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#11|給付調整の早期終了(調整期間の一致)

高橋 俊之(たかはし としゆき)/日本総合研究所特任研究員、元厚生労働省年金局長

 2025年の年金制度改正に向けた厚生労働省の社会保障審議会年金部会の議論も、終盤です。日本総合研究所特任研究員で元厚生労働省年金局長の高橋俊之さんが、わかりやすく説明し、皆さんと一緒に考えます。
 連載第11回は、11月25日の年金部会で、基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了(マクロ経済スライドの調整期間の一致)について、年金局の具体案が示され、議論が行われましたので、その内容と論点について解説します。


1.給付調整の早期終了(調整期間の一致)の必要性

(1)改正の必要性・意義と見直しの方向性

 改正の必要性と意義、見直しの方向性は、図表1のとおりです。これまで、見直しの手段を基に「マクロ経済スライドの調整期間の一致」と呼ばれてきましたが、年金局では、その趣旨や目的が伝わりにくいということで、今回から、趣旨、目的を基に「基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了」と呼ぶこととしたとのことです。

 公的年金の年金額は、本来は、賃金や物価の伸びに応じて改定し、実質的な価値を維持していますが、現在は、長期の財政安定のためマクロ経済スライドにより改定幅を抑制しています。これは、少子高齢化が進む中にあっても持続可能性を確保し、将来にわたり現役世代の保険料負担の上昇を抑えるとともに、将来の年金額を確保するために必要な仕組みです。

 しかし、デフレ経済の下でマクロ経済スライド調整の発動が遅れた間に、給付調整の期間が長期化し、過去30年の状況を投影した経済前提では、報酬比例部分は2026年度に終了する一方、基礎年金の給付調整は30年以上継続の見込みです。現行の仕組みを前提にすると、基礎年金のみ給付調整が続き、基礎年金の給付水準が長期にわたって低下し、この結果、厚生年金の所得再分配機能も低下します。

 このため、この改正は、年金制度の持続可能性を確保しつつ、将来の公的年金全体の給付水準の向上を図る観点から、基礎年金と報酬比例部分の給付調整期間を一致させることによって、基礎年金の給付調整を早期に終了させ、賃金や物価に連動した年金額を実現し、同時に将来の基礎年金の給付水準も向上するものです。

 基礎年金水準の向上により、将来においては、厚生年金の受給者を含め、ほぼすべての受給者の年金水準が上昇し、特に、基礎年金の再分配機能が強化されることにより、低所得層への効果が大きいものとなります。

 制度の見直しの具体的な内容は2点あり、一つは、国民年金と厚生年金それぞれの財政均衡を維持した上で、基礎年金(1階)と報酬比例部分(2階)の調整期間を一致させることで、公的年金全体として給付調整を早期に終了させることです。また、2つ目に、そのために、基礎年金拠出金の算定方法を、現行の被保険者数の人数割に加え、積立金も勘案して計算する仕組みに変更することです。

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