いずれのケースも給付水準が改善、基礎年金拠出期間の45年化は見送りに――令和6年財政検証結果
厚生労働省の社会保障審議会年金部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事、法学学術院教授)は7月3日、令和6年財政検証結果の報告を受けた。財政検証では、5年に一度年金財政の見通しとマクロ経済スライドによる給付水準の自動調整の開始・終了年度の見通しを作成し、年金財政の健全性を検証する。次回の財政検証までに公的年金の給付水準として用いられる所得代替率(現役男子の平均手取り収入額に対する年金額の比率)が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準調整の終了や、給付および負担の在り方について検討を行うことになっている。
今回の財政検証では、労働参加や経済成長が進展する「高成長実現ケース」、「成長型経済移行・継続ケース」のほか、労働参加が緩やかに進展し経済成長が過去30年間と同程度で続く「過去30年投影ケース」、労働参加が現状と変わらず経済成長が落ち込む「1人当たりゼロ成長ケース」、の4つの経済前提を設定した。
次回財政検証が行われる5年後(2029年度)の所得代替率は、いずれのケースでも50%を上回る見通しとなった。また、マクロ経済スライドによる年金給付水準の調整期間が終了するのは、「高成長実現ケース」で2039年となり、所得代替率は56.9%、「成長型経済移行・継続ケース」で2037年、57.6%、「過去30年投影ケース」で2057年、50.4%の見通しだ。「1人当たりゼロ成長ケース」では、2059年度に積立金がなくなり、所得代替率はその後37%~33%程度となる見通しとなった。厚労省は今回の結果について前回の財政検証よりも給付水準が大きく上昇したとしている。
財政検証による財政見通しは、現行の制度を続けた場合の財政状況を示すことになっているため、厚労省は年金制度改正を行った場合の財政状況について試算する「オプション試算」も併せて実施した。今回は、①被用者保険の更なる適用拡大を行った場合②基礎年金の拠出期間延長・給付増額を行った場合③基礎年金と報酬比例部分のマクロ経済スライドによる調整期間を一致させた場合④在職老齢年金制度の見直しを行った場合⑤厚生年金の標準報酬月額の上限を現行の65万円から見直しを行った場合――の試算を行った。
今後年金部会ではこれらの見通しを踏まえて制度改正の議論を進める予定だが、厚労省は今回の財政検証とオプション試算の結果で所得代替率が比較的高い水準を確保できる見通しとなったことから、基礎年金の拠出期間を45年に延長する必要性は乏しいとし、議論を見送る方向性を示した。