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総括:安倍長期政権(中村秀一)

霞が関と現場の間で

7年8か月振りの首相の交代

8月28日に安倍首相が突然辞任し、一気に菅内閣の誕生となった。

筆者は2001年から14年まで月刊誌『年金時代』のコラムを執筆した。小泉内閣以後、内閣が変わるたびにの話題を取り上げたが、安倍(第1次)、福田、麻生、鳩山、菅、野田、安倍(第2次)とほとんど毎年、首相が交代して忙しかった。

今回は史上最長を記録した首相の交代だ。安倍内閣の継承を唱える新内閣の行方を占うためにも、前政権を総括しておこう。

転機となった骨太方針2015

スタート時、第二次安倍内閣は3党合意を尊重し「一体改革」を継続した。2014年4月の消費税率8%への引き上げはその証である。

その一方で、新政策を次々に繰り出した。14年9月には地方創生のための本部を立ち上げた。その1年後には「アベノミクス新3本の矢」として「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を発表。希望出生率1.8、介護離職ゼロを打ち出し、「一億総活躍社会」の実現を目指した。その後も「働き方改革」、「人生100年時代」と新政策の連発であった。

社会保障にとっては2015年6月の骨太方針2015が転機となった。2020年度までに国と地方の基礎的財政収支を黒字化する目標に向けて16年度から18年度までの社会保障関係費の伸びを3年間で1.5兆円にとどめることとされた。16年度と18年度の診療報酬改定では要削減額(1700億円と1,300億円)を捻出するため、これを受けて薬価等が大幅に引き下げられた。

2度の消費増税の延期

消費税率の10%の引き上げは2回延期された。安倍首相は2014年11月に突如引き上げの延期を表明し、「民意を問う」として衆議院を解散、翌月の総選挙で圧勝した。さらに、16年7月の参議院選挙直前に消費税率引き上げの再延期を表明、この選挙でも勝利した。

2017年9月には、記者会見で臨時国会冒頭の解散と「消費税の使途の変更」を表明した。使途の変更は、幼児教育の無償化や高等教育の負担軽減など、事業費2兆円規模の「人づくり革命」を行うためで、これが解散の「大義」とされた。この選挙も与党の大勝に終わった。

「使途の変更」で、2020年度の財政健全化の達成は事実上放棄された。コロナ対策で2回の大型補正予算が組まれ、目標達成時期はさらに遠のいた。

19年9月から全世代型社会保障検討会議が設置され、ポスト一体改革のシナリオを描くはずであったが、コロナのため安倍内閣では結論に達しなかった。政権の終幕を象徴するかのようだ。 

(本コラムは、社会保険旬報2020年10月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長
国際医療福祉大学大学院教授
1973年、厚生省(当時)入省。 老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。


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