令和6年財政検証結果、年金部会委員はこうコメントした!
第16回社会保障審議会年金部会(部会長=菊池馨実 早稲田大学理事・法学学術院教授、部会長代理=玉木伸介 大妻女子大学短期大学部教授)が7月3日に開催され、厚生労働省年金局は令和6年財政検証結果を報告した。検証結果の公表にあたり、橋本泰宏年金局長の「検証結果に関する事務当局の基本的な受け止め」、および財政検証結果に対する年金部会委員のコメントを掲載する。(文責・年金時代編集部)
基礎年金拠出期間の45年延長への必要性は乏しい状況になった
橋本 泰宏 年金局長
今回の財政検証結果について、事務当局の基本的な受け止めについて述べる。令和2年の前回改正から、基礎年金の水準低下が年金制度上の大きな課題として強く意識され、国会で付帯決議も行われ、これを踏まえて年金部会では基礎年金の45年化、マクロ経済スライドの調整期間の一致、被用者保険の適用拡大など基礎年金の所得代替率の改善に効果が大きい施策を幅広く議論していただいてきた。特に基礎年金の45年化は、健康寿命の延伸、働く高齢者の増加、年金制度の支え手と受け手のバランスといったさまざまな観点から最も自然なやり方で、これにより年間約10万円、年金額が増加する優れた方策であるとの評価をいただいてきた。しかし、第1号被保険者では、免除制度はあるが、60歳を過ぎても、引き続き年金保険料を納める必要が生じ、月々約1万7千円、5年間で約100万円の保険料を追加的に支払っていただくことになる。このことから、5年間で約100万円の保険料負担の増加だけを切り取った報道やネット上での批判が絶えず行われてきた。厚労省では、45年化はあくまでも基礎年金の給付水準を確保するための方策であり、負担増と給付増はセットであることをあらゆる場を通じて繰り返し説明し、アピールしてきたが、残念ながら今日の時点に至ってもそのような批判を一掃できているとは言えない。
基礎年金の給付水準が依然として年金制度上の大きな課題であり、それに対する一定の対応が必要とされている状況に変わりはないし、被用者保険のさらなる適用拡大など種々の方策を通じた改善は必要だと考えているが、全体的に所得代替率に大きな改善がみられる今回の財政検証およびオプション試算の結果を踏まえると、次期年金制度改正において基礎年金の拠出期間を45年に延長し、国民に追加的な保険料負担を求めてまで、給付水準を改善する必要性は乏しい状況になったと受け止めている。絶えず強い批判にさらされることが避けられない45年化を盛り込んだ状態で、そのことが次期年金制度改正全体にとっての足かせになるのではないかと懸念している。たとえこの先、年末に向けて45年化の議論を続けていったとしても、それを最終的に法律案として取りまとめて閣議決定し、国会に提出して成立させることができるのか、年金当局の責任者として、確たる見通しを持つことができない。そのような点も含めて、総合的に考えたなかで、苦渋の判断として、さきほど申し上げた認識を持つに至った。
基礎年金45年化は今回の改正で実施を
百瀬 優 委員(流通経済大学経済学部教授)
今回の財政検証でも前回同様に、将来的に基礎年金部分の所得代替率の大きな低下が見込まれる。特に今後、出生率や入国超過が下振れした場合でも、報酬比例部分の代替率の低下は1%ポイント程度にとどまるが、基礎年金部分の代替率の低下は著しくなる。基礎年金部分の代替率の低下を和らげる見直しについて、年金局長からは基礎年金の45年化はむずかしいという発言があったが、そうであれば、別の方法も含めて、ぜひ今回の改正で実施していただきたい。(資料1の8頁)
適用拡大は企業規模要件撤廃と非適用業種解消の具体的議論を
原 加奈子 委員(株式会社TIMコンサルティング取締役 社会保険労務士)
オプション試算の結果が出たが、この内容どおりに改正するのではないので、情報発信の際には、オプション試算にないテーマについても、これから本格的に議論していくこともきちんと伝えることが大事だ。テーマもいろいろあり、試算もさまざまあり、これからより具体的な議論をしていくことになるが、本体試算の結果を受けて、どういうことをやらなければならないかが大変重要だ。また、これまでの議論のなかでも出てきたが、現在のライフスタイルや状況の変化と年金制度とのズレや違いなども考慮して、今回のオプション試算の結果から、今後の改正に向けた議論を進めていけることができれば、いいと思っている。そのなかで1つ挙げるとすれば、被用者保険のさらなる適用拡大については、まずは適用拡大対象者数90万人とする企業規模要件の撤廃と非適用業種の解消について、具体的な議論を進めていくことが必要だ。
基礎年金45年化では60代前半の免除のあり方の検討も
堀 有喜衣 委員(独立行政法人労働政策研究・研修機構副統括研究員)
被用者保険の適用拡大については、働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会で企業規模要件の廃止が合意された。ぜひこのまま進めていただきたい。
年金局長から指摘があった基礎年金の45年化については、大変むずかしい状況だということだが、ぜひ引き続き尽力をお願いすると同時に、60代前半の免除のあり方についても検討いただきたい。在職老齢年金については、基本的には廃止の方向と考えるが、所得代替率について基礎年金への影響はないが、報酬比例部分への影響はマイナスになることを考えると、今回は完全な廃止というよりは、支給停止基準額をある程度まで上げることも現実的と感じた。
厚生年金の標準報酬月額の上限(現行65万円)の見直しだが、今回の試算では①75万円(上限該当者4%相当)②83万円(上限該当者3%相当)③98万円(上限該当者2%相当)の3つが示されたが、②83万円が妥当のように思える。しかし、金額はインフレの状況によっても変わってくるので、もう少し議論がしたい。
また、「組合せ試算」として、「適用拡大+基礎年金45年化」、「適用拡大+調整期間の一致」、「基礎年金45年化+調整期間の一致」、「適用拡大+基礎年金45年化+調整期間の一致」を示され、大変イメージしやすくなった。引き続き委員の議論、意見が固まってきた段階で、再びこの組合せ試算を検討してほしい。
財政検証結果は労働参加、適用拡大、市場成果の表れ
是枝 俊悟 委員(株式会社大和総研金融調査部主任研究員)
経済前提の設定について、①高成長実現ケース②成長型経済移行・継続ケース③過去30年投影ケース④1人当たりゼロ成長ケース——と、年金の財政検証にふさわしい呼び名をつけたことと、本日の「資料1 令和6(2024)年財政検証結果の概要」の13頁と14頁に平均年金額の将来見通し(年金額分布推計)を示したことについて、年金局に感謝したい。
今回の財政検証の結果は、実は資料1の13頁と14頁に凝縮されていて、この2頁に示されたメッセージについて大きく伝えてほしい。10年先、20年先の年金額の見通しを考える際には、平均年金額の見通しをメインに据えて、片働き世帯ベースのモデル年金は参考程度として、所得代替率50%を守れるかどうかを確認するだけのものという扱いでよいのではないか。
今回の財政検証結果は、労働市場の包摂を進めて、女性や高齢者の年金加入を進めたこと、さらに株式市場を成長させて運用の成果を年金に取り込んだことの成果が表れている。今後も労働参加と適用拡大を進めていくこと、市場の成果の取り込みを続けていけば、経済成長率が過去30年投影ケースにとどまったとしても物価で割り戻した実質年金額は男女合計の夫婦ベースでみれば、ほぼ現状維持となるし、少しでも経済成長率を高め、成長型経済移行・継続ケースに近づくことができれば実質年金額を増やしていけることが、今回の財政検証結果の一番大事なメッセージだと考える。過去30年投影ケースだと、主に基礎年金のみ実質年金額の所得代替率が大きく減ることになるが、年金額の分布推計によると、厚生年金の加入期間を持つ人がどんどん増え、基礎年金のみで暮らす人が将来の世代になるほど少数派になっていくので、いまの若い人たちについてはあまり心配していない。しかし、マクロ経済スライドは現在の年金受給者にも及ぶことになり、現在の65歳くらいの男性の1割ほど、女性の2割ほどは、年金額が月7万円未満となっているので、過去30年投影ケースでこのままマクロ経済スライドを続けることになると、対処が必要だ。その点、今回のオプション試算によって、来年の年金改正の最大のテーマは適用拡大であることが明確になったと思う。
適用拡大により、マクロ経済スライドの調整期間の一致も実現すべきだと考える。適用拡大④(適用拡大対象者数860万人。週10時間以上のすべての被用者へ適用拡大)を実現できれば、過去30年投影ケースにおいて、基礎年金のマクロ経済スライドの調整期間の一致を行った場合とほぼ同じ調整終了年度となる。もちろん適用拡大によって年金額が充実する効果は現在の高齢者よりは現役世代のほうが大きくなる。適用拡大によって厚生年金の加入期間が伸びる人が増え、より若い世代ほど平均年金額が大きく増え、特に低年金者の割合が大きく減ることになる。ぜひとも適用拡大④をめざしたい。(資料1の7頁)
基礎年金の45年化については、今回のオプション試算における「将来の年金額への影響(基礎年金45年化)」(資料3-1の10頁)でみると、意外と効果が小さいことが示された。モデル年金ベースでは大きく増えるようにみえるが、平均年金額ではそこまで伸びるわけではない。また、低年金者が減る効果も意外と大きくない。国民年金第1号被保険者の半分が保険料未納であったり、免除を受けていたりするので、こうした人の年金額はあまり伸びないので、思ったほど低年金の人が少なくならないという面もある。基礎年金45年化はいずれ実現すべきと思うが、今回実現できないのであれば、厚生年金における経過的加算の上限を撤廃して、60歳以後厚生年金に加入して働くもの全員に厚生年金の独自給付をつけ、それによって低年金を減らしていくことも選択肢なのではないか。
財政検証結果からは、それほど悲観すべき状況ではないと感じた
小林 洋一 委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)
今回の財政検証結果からは、それほど悲観すべき状況ではないと感じた。公的年金の最大の課題は、制度がむずかしく、正しい理解が進みにくいことだ。そのため、無用な不安が蔓延している。不安や誤解を払しょくするにあたり、今回、良い財政検証結果が出たことは、国民の理解促進を進めるうえで、よいチャンスが訪れたと言える。(資料1の3・4頁)
今回、被用者保険のさらなる適用拡大により所得代替率の上昇が見込まれる試算が示された。所得代替率が上昇することは、極めて重要なことだが、それが社会保険の支え手を増やす適用拡大により実現することには痛しかゆしの面がある。なぜなら、中小・小規模事業者においては保険料や事務の負担が増えると非常に大きな影響が出るからだ。ぜひ中小・小規模事業者の実態を踏まえた丁寧な議論をお願いしたい。(資料1の7頁)
標準報酬月額の上限(現行65万円)の見直しについては、今回のオプション試算で設定された上限の引上げ額は、上限該当者の割合から設定されたものだと理解しているが、上限を追加できる法律上の条件は、全被保険者の平均標準報酬月額の2倍に相当する状態が継続するときとしているから、見極めるには、少し時間が必要だ。一番低い上限の見直し額75万円でも事業者の保険料負担の増加分はかなり大きいという印象がある。具体的な議論を進めるにあたり、より現実的な数字、たとえば68万円、71万円といった額での試算も提示してほしい。(資料1の12頁)
適用拡大については、働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会での議論に引き続き、中小・小規模事業者の実態を十分に踏まえて、今後、具体的な検討をお願いしたい。適用拡大の対象となる事業所では、事務負担や保険料負担が新たに発生または増加する。より小規模の事業者であればあるほど、その負担は大きく、経営に与える影響が相当に大きなものとなる。このため、適用を拡大した場合にも、事業者が予見性を持てるよう、実施までの時間を十分確保するとともに実務現場の実情、実態に寄り添った支援が必要であることは改めて申し上げておきたい。(資料5-1、資料5-2、参考資料1、参考資料2)
給付の十分性の確保は就労の促進と被用者保険の包摂が最重要
小野 正昭 委員(年金数理人)
今回の財政検証結果では、特に資料4-2の「年金額の分布推計」が秀逸だ。この資料は、コーホート(ある一定期間の世代集団)でみることの重要性を教えてくれ、ライフコースを踏まえずに、モデル年金だけで議論することの危うさについて考えさせられた。保険料水準固定方式のもとで給付の十分性を確保するには、就労の促進と被用者保険の包摂が最重要となるので、まずは引き続き被用者保険の適用拡大の徹底を意識して議論していきたい。
オプション試算の前提に制度変更による就労の変化を見込んでいないとの注釈が散見されるが、たとえば、高在老の仕組みを撤廃した場合、就労の増加があれば、その増加による保険料は厚生年金の財政にとってプラスに作用するために、給付水準低下の一部を埋め合わせるはずだ。
標準報酬月額の上限改定だが、マルチワーカー等の就労の変化、多様化を含め、標準報酬に関する現在の実務で柔軟な対応が可能なのか疑問を感じている。マルチワーカーを含む報酬の特定に関わる海外の実務やその柔軟性について必要であれば調べて、将来的な課題の立て方の見通しをつけてほしい。
経済の不確実性も踏まえれば早期に基礎年金の給付水準引上げを
佐保 昌一 委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)
2019年財政検証のケースⅢ、Ⅳの物価上昇率や賃金上昇率と比較すると、今回の成長型経済移行・継続ケースは高く、過去30年投影ケースは低く設定されており、成長型経済移行・継続ケースと過去30年投影ケースをベースに今後の検討を進めることが妥当だと考える。そのうえで2019年財政検証結果と比較すると、基礎年金の将来の所得代替率がおおむね上回っているが、経済の不確実性も踏まえれば、楽観視できる状況にはなく、とりわけ基礎年金の給付水準は過去30年投影ケースでは2057年度に25.5%まで下がる見通しであることから、早期に給付水準を引き上げるための改正を行うべきだ。(資料1の3・4頁)
オプション試算で、適用拡大を行った場合の所得代替率と基礎年金の拠出期間延長を行った場合の所得代替率について、どちらも基礎年金の将来の給付水準の引上げにつながっていて、どちらも第1号被保険者も含めたセーフティーネットの拡大に資するものと考える。これを踏まえて、企業規模要件や非適用業種の撤廃だけでなく、労働時間要件の引下げや賃金要件の撤廃について、次期改正に向け、年金部会において前向きな議論をお願いしたい。なお、拠出期間の延長(基礎年金の45年化)については、これからさらに議論したいと思っていたので、年金局長の発言は残念だ。(資料1の7・8頁)
オプション試算において、マクロ経済スライドの調整期間の一致を行った場合、成長型経済移行・継続ケースと過去30年投影ケースともに、基礎年金および報酬比例部分を合計した所得代替率が上がっているが、これをもって調整期間の一致に向けて、拙速に議論を進めるべきではない。まずは社会保険の適用拡大や保険料拠出期間の延長に優先的に取り組み、障害厚生年金受給者、一定期間年金給付水準が下がる受給者への影響、厚生年金の独自給付の今後の改正による基礎年金への影響などについて丁寧に検証したうえで、拠出者の納得性と合理性を追求すべきである。
適用拡大は積立金による財政調整であることを理解しておくべき
権丈 善一 委員(慶應義塾大学商学部教授)
資料4-2(年金額の分布推計)と公的年金シミュレーターにより、初めてみんなの生活と具体的なつながりを持つ判断材料がそろったと思っている。これらの材料が出そろうまでは年金論は財政検証の資料1の法定試算にもとづいて将来はこんなに下がるぞ、というこわいストーリーで論じられてきたが、実際には法定試算である資料1は年金不安をあおるばかりで、何十年も先のみんなの将来の生活とはあまり関係はなかった。(資料1の3・4頁)
いまのワークロンガー社会において厚生年金の加入期間が長い男女の報酬比例部分が将来の給付水準の引上げに相当のパワーを持っていることが具体的にイメージできるようになった。加えて、共働きともなるとそのパワーは圧倒的だ。ただ、それは、厚生年金の世界の話で、政策課題としては、厚生年金の適用拡大がもっとも優先順位が高い。
適用拡大は、勤労者皆保険の制度がかかげる勤労者皆保険の名にふさわしいように可能な限り、進めてもらいたい。つぎに、年金は保険なのだから、繰下げが合理的だ、とすなおに人に勧めることができるように高在老は見直してほしい。その際、高在老の撤廃と標準報酬月額の引上げによる合わせ技、それぞれの改革で所得代替率が上下する相殺効果を検討してもらいたい。加えて、繰下げの選択を躊躇させている加給年金も見直してもらいたい。(資料1の11・12頁)
今回は参考試算として、調整期間にズレが生じたのは、大きな原因はマクロ経済スライドのフル適用を進めるという「汗」を年金制度がかかなかったからだ。だから45年化という年金自身で汗をかく道を諦めるのなら、せめてフル適用という汗をかいてほしい。
今回、資料4-1に示された「積立金の性質」(31頁)は、適用拡大にもそのままあてはまり、適用拡大は、実は積立金による財政調整だということを理解しておいていい。第1号被保険者から第2号被保険者に移行する際に、その人は積立金を抱えて2号になるわけではない。だから、適用拡大をすると、適用拡大をしないまま厚生年金の積立金を国民年金に移す調整期間の一致と財政的にはどんどん近づいていく。たとえば過去30年投影ケースの場合、資料1の7頁の860万人拡大の適用拡大④の調整期間の終了が比例、基礎ともに2038年、そして資料1の10頁のマクロ経済スライドの調整期間の一致では調整期間の終了が比例、基礎ともに2036年となっている。ただ、適用拡大は厚生年金を利用できる人が増えることと、国保の関係で追加的な国庫負担はあまり考えなくてもいいという2つの長所があるために適用拡大のほうが、調整期間の一致よりも年金論としては圧倒的に優れている。(資料1の10頁)
年金額の分布推計は年金の持続可能性に加え十分性も確認できる
駒村 康平 委員(慶應義塾大学経済学部教授)
今回の財政検証では、非常に良い材料が出てきている。それは資料4-2(年金額の分布推計)だ。従来はモデル年金の変化だけをみて、持続可能性のチェックと政策効果をみてきたが、年金の十分性などをみることはできなかったが、分布に関する情報が出て年金の十分性も確認できる。ここから、さまざまな組み合わせ、オプションをみていくと、適用拡大に効果があることは間違いない。ただ、団塊ジュニア世代に対しては、適用拡大の効果はかなり限定的だということも言えるのではないか。
4つのケースについては、幅を持って考えていく必要があるので、これだと決め打ちにする必要はないと思うが、成長型経済移行・継続ケースと過去30年投影ケースあたりを中心に議論していくべきだ。(資料1の3・4頁)
適用拡大の効果があるのは、未来の世代で、団塊ジュニア世代にはやや間に合わない。そう考えると、調整期間の一致は団塊ジュニア世代の基礎年金の低下を抑えるためには有効なツールであることがここから読み取れる。
45年化については、60歳から64歳の厚生年金加入期間が報われない。これは制度発足から言えることだが、寿命が伸びているなかで40年加入のままでいいのかということは、ちゃんと議論すべきであろう。ただ、政策優先順位を考えたときには、今回は劣後になるのかなと思う。
資料1の7頁では、適用拡大によって基礎年金の所得代替率が上昇することが確認されているが、この場合でも国庫負担が発生するのではないか。この辺の数字はどうなっているのか。
資料4-1の「積立金の性格」については、いまの被保険者のものではないと書いてあるが、受給者まで考えると、そういう表記でいいのかどうかは議論してみたい。
駒村委員に対する佐藤数理課長の説明(適用拡大における国庫負担)
駒村委員の言うように、適用拡大においても、基礎年金の水準が上昇すれば、2分の1国庫負担は増えることになる。ただ、適用拡大の効果として、年金以外に医療のほうで言うと、国保の加入者が減ると、健康保険の被保険者になり、国保に入っている公費が減少する効果がある。
ゼロ成長ケースではマクロ経済スライドの名目下限撤廃が必要
深尾 京司 委員(独立行政法人経済産業研究所理事長 一橋大学特命教授)
資料1の2頁と3頁の経済前提の4つのケースについては、1人当たりゼロ成長ケースでは、積立金がなくなり、非常に壊滅的なシナリオが予想されているが、経済前提に関する専門委員会において、1人当たりゼロ成長ケースを考えたのは、こういうこともあり得ることで、それに備えるべきだという意味で考えている。こういう壊滅的な状況を回避するためには1人当たりゼロ成長ケースの場合だと、マクロ経済スライドの名目下限措置の撤廃が、非常に重要な対策になりうるとことが、資料1からうかがえる。実際に実質賃金がほとんど上がっていないし、下落している。またデフレに落ち込む危険もある。その意味でマクロ経済スライドの名目下限撤廃は真剣に考えるべきだ。
オプション試算の意義は、人々の働く選択をできるだけ年金制度がゆがめないように改革していったらどうなるかということで、在職老齢年金の撤廃の問題にせよ、適用拡大の問題にせよ、いかにゆがみが減っていくかを議論してほしい。
専業主婦世帯をモデル年金とすることの見直しを検討してほしい
井上 参考人[出口 博基 委員(日本経済団体連合会
社会保障委員会年金改革部会長)の代理人]
全般的なことだが、今回の財政検証結果を通じて、改めて年金制度の持続可能性の確保には安定的な経済成長と労働参加の拡大が重要だということが確認された。年金制度改革にあたっては、将来世代の安心をより確かなものとする観点から、あまり楽観しすぎることなく、必要で効果のある改革をしっかり行っていただきたい。
被用者保険のさらなる適用拡大のオプション試算②では、「短時間労働者の賃金要件の撤廃又は最低賃金の引上げにより同等の効果が得られる場合」とあるが、最低賃金が上がっても賃金要件や労働時間要件が残ってしまうと、就業調整は起こりうるので、今後さらに適用拡大を行う方向で取り組むべきだ。(資料1の7頁)
資料1の13頁、14頁で示された「年金額の将来見通し」(年金額分布推計)については、非常に有用な資料がモデル年金に加えて示していただき、社会の変化、年代別も含めて、特に若い世代にとって非常に現実感を持って受け止められる大変有意義な資料だ。すでに専業主婦世帯は3割以下になっているので、それをこれからもモデル年金としておくことが、いいのかどうかも含めて見直す必要がある。ぜひ、年金の将来見通し(年金額分布推計)を積極的に広報して、現役世代の安心感の醸成に努めてほしい。(資料1の13・14頁)
第1号被保険者の多様化で基礎年金の充実がいっそう大事に
平田 未緒 委員(株式会社働きかた研究所代表取締役)
労働参加が進んで、第2号被保険者が増えて、年金財政に好影響を与えたことが明確になった。そのうえで、全体を通じて、基礎年金の充実がとても大事になってくるのではないか。第3号被保険者と第1号被保険者から第2号被保険者に移行するということは、2号に含まれる人が非常に多様化してくるということだ。同時に1号にとどまる人も潤沢な収入がある人、あるいは資産がある人とない人と2極化が進むのではないかと懸念している。働くことがむずかしい人、資産形成ができてこなかった人、資産を受け継ぐ環境になかった人、そういった方々も国民全体で支えるという社会保障機能の側面から基礎年金の充実がさらに大事になるのではないか。その点で、マクロ経済スライドの調整期間の一致が一つの選択肢なのではないか。(資料1の10頁)
就労制約的な制度や税制はいま見直すべきときに来ている
武田 洋子 委員(株式会社三菱総合研究所執行役員
(兼)研究理事 シンクタンク部門長)
今回初めての試みとして年金額の分布推計を行っていただき、モデル年金だけより、さらに多くの示唆が得られ、大変すばらしい取り組みだ。
税制検証結果からは、女性やシニアの労働参加が進展したことが今回プラスに働いた要因の一つであり、年金額の分布推計からも、特に女性の就労が促進して共働き世帯が多くなってきたことの効果の大きさが実感できた。ここから得られる重要なメッセージは、就労抑制的な制度や税制はいま見直すべきときに来ているということだ。この点は経済成長という観点でも重要だということを強調したい。今後この部会で検討を行うにあたっては、就労を制約している制度の見直しについて、オプション試算にあるなしにかかわらず、制度改革全般にあたって議論をぜひお願いしたい。
今回確かにいい結果が出ているが、1人当たりゼロ成長ケースも経済前提の一つとしておいている。そうしたケースも念頭においた改革もしっかり行うべきだ。(資料1の2・3頁)
若い世代が将来不安の理由として社会保障や財政の持続可能性について懸念を持っている。今回、年金額の分布推計をみると、共働き世帯が増え、若い世代の将来不安も解消に向かう方向性がみえる。そういうデータでしっかり説明をすることによって、こうした不安を和らげていくことも合わせてやっていく必要があるし、同時にその持続可能性について自信を持てるような制度改革にしっかりつなげていかなければならない。
基礎年金水準低下は拠出金算定方式に積立金割導入も含め検討
島村 暁代 委員(立教大学法学部教授)
年金制度をよりよくするためには、とりわけ基礎年金水準の低下に歯止めをかけていくことが必要だ。現状では60歳以降の就労が厚生年金では意味があるが、国民年金の財政には貢献していないので、基礎年金拠出金の算定方法の変更を積立金割の導入も含めて改めて検討していきたい。(資料1の31頁)
基礎年金は所得再分配、在老は制度の中立性を意識した議論を
玉木 伸介 部会長代理(大妻女子大学短期大学部教授)
適用拡大がオプション試算の一番に掲げられている点を大変心強く思う。その効果として所得代替率が上がる、年金財政が評価されるといった点についても、詳しく説明されていて大変いい。それに加えて、適用拡大の対象になっていない人は、何としても防貧のための制度である公的年金の連帯の輪に入って、公的年金制度が国民のすべてに対し、経済的に弱い立場の人が無理なく自然な形で包摂されていく方向に機能するよう、いま変わりつつあることが、国民に伝わってほしい。また、基礎年金にかかる議論は我が国の所得再分配の議論でもあることを、今後の議論でもきちんと意識するべきだ。
かつて在職老齢年金の廃止は、高齢者の就業を促進するためであったが、過去十数年の間に猛烈な勢いで高齢者の就業は進んだ事実を踏まえて考えると、在老の廃止は、高齢者の就労を促進するという意味もあるが、労働市場と制度の間に齟齬が生じないよう制度の中立性を高めるという観点から、その目的を明確に意識すべきだ。
今回、年金額の分布推計が初めて提供され、大変情報量の多いものが入っている。これに加えてしばらく前から年金シミュレーターが大活躍している。これらを踏まえると、多くの国民個々人が、年金を自分事としてとらえやすくなった。これにより、年金に対する漠たる不安を何とかして早く追い払って、もう少し冷静な議論、合理的な議論、建設的な議論をしたい。1990年代半ば以降、生産年齢人口(15歳~64歳の人口)はおそらく1,000万人を超えて減少したが、2010年代以降、就業者数は非常に増えていることが、きょうの資料でも多く示されている。日本はこういったことが起きる国だということが、国民の間に浸透していくことが、国民に対して公的年金保険制度が不安ではなく、安心を与えるよう作用するきっかけとなる。