全世代型社会保障構築会議の再開に思う(中村秀一)
4か月振りの審議再開
参議院選挙で中断されていた全世代型社会保障構築会議が9月に再開となった。4か月振りの開催である。岸田首相からは、年末に「子ども・子育て支援の充実」「医療・介護制度の改革」「働き方に中立的な社会保障制度等の構築」について報告をとの要請があった。
安倍・菅内閣での全世代型社会保障検討会議は十分な成果を上げないまま終わった。今回の構築会議はその使命を果たすことができるだろうか。
過去の改革に学ぶ
過去の大きな社会保障改革としては、1980年代前半の「福祉見直し」、2000年代前半の小泉政権下の諸改革、2010年代の「社会保障と税の一体改革」が思い浮かぶ。これらには共通するパターンがある。
まず、政権全体で取り組む課題の中に組み込まれていたことだ。「行政改革」(80年代前半)、「構造改革」(小泉内閣)、「消費税増税による社会保障の機能強化」(民主党政権)である。
そして、それぞれ、土光会長を戴いた「第二臨調」、中央省庁改革で誕生したばかりの「経済財政諮問会議」、2012年の「3党合意」で法定された「社会保障制度改革国民会議」という改革を牽引する仕掛けがあった。
何よりも首相のリーダッシップ。中曽根首相なくして第二臨調は考えられない。「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉首相でなければ、健保本人の3割負担は実現しなかった。政権の存続をかけても「一体改革」を貫いた野田首相がいなければ、消費税率の引上げとその社会保障目的税化は達成されなかった。
新たな社会保険方式を誕生させた介護保険制度の創設は、これらの例外である。ただし、細川連立政権下で検討を開始し、自社さ政権下で法案が成立という特別な政治環境があった。厚生省側から新制度を提起し、審議会等を含め長い時間をかけて支持を広げた。結果、幅広い世論の後押しを得て、ようやく制度化に漕ぎ着けた。
問われる首相の本気度
今回の改革については、こども家庭庁の発足(23年4月)、診療報酬と介護報酬の同時改定、猶予されていた医師への「働き方規制」の適用、新医療計画の開始(いずれも24年)、年金の財政検証(25年)といったスケジュールを控え、検討に与えられた時間は限られている。
その一方で、今後5年での防衛費の倍増や、「新しい資本主義」関連の政策等々、競合する課題も多い。社会保障改革の行く手は極めて厳しいものがある。改革を成し遂げるには、首相の強いリーダーシップが必要とされるのである。
(本コラムは、社会保険旬報2022年10月1日号に掲載されました)