#47|スメハラ ~注意しにくい職場の「におい」と向き合う方法~
すっかり市民権を得た「スメハラ」という概念
においで他人に不快感を与えることをあらわす「スメルハラスメント」、
略して「スメハラ」という言葉は、すっかり社会に定着しています。
新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行して以来、次第にマスクを着用しない人が増え、ソーシャルディスタンス等の防止措置も緩和されています。これにより、数年間気づかなかった他人のにおいが気になるようになったという人も多いのではないでしょうか。
今回は、職場でのスメハラとどのように向き合うべきか、お話しします。
不快なにおいの原因は多種多様
スメハラの原因となるにおいは、体臭、口臭、たばこ、飲食物、化粧品、洗濯洗剤などさまざまですが、どのような種類にせよ、においを発している側は自覚がないままに周囲にストレスや健康被害を与えている場合が多くあります。
香水や柔軟仕上げ剤など、使用している本人にとっては「いい香り」でも、周囲の人がみな同じように感じているとは限りません。消費者庁などは、香り付き製品を使用する際に、周囲の人々への配慮を求めるポスターを公開しています。このことからも「スメハラ」「香害」が、いかに多くの人を悩ませているかわかります。
スメハラを指摘して改善することの難しさ
においの感じ方に個人差があることと、においを発している本人に自覚がないことが対策を困難にしている原因といえます。
においというのは非常にデリケートな問題で、気になっても指摘するのが難しいものです。指摘のしかたによっては他人の尊厳を大きく傷つけることになり、セクハラ、人権侵害と受け取られる可能性もあります。
他人のにおいを不快に感じても「くさい」と面と向かって言える人は、そういないはずです。
職場でのスメハラを放置しない
一日のうち長い時間を過ごす職場で不快なにおいが漂っていたら、大きなストレスになるであろうことは、容易に想像できます。
個人の価値観の多様化に伴い、ライフスタイルも多様化し、職場での「常識」や「暗黙の了解」が通用しなくなっている傾向にあります。
それは、においに関しても例外ではありません。多種多様な文化をバックグラウンドに持つ人が集まることで、自分とは異質なにおいを不快に感じる瞬間もあるでしょう。
「職場には色々な人がいるから、しかたがない」
「手の打ちようがない」
という言葉で片付けてしまえばそれまでですが、職場の人間関係や業務効率の悪化につながる恐れもあるので、においに関する相談があった場合、会社として放置しておくのは得策ではありません。では、どのように対応すればよいのでしょうか。
(1)まずは啓発ポスターや朝礼などで全体に向けて注意を促す
本人に注意する前に、「全員でにおいに気をつけよう」という文脈で、全体に注意喚起をしましょう。察しのよい人であれば、これだけで改善する場合もあります。
(2)全体に向けて注意しても改善されない場合は、においを発している本人と直接話す
「同じ職場の従業員や取引先、顧客などがにおいを不快に感じていて、そのことで意見・相談があった」ということを客観的に伝えても、ハラスメントにはあたりません。
ただし、伝える際に気をつけるべき点がいくつかあります。
「プライバシーに配慮する」「人格を否定しない」というのは、スメハラだけでなく他の問題を注意・指導する場面でも共通する、非常に重要なポイントです。筆者の所属する社会保険労務士法人がハラスメント防止研修を行う際には、必ず話しています。
スメハラの未然防止策として、就業規則とは別に、職場で守ってほしいことをルールブックとしてまとめ、周知することも有効です。
「香りの強い柔軟剤や香水の使用は控える」
「取引先を訪問する前には歯磨きを励行する」
「職場で飲食する際は、においがこもらないように換気をする」
など、においに関するマナーを具体的に記載し、全員で守るように働きかけましょう。
実際に寄せられた相談例
筆者の所属する社会保険労務士法人の顧問先からも、時々スメハラに関する相談が寄せられます。非常にセンシティブな内容であるため、注意・指導に踏み切れず困り果てた経営者や人事担当者から助言を求められるのですが、基本的な対応は前に述べた(1)、(2)のステップ。さらに、要望があれば社内研修も実施します。
以前、「どうやら、ある従業員が朝からニンニクを食べてくるようで、においが気になる」という相談がありました。
その会社では、まず全体に向けて注意喚起をし、ハラスメント研修の際にスメハラについての内容を盛り込むようにしたところ、その後、ニンニク臭が軽減されたそうです。
社会保険労務士法人の講師が自らの体験をもとに、
「人と会う前日はにおいの強いものを食べないよう気をつけている」
「エチケットとして自制することも必要」
と語ったことにより、受講者が自分事として考えるきっかけになり、改善されたと聞いています。
たとえ同じような内容であっても、社内の人より社外の人が話す方が、素直に受け取ってもらえる場合が多々あります。それが国家資格を持った専門家であれば、なおさらです。これを「ボイスチェンジ効果」といいます。
たとえば社会保険労務士が、他社での事例をもとに打開策を提示するなどすれば、より説得力が増します。
「こんなこと」と放置せず対策を
個々の働きやすさを重視する時代になり、職場環境に関しても労働者が声を上げやすくなっている風潮があります。
今後、ただでさえ労働人口が減少していく中で、職場環境が悪い職場からは貴重な人材が流出していくことでしょう。そうなる前に労働者の声に耳を傾け、「誰もが働きやすい職場」を作ることが重要です。
市川 茉衣(いちかわ まい)
ドリームサポート社会保険労務士法人
社会学部にてメディア社会学を学ぶ。卒業後、小売業や生命保険会社にて、顧客対応に従事。2019年5月、先進的な働き方である「週4正社員制度」を実践しているドリームサポート社会保険労務士法人に興味を持ち入社。
現在は、つなぐ課にてセミナー運営、プロモーション業務全般に携わり、法人が提供する動画コンテンツの企画・撮影・編集・展開までを牽引して行うなど、活躍している。
フルマラソン3時間台を目指し月間300キロの走り込みを行うアマチュアランナーでもある。
ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。
ドリサポ公式YouTubeチャンネル
代表 安中繁が、労働分野の実務のポイントをわかりやすく解説している動画です。ぜひご覧ください。