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介護・医療現場の転倒・転落事故に理解求める 全老健など10団体が共同声明(2023年11月17日)

全国老人保健施設協会(全老健)など介護・医療関係10団体は11月17日、「介護・医療現場における転倒・転落~実情と展望~」と題する共同声明を発表した。

転倒・転落事故に対して施設側の責任を認める判決が司法から相次いでいることを受け、共同声明では「想像上の理想的な医療・介護現場を基に判断することは現場の萎縮、混乱を引き起こす。転倒・転落事故をゼロにすることは不可能である」と訴え、法曹界を含む社会全体への理解を求めた。

介護・医療関係10団体、相次ぐ司法判断受け

共同声明は全老健のほか、日本医療安全学会、日本転倒予防学会、日本集中治療医学会、医療法学研究会、日本慢性期医療協会、全国老人福祉施設協議会、回復期リハビリテーション病棟協会、日本認知症グループホーム協会、日本リハビリテーション病院・施設協会の10団体で作成。同日は5団体の代表が厚労省内で記者会見を開いた(写真)。

共同声明では、令和4年の高松高等裁判所や神戸地方裁判所の判決など医療施設における転倒・転落事故に対して医療側の責任を認める判決が相次いで出ていることを指摘した上で、司法に対し「様々な制約の下で行われている医療・介護現場の実情を踏まえて判断することが重要であり、想像上の理想的な医療・介護現場を基に判断することは現場の萎縮、混乱を引き起こし、医療安全の名を借りた懲罰、責任追及の空気を再び呼び起こすこととなるため、厳に慎むべきである」と釘を刺した。

「現場に沿わない机上の検討と対策はかえって弊害」

転倒・転落事故については、「背景が極めて複雑かつ多彩で臨床現場ごとに状況が異なるものであるから、実際の臨床現場を目にすることなく、想像で転倒・転落事故を論じた場合、事故原因の本質に迫ることができない。転倒・転落を減らす努力は当然必要であるが、転倒・転落をゼロにすることは不可能であること、現場に沿わない机上の検討と対策はかえって弊害すらあることを、患者・利用者及び家族、そして法曹界を含めた社会に理解してもらうことが重要である」と強調した。

その上で、◇転倒・転落事故◇転倒・転落事故の背景・原因◇転倒・転落を正確に予測する方法がないこと◇転倒・転落事故に対する病院・施設の法的責任◇身体拘束◇家族の関わり、理解――の各項目の現状と課題について解説している。

転倒・転落「誰にでもどこでも起こるもの」

会見で全老健の田中志子副会長は、日本老年医学会と共同で「介護施設内での転倒に関するステートメント」を発表していることに触れ、「高齢者であれば、二本足で歩いていれば誰でも転倒する。転倒・転落は、老年症候群の一つである。施設の敷地内で転倒した場合には施設の責任であり、家庭で転倒・転落した場合には本人の責任という考え方をみんなで変えていかなければいけない。『転ぶかもしれないから身体拘束をする』とか、『なるべく動かないようにスピーチロックをかける』といったことは避けていかないと、今後ますます患者や利用者の人権・尊厳がせばまってしまう」と述べた。

その上で、今回の共同声明について「転倒・転落は誰にでも、どこでも起こるものであることを広く国民のみなさんにご理解いただきたい。そのことの責任を追及していくことで、本来あるべきケアや医療が提供しづらくなっている現状があることも知ってもらう必要がある」と訴えた。


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