精神科救急医療体制の整備に向け報告書素案を提示(11月13日)
厚労省は13日、「精神科救急医療体制整備に係るワーキンググループ」(藤井千代座長)に報告書素案を示し、意見を求めた。素案では、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」における精神科救急医療体制の整備の在り方を提案。初期救急医療と、第二次・第三次救急医療などの機能を示すとともに、都道府県に対して一定の評価基準に基づき、精神科救急医療圏域ごとにおける精神科救急医療に関する評価の必要性を指摘した。
同WGは、12月開催予定の次回会合で報告書を取りまとめる予定だ。報告書は、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムに係る検討会」に報告される。厚労省はWG報告書等を踏まえ、次年度以降、都道府県・指定都市が取り組んでいる「精神科救急医療体制整備事業」等の見直しを進める考え。
初期、第二次・第三次の救急医療の機能を示す
素案は大きく⑴はじめに、⑵精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおける精神科救急医療体制の位置づけと考え方、⑶精神科救急医療に求められる体制、⑷今後の精神科救急医療の体制整備に係る取組─の4部構成。⑷に関して厚労省は、この日の議論を踏まえて次回示すことを説明した。
⑵精神科救急医療体制の位置づけと考え方では、「精神科救急医療体制には、空白地帯の許さないセーフティネットとしての役割が求められる」と指摘。他のケアシステムや保健、医療、障害福祉、介護等サービスと連動しながら、地域全体を公平にカバーすることを目指すべきとし、さらに「当事者視点に立った整備が行われることが重要」としている。
体制整備の意義として▽急性増悪・急性発症への即時、適切な介入による機能低下の予防▽長期在院の防止▽多様な精神疾患への対応体制の構築─をあげた。
支援対象について、日本精神科救急学会が「精神科救急状態」と定義する「精神疾患によって自他への不利益が差し迫っている状況」を示し、家庭等で対応が困難な状況を想定した。
⑶精神科救急医療に求められる体制では、圏域の設定について、人口規模に合わせながらアクセスを考慮し、24時間365日、当該圏域内に①身近で対応できる医療機関が存在する(受診前相談・初期救急医療)とともに、②①の医療機関では対応できない場合の後方支援等が可能な医療機関が存在する(救急医療、第三次救急医療)ことを最低限の要件とするとしている。
また、素案では、住み慣れた地域で支援が受けられるよう、地域の精神科診療所等の精神科医等で構成される「地域精神保健チーム(CMHT)」等を編成し、アウトリーチによる対応を想定しておくことも挙げた。
その上でそれぞれの機能に関して提示した。
まず受診前相談では、精神医療相談窓口や精神科救急情報センターの役割を整理した。
精神医療相談窓口では、受診の要否や服薬、地域の支援等、多様な相談に対応できるとともに、精神科救急情報センター又は精神科救急医療施設と連携し、緊急の受診や入院などの連携先を確保していることなどを挙げた。
精神科救急情報センターについて、入院又は救急受診の要否に関する適切な判断ができることや、緊急連絡に対応できること、身体合併症の事例にも対応できることを求めた。
初期救急医療を担う医療機関の役割としては、かかりつけ精神科医等が時間外の診療に対応できることや、相談者のニーズに応じて往診や訪問看護が可能であること、診療を行った上で、入院の要否に関する判断を行うことを挙げた。
第二次・第三次救急医療における機能としては、初期救急医療を担う医療機関の後方支援を行い、原則、対応要請を断らないことや、措置入院・緊急措置入院に係る対応が可能であること、身体合併症(新型コロナウイルス感染症への対応を含む)への対応が可能であることを挙げた。こうした機能を担う施設として、24時間365日対応する「常時対応型精神科救急医療施設」や、「病院群輪番型精神科救急医療施設」、「身体合併症対応施設」を示した。これらは従前の体制整備事業でも整備を進めてきた。
身体合併症について、精神科救急医療を担う医療機関の多くが精神科単科の医療機関であり、受け入れが困難である場合が少なくない現状を紹介。
その上で、精神疾患と身体合併症の両方を診ることができる単一の医療機関を身体合併症対応施設として指定する場合に加え、複数の医療機関間の連携で対応する場合を想定。精神科救急医療施設と他科の医療機関との連携により支援し合う仕組みの構築が求められることを指摘した。対象となる疾病に対応できる医師が、患者のかかっている医療機関に対診することや、訪問・電話などにより助言することを挙げた。ICTの活用も示した。
体制整備について圏域ごとでの都道府県による評価の必要を指摘
体制整備の調整・連携を担うのは、従前から設置している関係者による「救急医療体制連絡調整委員会」であることを提示。委員会の協議内容として、圏域の設定や、常時対応型・病院群輪番型の各医療施設の指定、身体合併症に対する体制整備など多岐にわたることを挙げた。
その一方、現状における同委員会の協議内容は、精神保健福祉法の指定病院の再確認や制度の振り返りなどに止まることが多いことや、開催回数も都道府県により年1回から数回など、差が生じていることを紹介した。
その上で、都道府県に対して精神科救急医療体制の機能の状況について、圏域ごとに設置した検討部会で、一定の評価基準に基づき評価する必要を指摘。具体的な指標に基づく評価の仕組みの必要性を強調した。
さらに同委員会で、評価結果を集約したうえで、圏域内にとどまらない課題や全県的な体制の確保について確認・検討することや、般の救急医療体制における会議体との意見交換を行うなど相互の連携を図ることが重要としている。
素案に対して、検討会では、精神科救急医療における第二次・第三次救急医療の違いを整理するよう求める声が上がった。
第二次・第三次救急医療で求められる医療機能として、新型コロナへの対応を含む身体合併症など3点が示されていることに「すべてが求められるのかと受け止められてしまう」という懸念が示された。
精神科医療救急体制の整備について国で定期的に状況を評価・検討していく場を設置するように求める意見が出された。
⑷今後の精神科救急医療の体制整備に係る取組の記載内容については、厚労省、都道府県、市区町村、医療機関、地域住民、患者・家族などの関係者が今後どのようなことに取り組むかとともに、市区町村が「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」を構築するうえでどのように取り組むかという2つの視点から整理することが提案された。
WGは、12月11日の第4回会合で報告書案を取りまとめる予定だ。