医療保険部会、被用者保険の前期納付金に「総報酬割」の部分導入(12月1日)
社会保障審議会の医療保険部会は12月1日、被用者保険者間の格差是正の方策について議論した。厚労省は前期高齢者納付金への「総報酬割」の部分的な導入を提案するとともに、各保険者への財政影響の試算を示した。被用者保険の代表は負担増を懸念し、導入で削減される国費については全額現役世代の負担軽減に充てることを求めた。
現行の高齢者医療制度における拠出金負担の調整の仕組みでは、後期高齢者支援金は被用者保険者間で各保険者の総報酬額に応じて按分しており、前期高齢者については各保険者が前期高齢者加入率に応じた納付金を負担している。
今回の見直しでは、被用者保険者間の保険料負担を公平にするために負担能力に応じた仕組みを強化し、前期高齢者納付金において現行の加入者割に加え、部分的に報酬水準に応じた総報酬割の仕組みを導入することが提案された。また、前期高齢者の少ない小規模保険者では年度ごとの前期高齢者納付金の変動が大きな負担となっていることから、前期高齢者納付金の計算において3年平均給付費を用いる考えも示された。
あわせて、部分的な総報酬割の導入による前期高齢者納付金への財政影響(2040年度満年度ベース)を提示。
総報酬割を4分の1導入するケースでは、健保組合と共済組合はそれぞれ+450億円、+260億円の負担増となる一方、協会けんぽは▲730億円と減少する。3分の1導入では健保組合+600億円、+共済組合350億円で、協会けんぽは▲970億円。2分の1導入では健保組合+890億円、共済組合+520億円で、協会けんぽ▲1450億円となる。
ただし、協会けんぽは総報酬割の導入部分の国庫補助が廃止されることから、実際の影響額は4分の1導入で+240億円、3分の1導入で+320億円、2分の1導入で+480億円の負担増になる。一方、国費は4分の1導入で▲970億円、3分の1導入で▲1290億円、2分の1導入で▲1940億円減の負担減となる。
健保組合は負担増、国費は負担軽減「改革の目的な何なのか考えざるを得ない」
同部会では、健保連や協会けんぽなど被用者保険関係5団体が意見書を提出。医療保険制度改革での現役世代の負担軽減の施策の確実な実施や、被用者保険者間の格差是正に伴い削減した公費財源を現役世代の負担軽減に全額充てることを要請している。
意見書を踏まえて健保連の佐野雅宏副会長は厚労省の提案に対し、「今回の改革の最大の目的は現役世代の負担軽減である。最も影響の少ない4分の1導入でも健保組合は450億円の負担増になり、改革の趣旨に合わない。しかも国費負担は4分の1導入でも970億円減と、大きく減少する内容になっている。これでは被用者保険者間の格差是正をなんのために行うのかまったく理解できない。今回の改革の目的が何なのか改めて考えざるを得ない。改革で減少した公費財源は改革の趣旨を踏まえ、全額現役世代の負担軽減に充ててほしい。報酬調整を行うとしても、極力調整部分を小さくするのは当然として、健保組合に対する支援策を充実強化して少なくとも健保組合の負担軽減につながる内容にしてもらわないと健保組合、事業主、加入者の納得は得られない」と述べた。
現役並み所得の判断基準や負担への金融資産・所得の反映は引き続き検討
厚労省は同部会で、骨太方針や改革工程表に盛り込まれている①現役並み所得の判断基準の見直し②負担への金融資産・所得の反映③広域連合による事務処理が行われている後期高齢者医療制度―の3項目については今回の制度改正での対応を見送り、引き続き検討する方針を示した。
後期高齢者の現役並み所得の判断基準については、現役世代との均衡の観点から見直しの検討が求められていた。厚労省は、◇一定所得以上の後期高齢者への窓口負担2割が10月に導入され、施行状況を注視する必要がある◇現役並み所得者への医療給付費には公費負担がないため、判断基準などの見直しに伴い現役世代の負担が増加する―といった理由をあげ引き続きの検討課題とした。
負担への金融資産・所得の反映については、負債を把握することが困難なことや、保険者の事務負担が増加することを理由にあげ、金融所得に対する税制のあり方なども踏まえつつ、引き続き検討するとした。
現在、広域連合が事務処理を行っている後期高齢者医療制度については、地方公共団体の意見を十分に踏まえながら、中長期的な課題として検討を深めていくとの認識を示した。