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#05 コロナ下の介護保険サービス利用者(小竹雅子)

データから読み解く介護保険

厚生労働省は、介護保険サービスの利用者はどのくらいいるのか、費用はどのくらいかかっているのか、『介護給付費実態統計』(旧称:介護給付費等実態調査)の月報と年報を定期的に公表しています。

11月2日、『2020年度介護給付費等実態統計の概況(2020年5月審査分~2021年4月審査分)』が公表されました。2020年度はちょうど、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の第二波から第四波までの期間になります。

報道発表資料」では、「実受給者」(2020年4月から2021年3月までの1年間に、一度でもサービスを利用した人)は621.9万人で、2019年度と比較して1.8%増えたと報告しています。また、「受給者1人当たり費用額」(2021年3月分)は17.5万円で、前年度比1.3%の増加です。

介護保険サービスを提供する事業者は「緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者」として、高い緊張を強いられてきました。加えて、2019年度と2020年度の「実受給者」を比較すると、サービスを維持するだけでなく、新たな認定者も受け入れたことになります。

なお、2020年度の認定者は705.6万人で、前年度比2.3%の増加となっています。そのうち、実際にサービスを利用したのは75.4%で、給付を受ける権利を得た認定者の約4分の1が「未受給者」となっています。


月報でみる利用者数の変化

年度単位の比較では、新型コロナウイルス感染症の影響がよくわかりません。このため、毎月公表されている『介護給付費実態統計月報』の統計表(政府統計の総合窓口e-Stat)から、新型コロナウイルス感染症の第一波の影響もわかるように、2020年1月審査分から2021年4月審査分まで16カ月分のデータをグラフにしてみました。

介護保険法の2014年改正でホームヘルプ・サービスとデイサービスを予防給付からはずされ、市区町村の地域支援事業に移された総合事業サービスの「事業利用者」も加えました。

コロナ下の「利用者」は横ばい

グラフでみると、ほぼ一直線で、増えているとはいいがたいことがわかります。

では、現状維持で、新たな利用者はほとんど受け入れられていないのでしょうか? 介護保険のサービスは、在宅(居宅)、地域密着型、施設の3類型に分かれているので、同じようにグラフにしてみました。

コロナ下の「受給者」は、第一波で減少

第一波の感染拡大がはじまった時期に当たる2020年1月審査分と5月審査分で比べると、在宅サービスは4.5万人、地域密着型サービスは4.4万人、施設サービスは0.2万人、それぞれ減っています。単純計算では9万人以上、利用者が減ったことになります。

2020年度(2020年5月審査分~2021年4月審査分)でみれば、3類型サービスともに少し増えたことになります。しかし、2020年1月審査分までさかのぼり、コロナの流行期でみると、施設サービスは0.4万人、在宅サービスは7.8万人利用者数が増えましたが、地域密着型サービスは回復していないことになります。

コロナ下の「総合事業サービスの利用者」は回復していない

総合事業サービスの合計では、2021年4月審査分を2020年5月審査分と比較すると4.8万人増えていますが、2020年1月審査分との比較では、5.9万人の減少です。

訪問型サービス(旧・ホームヘルプ・サービス)は2万人、通所型サービス(旧・デイサービス)は5.3万人とそれぞれ減っています。

コロナ下の介護予防サービスは、通所系とショートステイが減少

総合事業サービスでは、通所型サービスの利用者の減少が大きいのですが、では、給付のサービスはどうでしょうか。

表にしてみましたが、要支援認定(要支援1と2)の人が選ぶ主な介護予防サービス(予防給付)をみると、通所リハビリテーションが2020年1月審査分では18.6万人だったのが、5月審査分は16.0万人に落ち込み、2021年4月審査分で持ち直して17.5万人なので、減少傾向にあります。ショートステイ(短期入所)も同じです。

コロナ下の介護サービスは、さらに落ち込む

要介護認定(要介護1~5)の人が選ぶ主な介護サービス(介護給付)では、ショートステイ(短期入所)が5.8万人減っています。

「通所系サービス」とも呼ばれるデイサービス(通所介護)と通所リハビリテーション、地域密着型デイサービス(地域密着型通所介護)もそれぞれ減少し、単純合計では11.7万人も減ったことになります。

介護保険では、在宅サービスの利用者が約8割ですが、ホームヘルプ・サービス(訪問介護)への抑制が続くなか、代替するようにデイサービスが伸びていました。

しかし、2017年の介護保険法改正で、定員18人以下の小規模な事業所は地域密着型サービスに移され、制約が増えました。

「在宅介護」の実態は?

総合事業サービス、介護予防サービス、介護サービスともに、コロナ下では通所系サービスとショートステイの利用者が減少し、回復していないことがみてとれます。一方、医師の指示書にもとづく「医療系サービス」になる訪問看護と居宅療養管理指導は増えています。

コロナによる通院など「受診控え」が増え、概算医療費は約8%、1兆4,000億円も減少したそうです。通院できない認定者に、介護保険の「訪問医療系」が増えたことになるのでしょうか?

厚生労働省は7月16日、『2021年版労働経済の分析 -新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響-』を公表し、介護労働者の「肉体的負担、精神的負担が増していることがうかがえる」と報告しています。

介護現場が疲弊している課題は、10月31日の総選挙をめぐる特集報道でも大きく取りあげられました。しかし、サービスを利用していない認定者や介護している家族がどのような状況にあるのか、まだ、調査報告はありません。また、現時点では『介護給付費実態統計月報』は2021年4月審査分までしか公表されていないため、感染者数が劇的に上昇した第五波(2021年7~10月)が利用者数に及ぼした影響は不明です。

また、『2021年版労働経済の分析』では、国連が発表した『新型コロナウイルス感染症の女性への影響』を紹介しています。コロナ下で、女性に負担の大きい「無償ケア労働」の需要が増大し、「既存の性別役割分担における不平等を深めている」が、「ケア経済の目に見えない部分の負荷が増しているが、経済的な対応はなされていない」と指摘しています。

「無償ケア労働」は「家事・育児・介護等」と説明されますが、2007年に「超高齢社会」に突入している日本において、第一次ベビーブーマーが全員75歳以上になる2025年の手前で、在宅介護に欠かせないサービスの利用者減について実態を把握し、深刻な状況が表面化する前に、早急に対策を講じる必要があると思います。  

小竹 雅子(おだけ・まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰

1981年、「障害児を普通学校へ・全国連絡会」に参加。障害児・障害者、高齢者分野の市民活動に従事。 1998年、「市民福祉サポートセンター」で介護保険の電話相談を開設。 2003年、「市民福祉情報オフィス・ハスカップ」をスタート。 現在、メールマガジン「市民福祉情報」の無料配信、介護保険の電話相談やセミナーなどの企画、勉強会講師、雑誌や書籍の原稿執筆など幅広く活躍中。2018年7月に発刊された『総介護社会』(岩波新書)は日経新聞に取り上げられるなど、話題を呼んだ。

【主な著書】
『こう変わる!介護保険』(岩波ブックレット) 『介護保険情報Q&A』(岩波ブックレット) 『もっと変わる!介護保険』(岩波ブックレット) 『介護認定』(共著・岩波ブックレット) 『もっと知りたい!国会ガイド』(共著・岩波ブックレット) 『おかしいよ!改正介護保険』(編著・現代書館) 『総介護社会』(岩波新書)

『#06 「高齢者虐待防止」の15年』【2022年2月4日】

『#04 総合事業のゆくえ』【2020年3月18日】

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