#56|テレワーク制度の見直し~BCP、改正育児・介護休業法施行を見据えて~
テレワークの現状
新型コロナウィルス感染症の流行を機にテレワークを導入する企業が増え、現在もテレワークのメリットを生かし、制度を継続する企業が存在します。また、労働者もテレワークをきっかけに仕事と生活の両立が容易になったり、新たに働く機会を得たりすることができるようになりました。
しかし、一部の企業ではテレワークから出社勤務に戻る動きが出ているように、テレワークに対する企業姿勢に変化が生じています。
全国平均におけるテレワーク実施率は、コロナ禍前と比べ、令和3年、令和4年、令和5年いずれの年も高い水準ですが、地域別の実施率は全ての地域で減少傾向にあります(図1参照)。
【図1】令和3年から令和5年 直近1年間のテレワークの実施率
さらに、令和3年から令和5年にかけてはテレワークを週5日~週7日実施する人の割合は減少し、令和4年と令和5年では、週1日~週4日実施する人の割合は増加しています。新型コロナウィルスが令和5年に感染症法上5類に移行した後では、出社とテレワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」を実施する傾向が出てきたことがわかります(図2参照)。
【図2】テレワーク実施頻度
コロナ禍で急速に広がったテレワークですが、元々は、災害からの企業の事業継続計画(BCP)として、あるいは育児や介護を行う労働者の就業継続制度として特例的に行われてきました。
昨今、災害により日常に大きな変化が生じることが多く、また、令和7年4月・10月には改正育児・介護休業法の施行により、育児・介護の両立支援策としてテレワーク勤務が選択肢の一つになります。そのため、テレワーク制度を見直す機会が再到来したと考えることができます。
依然として解決が難しいテレワークの課題
テレワークだけでなく出社も求めるハイブリッドワークを実施する傾向が出てきた背景に、テレワークならではの課題があるといえます。
ひとつは、コミュニケーション不足です。テレワークでは、コミュニケーションを取りたい相手が今どのような状況なのか分かりづらいため、文字によるコミュニケーションに頼りがちです。
テキストメッセージに対応できるかどうかは、メッセージ受信者の状況や判断によるため、即応できないこともあるでしょう。また、微妙なニュアンスが伝えにくいことで誤解を生じることもあります。
そして、仕事と生活の線引きが困難、ということもテレワークならではの課題といえます。企業におけるテレワーク導入形態は、在宅勤務が最も多いです(図3参照)。
そのため、自宅で勤務することで生活との切替えが難しく、勤務時間が長くなることもあります。また、オフィスと同等の空間で仕事をしていない場合は、緊張感や集中力の継続が難しいことも考えられます。
【図3】テレワークの導入形態
その他、企業独自の課題もあると思われますが、社会保険労務士として気になるのは、コロナ禍で実施したテレワークに対応する形で策定した規程が、実態と合わなくなっているということです。このような場合、規程の見直しは急務です。
しかし、現状に合わせ規程を策定し直す前にすべきことがあります。
これからのテレワーク
前述したように、テレワーク制度について現在、見直す時期が到来しています。改めて、自社に必要なテレワーク運用やBCPや法改正を見据え、段階的に自社のテレワーク制度を進めていきましょう。
1.企業方針を決定する
テレワークは、BCPの一助になること、採用活動、労働者のライフステージ等において重要で、企業の経営戦略上欠かせないものになっています。そのため、テレワークにおける課題を洗い出し、自社に最適なテレワークの運用方法について改めて検討し、決定することが不可欠です。
例えば、企業方針は次のように分類することができます。
2.企業方針に対応した規程の見直し
上記①~④の方針のいずれでも、賃金規程やテレワーク規程と運用の整合性の確認が必須です。まず、手当の定義と運用が一致しているか確認します。そして、手当の定義が運用と一致していない場合は、定義を修正または廃止を検討しましょう。
賃金規程の見直し
コロナ禍でテレワークを導入した企業の中には、通勤手当の廃止や定期券相当額の支給を廃止し、通勤手当の実費支給、テレワーク手当または出社手当の導入を実施したところもあります。今後、出社勤務へ転換する方針をとる場合は、賃金規程の見直しが必要です。特に、テレワーク手当を実費弁償の意味で創設し毎月支給していた場合、支給の必要性がなくなります。
しかし、労働者にとっては、手当を廃止してしまうと手取り額が減少するため、見直しにはその必要性等を丁寧に説明することが重要です。同様に、出社をして業務を行ったことに対する手当として出社手当を支給していた場合も、創設した当時の意味が失われている可能性があります。
改正育児・介護休業法とテレワーク規程の整合性を確認
令和7年10月1日施行の改正育児・介護休業法で、3歳以上、小学校就学前の子を養育する労働者に関する柔軟な働き方を実現するための措置等の選択肢の一つにテレワーク等の措置があります。
テレワーク等の措置は、厚生労働省の告示(令和6年9月11日第287号)によると、最低1ヵ月につき10日である旨を規定する必要があります。現行のテレワーク規程で日数の制限なくテレワークができる旨を定めている場合で、法令水準の1ヵ月10日として規定した場合は、不整合が生じます。現行制度より不利益な制度とならないよう注意しなければなりません。
また、テレワーク規程の対象者を限定している場合も、整合性がとれているか確認が必要です。
出社とテレワークの不公平感を調整する
BCPの観点から、テレワーク方針を決定する場合は、災害発生時に出社する人とテレワークをする人について、あらかじめチーム分けしておくことを勧めます。なぜなら、両者に不公平感が生じる可能性があるからです。
出社を命じるかテレワークを命じるかは企業の正当な業務命令権の範囲内です。労働者の立場からは、突然社内体制が変わることは受け入れがたいため、あらかじめBCPとして出社チームとテレワークチームを分けることがある旨を周知しておくとよいでしょう。
まとめ
テレワークは課題もありますが、上手に活用することで、労働者にとって就業の継続が可能になったり、新たな就業の機会を得ることに有効な手段となります。
また、企業にとっても採用において有利な選択肢を示すことができます。
これからテレワーク制度等の見直しを行っていくときには、社内の円滑なコミュニケーションができる関係性づくり、「ほう・れん・そう」の徹底など企業風土づくりも両輪として実施していくとよいでしょう。
高澤 舞(たかざわ まい)
ドリームサポート社会保険労務士法人/特定社会保険労務士
法律事務所に約5年勤務し、主に民事事件や破産事件の書面作成などの業務に従事。プロとして法的な見地からの対応にとどまらず、企業や従業員の課題に歩み寄った柔軟なアドバイスの必要性を感じ、社会保険労務士を目指す。2013年社会保険労務士登録。2017年ドリームサポート社会保険労務士法人入社。2023年特定社会保険労務士付記。
現在は、就業規則作成・改定業務のスペシャリストとして社内メンバーをリードするとともに、すべての顧問先企業の規程作成に関与し、さらには、広く就業規則整備の重要さを発信するため、セミナー登壇、執筆も手掛けるなど就業規則を軸に活躍の幅を広げている。
ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。
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