老年医学会と全老健「介護施設の転倒は老年症候群の一環」(6月11日)
日本老年医学会と全国老人保健施設協会は6月11日、共同会見を開き、「介護施設内での転倒に関するステートメント」を発表した。介護施設における転倒すべてが過失による事故ではなく、老年症候群の一環であることを主張している。
日本老年医学会の「老年症候群の観点から見た転倒予防とその限界に関する検討ワーキンググループ」における約2年間の検討を踏まえ、両学会・協会合同でまとめた。
介護施設において転倒が生じると事故として扱われることが多く、利用者・家族から賠償請求が行われるケースもみられる。こうした現状に対し、両団体は科学的エビデンスに基づいて、「転倒は老年症候群の一つの症候であり、原因は極めて多彩かつ複合的であるため、転倒予防対策の有無にかかわらず個々人のリスクに応じて一定の確率で発生する」とし、4つのステートメントを表明した。
ステートメント1「転倒すべてが過失による事故ではない」
転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する。転倒の結果として骨折や外傷が生じたとしても、必ずしも医療・介護現場の過失による事故と位置付けられない。
ステートメント2「ケアやリハビリテーションは原則として継続する」
入所者の生活機能を維持・改善するためのケアやリハビリテーションは、それに伴って活動性が高まることで転倒リスクを高める可能性もある。しかし、多くの場合は生活機能維持・改善によって生活の質の維持・向上が期待されることから原則として継続する必要がある。
ステートメント3「転倒についてあらかじめ入所者・家族の理解を得る」
転倒は老年症候群の一つであるということを、あらかじめ施設の職員と入所者やその家族などの関係者の間で共有することが望ましい。
ステートメント4「転倒予防策と発生時対策を講じ、その定期的な見直しを図る」
施設は、転倒予防策に加えて転倒発生時の適切な対応手順を整備し職員に周知するとともに、入所者やその家族などの関係者にあらかじめ説明するべきである。また、現段階で介護施設において推奨される対策として標準的なものはないが、科学的エビデンスや技術は進歩を続けており、施設における対策や手順を定期的に見直し、転倒防止に努める必要がある。
ステートメント作成の背景について全老健の東憲太郎会長は、「私が2年前、介護施設における転倒の問題をエビデンスを持って説明できないかと日本老年医学会にお願いし、検討が始まった。私どもの施設でも転倒は頻繁に起こるが、利用者・入所者、その家族、サービスを提供している私どもとの間で不幸にも理解が得られない事態が生じている。その場合、高額な賠償請求に至るケースもある。利用者・家族と施設の間でなぜ転倒に関する理解の違いが生じているのか。ここをしっかりと説明できれば、国民への介護施設における転倒の理解も進むのではないかと考えた」と述べた。
検討ワーキンググループの楽木宏美委員長(大阪大学大学院教授)は、「現状においては、施設内の環境整備など一般的に導入されている標準対策が行われていた場合、転倒関連骨折や転倒関連死亡の発生は老年症候群の転帰の一つと考えることが妥当であるということが科学的な結論である。学術団体や介護にかかわる施設・団体、さらに産業界や行政は転倒予防を含めた介護のレベルを向上させるための科学を進歩させ、それを取り入れる体制構築に継続的に取り組むことが求められる」と述べた。