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「異次元の少子化対策」をめぐって(中村秀一)

霞が関と現場の間で

防衛費先行の23年度予算

年末に政府の予算案が取りまとめられた。焦点の防衛費は6兆7,880億円で1兆4,192億円増、伸び率26.4%という大幅な伸びとなった。これに「防衛力強化資金の繰入れ」3.3兆円を加えると10.1兆円に達する。

これに対し、子ども・子育て予算については、岸田首相が10月に国会で「来年度の骨太方針には、将来的に倍増を目指していく上での当面の方針を明確にしていきたい」と答弁し、早々に先送りが決まった。防衛費の増額だけで精一杯で、子ども・子育て予算の倍増まで抱えられないという判断だったのだろう。「防衛費だけが突出」という批判を浴びるリスクも大きいとは思うのだが。

そのような中でも出産育児一時金の引上げは行われる。後期高齢者の保険料を引き上げた上で、出産育児一時金の財源にも充てられるようにする医療保険制度改正が決まった。他方、並行して検討されてきた介護保険制度の見直しについては、2割の利用者負担の範囲拡大などが焦点であるが、結論を持ち越した。高齢者に負担増が集中するという批判を恐れたのだろう。

「異次元の少子化対策」

少子化対策置き去りという批判払拭のためか、首相は年頭に「異次元の少子化対策」を打ち上げた。小倉こども政策担当大臣の下に関係省庁検討会を設置し、3月末までに「たたき台」をとりまとめるという。

予算倍増というからには、その財源が焦点となる。早速、甘利・前自民党幹事長からは消費税を財源にという発言があり、鈴木財務大臣が「検討していない」と火消しに追われた。財源の議論は統一地方選挙が済んでからという思惑が見え隠れする。

年末に、防衛費増強のための増税をめぐっての政府・与党の迷走を目の当たりにしたばかりだ。今や日本社会の最大課題である少子化対策の財源を、統一地方選挙後から骨太方針作成までの短期間に決められるのだろうか。

対GDP比3%という目標

日本の児童・家族関係費は2020年に10兆5,423億円と初めて10兆円を超え、対GDP比1.96%となった。「1.57ショック」の1990年に1.6兆円、0.35%であったことからすると、隔世の感がある。特に伸びが大きかったのは、「子ども手当」が導入された2010年(対GDP比は0.77%から1.08%に急上昇)と消費税増税で財源確保された2014年以降であり、2014年から20年まで4.6兆円の増加をみた。

少子化対策先進国並みの対GDP比3%を目標とすると、あと5.5兆円程度が必要となる。2014年以降の伸びを考えると、十分手が届く規模だ。安定財源が確保できればではあるが。

(本コラムは、社会保険旬報2023年2月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長 国際医療福祉大学大学院教授
 1973年、厚生省(当時)入省。老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。

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