が数多く予定されています。働きながら育児や介護を行う世代にとっては是非とも知っておきたいところですが、育児・介護に関連する法律は縦割りでわかりにくい点が多くあります。それぞれの法律の目的や関わりを一つひとつ見ていきましょう。

育児介護休業法

働きながら育児や介護をしやすい雇用環境を整備し、職業生活と家庭生活の両立を図ることを目的としています。この2年間にも男性育休の推進に向けた度々の改正がありましたが、2025年度以降も、育児に関しては以下のような改正が予定されています。

・育児のための所定労働時間の短縮(短時間勤務制度)を3歳から小学校就学前までに拡充
・子の看護休暇の目的拡充(子の行事参加等を追加)
・子の看護休暇を小学校3年生修了まで延長 
・子の看護休暇の対象者に入社6ヵ月未満も追加
・3歳以上から小学校就学前までの子を養育する労働者に対し、柔軟な働き方を実現するための措置を講じ、労働者が選択して利用できるようにする※ ①始業時刻等の変更、②テレワーク、③短時間勤務制度、④新たな休暇の付与、⑤保育施設の設置運営等働きながら子を養育しやすくするための措置、のうち事業主が2つを選択
・3歳になるまでの子を養育する労働者に関する努力義務に「テレワーク」を追加
・妊娠や出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向の聴取・配慮を事業主に義務づける 等

次世代育成支援対策推進法

次世代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、育成される環境整備のため、事業主が行う取り組みを推進することを目的としています。この法律は令和7年3月までの時限立法でしたが、さらに10年延長される予定です。

一般事業主行動計画は、従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備に取り組むに当たり、①計画期間、②目標、③目標を達成するための対策やその実施時期等、を定めるものです。

「くるみん」や「えるぼし」の認定にあたっては、これを届出、両立支援のひろばに公開することが求められます。こちらの見直しも、2025年の4月から下記の通り予定されています。

・男性の育児休業の取得の状況や勤務時間に関する数値目標設定
・PDCAサイクルの実施を義務づけ

雇用保険法

雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行います。
育児や介護も広い意味では雇用の継続が困難となる事由と捉えられ、休業等にともなう賃金の低下や賃金の喪失は、休業の取得に支障を生じさせる原因となります。育児・介護と仕事との両立を支援し、雇用の継続を援助、促進するための給付が行われています。

2022年の改正で育児休業は分割取得が可能となり、給付金の種類も増えたことから、申請方法もやや複雑になりました。
2025年度以降は、少子化対策の未来への先行投資として、一定の子育て期間中の賃金の実質手取り100%とする給付や、子育て中の時短勤務にも経済的な補填が図られるなどの改正が実施される予定です。

出生後休業支援給付の創設
子の出生直後の一定期間内(男性は子の出生後8週間以内、 女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合、休業期間について、28日間を限度に、休業開始前賃金の13%相当額が支給される予定です。現状の育児休業給付金67%とあわせると80%(手取り100%相当)となります。

出典:こども家庭庁長官官房総務課 支援金制度等準備室

育児時短就業給付の創設
2歳未満の子を養育するために、時短勤務をしている場合、時短勤務中に支払われた賃金額の10%を支給するものです。

出典:こども家庭庁長官官房総務課 支援金制度等準備室

雇用保険の適用拡大
現状、被保険者となるのは1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者です。2028年10月以降、パートやアルバイトなど、雇用保険の適用対象について、1週間の労働時間が「10時間以上」の労働者にまで拡大されます。
育児休業給付金などを受け取れる対象者が広がることとなります。

その他の改正予定

その他の主な改正予定としては、2024年秋以降(11月1日予定)に施行される特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)が挙げられます。

フリーランスに継続的な業務委託の発注を行う事業者は、育児や介護などと業務を両立できるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。

例えば、妊婦検診を受診するための時間を確保できるようにしたり、就業時間を短縮する、納期の変更、オンラインで業務を行うことができるようにするといった対応が想定されます。

育児の後は介護である

ここまでで、私は介護よりも育児の制度が拡充されているように感じます。今、我が国が直面している問題のうち、まずは「少子化」を最大の危機と捉え、2023年4月にこども家庭庁が設置され、こども基本法が施行されたことも後押しとなっているのでしょう。

しかし、今、私は企業の社員が高齢化する中で、介護離職にまつわる相談も着実に増えてきているのを実感しています。私自身も、「育児の後は介護である」ことを痛感する毎日です。
 
最近、親友に相談されました。
「転職後1年以上になるけれど、年次有給休暇もまだ少ないなか、地方にいる母親の介護施設の入所手続など度々休む事情が発生してしまっている。管理監督者である場合、介護休暇や介護休業はとれないのか?」
という質問でした。

この問いには、管理監督者であっても介護休業・介護休暇は取得できる、というのが正解ですが、考えてみれば、介護に関する情報は育児に比べて少ないと言わざるを得ません。
このところ、育児関連の法改正が目白押しです。なぜなら、政府が少子化対策を後押ししているからです。でも、介護も「まったなし」の状況です。次号では、介護と会社の未来について考えてみたいと思います。
 

鎌田 良子(かまた りょうこ)
ドリームサポート社会保険労務士法人/特定社会保険労務士
大手金融機関に15年間勤務、総務経理マネージャーとして勤務体系の整備や、人材育成に携わる。 出産を機に、働く女性の両立支援、子どもの教育支援などの長期的なキャリア目標の実現に向けて、社労士業界へ転身を決意。社会保険労務士事務所エスパシオを経て、2015年法人化に伴いドリームサポート社会保険労務士法人へ転籍。2019年社会保険労務士登録、2021年特定社会保険労務士付記。 現在は部門のリーダーとして多数の顧問先を担当、組織の顕在化していない課題の本質を捉え、お客様にとことん寄り添い共に課題解決を目指す姿勢が、経営者、人事担当者から高い信頼を得ている。 週4正社員制度を活用し、医療的ケア児のボランティア等の社会貢献活動に取り組む一方、社労士の枠にとらわれない学びを続け、チームビルディングや人の強みの見つけ方など学びの成果を顧問先企業に伝えるとともに、社内メンバーの指導、育成でも発揮している。

ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。

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