令和3年度障害福祉サービス等報酬改定がまとまる(2月4日)
厚労省は2月4日、障害福祉サービス等報酬改定検討チームを開催し、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定概要案を示した。検討チームでは了承された。また厚労省は翌5日に概要を公表した。今後、1カ月のパブリックコメントを経て、運営基準と報酬告示は3月下旬に公布される予定だ。
今回の改定では、新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価として、全サービスについて9月末までの間、基本報酬に0.1%の上乗せ評価を行うことが盛り込まれた。
また障害児者の地域生活を支援するため、自立生活援助や地域生活支援拠点等の整備を促進する。自立生活援助や計画相談支援などでピアサポートの専門性を評価する「ピアサポート体制加算」を新設する。医療ニーズのある障害児者を地域で支えていくために、医療的ケア児者の支援を手厚くしていく。医療型短期入所の受入体制の強化や障害児通所支援での医療的ケア児の基本報酬の新設などを図る。改定のポイントをみてみる。
全サービスの基本報酬に9月末まで0.1%分を上乗せ
令和3年度報酬改定の改定率は+0.56%。このうち+0.05%を新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価にあてる。
今回出された改定案では、全サービスについて、令和3年9月末までの間、通常の基本報酬に0.1%分の上乗せを行う方針を示した。
10月以降の取扱いについては、「この措置を延長しないことを基本の想定としつつ、感染状況や地域における障害福祉サービス等の実態等を踏まえ、必要に応じ柔軟に対応する」としている。年末の財務大臣と厚労大臣の折衝を踏まえてのもの。
6つの基本的な考え方で報酬・基準を見直し
今回の改定では大きく次の6つの基本的な考え方を踏まえ、各サービスの報酬・基準を見直す。
(1) 障害者の重度化・高齢化を踏まえた地域移行・地域生活の支援、質の高い相談支援を提供するための報酬体系の見直し等
(2) 効果的な就労支援や障害児者のニーズを踏まえたきめ細かな対応
(3) 医療的ケア児への支援などの障害児支援の推進
(4) 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの推進
(5) 感染症や災害への対応力の強化
(6) 障害者福祉サービス等の持続可能性の確保と適切なサービス提供を行うための報酬等の見直し
6つ考え方に沿って、主な内容を紹介していく。
(1)障害者の重度化・高齢化を踏まえた地域移行・地域生活の支援、質の高い相談支援を提供するための報酬体系の見直し等
自立生活援助の整備を促進
地域生活の支援から、自立生活援助の整備を促進するために報酬・人員基準等を見直す。自立生活援助サービス費(Ⅰ)の対象者を拡充し、同居家族の死亡等により急遽、一人暮らしをすることとなった者を加える。
夜間の緊急対応・電話対応で新たな評価として「緊急時支援加算」を設定する。加算(Ⅰ)は、緊急時に利用者等からの要請に基づき、深夜に速やかに利用者の居宅等への訪問等による支援を行った場合を評価する(711単位/日)。加算(Ⅱ)は、深夜に電話による相談援助を行った場合を評価する(94単位/日)。
地域生活支援拠点等の緊急時の受入機能を強化
地域生活支援拠点等の整備も促進する。緊急時の受入機能を強化する。市町村が地域生活支援拠点等として位置付けた短期入所事業所で、短期入所を行った場合の加算を新設する(+100単位/日)。これは緊急時の受入れに限らない。
相談支援で「機能強化型」の支援費を新設
質の高い相談支援を提供するため、計画相談支援・障害児相談支援の基本報酬を充実する。計画相談支援の単位数を引き上げるとともに、特定事業所加算を組み込む「機能強化型」をサービス利用支援費及び継続サービス利用支援費に導入する(障害児相談支援でも同様)。
また機能強化型の算定要件を満たすうえで、地域生活支援拠点等を構成する相談支援事業所の場合は特例がある。常勤専従の相談支援専門員を1名配置し、拠点等を構成する複数の相談支援事業所で人員配置要件が満たされていることや24時間の連絡体制が確保されていることで算定要件を満たすことを可能とする。
主任相談支援専門員の配置については、見直し後の基本報酬のいずれの区分でも常勤専従の主任相談支援専門員を1人以上配置していることを別途評価する「主任相談支援専門員配置加算」を新設する(100単位/月)。
(2)効果的な就労支援や障害児者のニーズを踏まえたきめ細かな対応
就労継続支援A型の基本報酬の算定を5つの評価項目でスコア化
就労継続支援A型の基本報酬を見直す。現行では、「1日の平均労働時間」に応じて報酬を設定している。基本報酬の算定に係る実績について、「1日の平均労働時間」に加え、「生産活動」「多様な働き方」「支援力向上」「地域連携活動」の5つの観点からの評価項目の総合評価によるスコア方式とする。
医療型短期入所の受入体制を強化
医療型短期入所の受入体制を強化する。医療型短期入所の対象者を整理し、障害支援区分5以上に該当し、強度行動障害があり医療的ケアを必要とする者を対象とする。
また医療型短期入所事業所で保育士等を配置したうえで、当該専門職が日中活動に係る支援計画を作成し、日中活動を実施している場合を評価する加算を新設する。
これに止まらず、今回の改定では全般的に医療的ケア児者にきめ細かく対応する。
(3)医療的ケア児への支援などの障害児支援の推進
障害児通所支援で医療的ケア児の基本報酬を新設
障害児通所支援(放課後等デイサービス・児童発達支援)において医療的ケア児の基本報酬を新設する。「動ける医療的ケア児」にも対応した新たな判定スコアを用いる。
また放課後等デイの基本報酬では、一定の指標に該当する障害児数による2つの区分分けを廃止する。さらに基本報酬と児童指導員等加配加算は経営状況等を踏まえて見直す。
そのうえで、より手厚い支援を必要とする子どもに応じてきめ細かく対応するため、「個別サポート加算」「専門的支援加算」を創設する。
個別サポート加算は、加算Ⅰと加算Ⅱを設定する。加算Ⅰでは、ケアニーズの高い児童への支援を評価する(100単位)。加算Ⅱでは、虐待等の要保護児童等への支援を評価する(125単位)。
専門的支援加算は、専門的な支援を必要とする児童のため理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・心理担当職員・国立障害者リハビリテーションセンター視覚障害学科履修者を常勤換算1以上配置した場合を評価する(放課後等デイで75単位~187単位/日、放課後等デイ(重症心身障害児)で125単位~374単位/日)。
児童発達支援の基本報酬等も見直す。
障害児入所施設の人員配置基準を手厚くする
福祉型障害児入所施設では人員配置基準を見直す。たとえば主として知的障害児を対象とした施設では現行の4.3:1から4:1と手厚くするとともに、基本報酬も引き上げる。定員31人~40人の場合655単位から688単位とする。
障害児入所施設の18歳以上の入所者の地域移行を推進するため、ソーシャルワーカーを配置した場合の報酬上の評価を行う。
(4)精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの推進
より早期の地域移行支援に加算を新設
「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの推進」では、入院中の精神障害者の早期の地域移行を進めるために、地域移行支援において、1年未満の退院を加算で評価する。具体的には、現行の退院・退所月加算(2700単位/月)に、入院後3か月以上1年未満で退院する場合にかぎり500単位/月を上乗せする。
精神科病院等への情報提供を評価
自立生活援助・地域定着支援で、日常生活支援情報提供加算(100単位/回。月1回を限度)を新設する。本人の同意を前提として精神障害者が日常生活を維持するうえで必要な情報を精神科病院等に提供することを評価する。
住まいの確保の支援を強化
精神障害に限らず、障害者の地域生活のサポートを充実させていく。障害者の地域での住まいの確保を促進するため、地域相談支援事業者・自立生活援助事業者と、居住支援法人・居住支援協議会との連携体制を評価する「居住支援連携体制加算」を新設する(35単位/月)。
加えて、住居の確保及び居住支援に係る課題を報告するなどの取組を評価する「地域居住支援体制強化推進加算」も新設する(500単位/回。月に1回を限度)。
ピアサポートを評価
計画相談支援・障害児相談支援・自立生活援助・地域移行支援・地域定着支援において、研修等の一定の要件を満たしたピアサポートを評価する「ピアサポート体制加算」を新設する(100単位/月)。利用者と同じ目線に立って相談・助言等を行うことにより、本人の自立に向けた意欲の向上や地域生活を続ける上での不安の解消に効果があるためだ。
(5)感染症や災害への対応力強化
全サービスに感染症・災害発生時のBCPの策定などを義務付け
全サービスを対象として感染症・災害が発生した場合の業務継続に向けた計画(BCP)の策定、研修・訓練の実施などを運営基準で義務付ける。
さらに全サービスを対象として感染症対策を強化する。感染症の発生及びまん延の防止等に関する取り組みを徹底させるために、委員会の開催や指針の整備、研修の実施、訓練の実施を運営基準で義務付ける。
いずれも3年の経過措置期間を設ける。
(6)障害者福祉サービス等の持続可能性の確保と適切なサービス提供を行うための報酬等の見直し
障害者の権利擁護に向けた取組を強化
障害者の権利擁護に向けた取組を強化することや、処遇改善の見直しなどについてあげられている。全サービス事業者において、虐待防止のための対策を検討する「虐待防止委員会」を設置するとともに、委員会での検討結果について従業者に周知徹底することなど運営基準に盛り込み、令和4年度から義務化する。
身体拘束等の適正化も推進する。施設系・短期入所系・居住系・通所系・就労系・訓練系サービスについて運営基準で施設・事業所が取り組む事項を追加するとともに、減算要件の追加を行う。また訪問系サービスでも運営基準に「身体拘束等の禁止」を設けるとともに身体拘束廃止未実施減算を新設する(▲5単位/日)。
特定処遇改善加算の配分ルールを柔軟化
福祉・介護職員等特定処遇改善加算について、より柔軟な配分に向けて配分ルールを見直す。 また福祉・介護職員処遇改善加算Ⅳ・Ⅴ及び、処遇改善特別加算について、上位区分の算定が進んでいることを踏まえ、1年の経過措置を設けたうえで、廃止する。なお特別加算は、処遇改善加算より下位の加算であり、福祉・介護職員に限定しないとともに、キャリアパス要件や職場環境等要件を問わない、障害福祉サービス独自のもの。
その他
通所系・短期入所系サービス等に導入されている、利用者の負担軽減に資する食事提供体制加算の経過措置は3年間延長する。
その理由として、「栄養面など障害児者の特性に応じた配慮や食育的な観点など別の評価軸で評価することも考えられるかという点も含め、他制度とのバランス、在宅で生活する障害者との公平性等の観点も踏まえ、更に検討を深める必要がある」としている。