令和元年財政検証の将来見通しから乖離――令和4年度公的年金財政状況報告
厚生労働省の社会保障審議会年金数理部会(部会長=翁百合・日本総合研究所理事長)は3月22日、令和4年度の公的年金財政状況報告案について審議し、取りまとめを行った。公的年金財政報告は、年金数理部会が公的年金の毎年度の財政状況について専門的な観点から横断的に分析・評価を行うもの。今回は、2022年10月に実施された被用者保険の適用拡大の影響のほか、令和元年財政検証の将来見通しとの比較などが掲載されている。
公的年金の被保険者数の推移を見ると、国民年金第1号被保険者と第3号被保険者は減少した。一方、厚生年金の被保険者数は増加し、このうち短時間労働者の被保険者数の増加率は44.9%(男性40.4%、女性46.5%)となった。短時間労働者の年齢分布の変化については、男女とも年齢の高いほうへシフトする結果となった。また、短時間労働者の標準報酬月額別分布の変化を見ると、男女とも低いほうにシフトし、標準報酬月額の平均が男性で1.1%、女性で1.3%減少した。
令和元年に実施された財政検証の前提や将来見通しを比較すると、国民年金第1号被保険者数は財政検証の見通しを下回り、厚生年金被保険者数は上回る状況が続いている。また、積立金の実績については、将来見通しを上回っていることが確認された。その一方で、合計特殊出生率は、平成29年人口推計の出生中位よりも出生低位に近い値になっている。この結果、こうした状況が一時的なものではなく中長期的に続いた場合には、年金財政に与える影響は大きなものとなると同報告では分析。年金財政の観点からは、人口要素、経済要素等いずれも短期的な動向にとらわれることなく、長期的な観点から財政状況の動向を注視すべきとしている。
この日、委員から報告書の内容に関する指摘等は出されなかったが、国民に報告書の内容について理解・周知を求めるため、メディアに対して積極的に発信するよう要請する意見が複数あった。報告案は了承され、同日付で公表された(リンク参照)。