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変わらぬ薬価依存の社会保障予算(中村秀一)

霞が関と現場の間で

追い込まれての緊急事態宣言

新型コロナウイルスの感染が止まらない。新年早々1都3県に緊急事態宣言がなされ、対象地域も拡大された。前回の緊急事態宣言は、昨年4月7日(1都7県)に始まり、最後まで残った1都5道県で解除されたのは5月25日であった。

その後、7月22日にGo Toトラベルが前倒しで開始されたが、感染拡大により12月14日に全面的に停止された。

就任時に「爆発的な感染拡大を防止し、社会経済活動との両立を目指す」とした菅首相であるが、感染拡大と二階幹事長ら8人との会食で批判されるなど対応の不適切さもあり、支持率の低下を招いた。追い込まれた形での緊急事態宣言で、前途多難を思わせる。

後期高齢者医療費2割負担の決着

コロナ禍ではあるが(あるからこそ)、社会保障の後退は許されない。昨年末は、後期高齢者の患者自己負担の2割への引き上げが焦点となった。手順としては、厚生労働省医療保険部会でも審議を行い、年末が最終とりまとめの期限とされた全世代型社会保障検討会議で決定されるはずであった。

しかし、医療保険部会は、厚生労働省から5つの「機械的な選択肢」が示されたが決めきれなかった。与党での調整が並走した。自民党内では意見が分かれ、2割負担の範囲をできるだけ絞りたい公明党と幅広い負担を求める菅首相とが対立した。最終的には両者のトップ会談で妥協が成立し、それを受けて全世代型社会保障検討会議はとりまとめを行った。長年政府の公式文書を読み込んできた二木立教授は「間違いなく史上『最薄』(本文5頁)・『最低』」と手厳しい。

医療費の国庫負担は減少

年末に閣議決定された来年度予算案は、歳出総額106兆6097億円(対前年度5兆7037億円増、+5.7%)となった。伸びの大部分は予備費(5兆円増)と国債費(4072億円増)である。社会保障費の伸びが1507億円増、+0.4%に対し、その他の経費は330億円増にとどまる。

例年より社会保障費の伸びが低いのは、コロナの影響で医療費が国費ベースで2000億円落ち込んだためである。社会保障費の自然増は4800億円と見込まれていた。それを高齢化分の増にとどめるために1300億円が削減された。21年度は「薬価の毎年改定」(16年に決定)が初めて適用される。薬価の引下げで約1000億円の削減を実現した。これらの結果、21年度の医療費国庫負担は前年度比1875億円減となった。介護報酬のプラス改定も薬価改定なくしては困難だった。薬価頼みの構図が続いている。 

(本コラムは、社会保険旬報2021年2月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長
国際医療福祉大学大学院教授
1973年、厚生省(当時)入省。 老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。


  


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