新しい複合型サービスに期待と反対の声、LIFEの対象拡大にも推進と慎重の意見――第222回介護給付費分科会(2023年8月30日)<後編>
厚生労働省は8月30日、第222回社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。
「地域包括ケアシステムの深化・推進」「 自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進」を議題とし、【1】~【5】のようにそれぞれの現状と課題や論点について示された。
本記事は、第222回介護給付費分科会における議論の<後編>として、【3】~【5】に関する内容を掲載する。
同日行われた議論のうち、【1】【2】に関する内容については「BPSD対応に報酬評価を、医療は「生活」介護は「医療」の視点含めた連携へ――第222回介護給付費分科会(2023年8月30日)<前編>」を参照。
【3】訪問介護と通所介護の組み合わせか、新しい複合型サービスに賛否が集まる
複合型サービスとは、対象となるサービスを2種類以上組み合わせることにより、居宅要介護者について一体的に提供されることが特に効果的かつ効率的なサービスの組合せにより提供されるサービスであり、現在は訪問看護と小規模多機能型居宅介護を組み合わせた看護小規模多機能型居宅介護のみが設定されている。
対象となるサービスは、次のとおり。
【3】では、こうした複合型サービスに関する、「新しい複合型サービス」について、議論が行われた。
現状と課題を見ていくと、まず、在宅介護サービスでは、2020年度が359万人(実績)に対して、2025年度に405万人(13%増)、2040年度には474万人(32%)に増加することが見込まれている。
このなかで、訪問介護の利用者数は年々増加してきており、請求事業所数も微増している。
また、通所介護・地域密着型通所介護の利用者数は平成31年以降減少傾向となっており、請求事業所数はほぼ横ばいとなっている。
一方、訪問介護員の有効求人倍率は、15.53倍(2022年)で約8割の事業所が不足を感じており、かつ、他の職種に比べて平均年齢が高い一方、サービスの量については2023年の109万人から2030年には124万人、2040年には134万人と増加していくことが見込まれている。
こうしたなか、利用者に関して訪問介護と通所介護・地域密着型通所介護の併用者は、全要介護度で46.7%。
事業者に関しても半数以上が訪問系と通所系の双方を運営しており、職員に関して「人材不足を補える・人材を有効活用できる」というメリットがありつつ、サービス提供についても「通所介護で利用者の性格やニーズを把握し、訪問介護側にフィードバック」、「通所介護に行くための準備を訪問介護でしてもらうこともあり効果的」などと指摘されている。
また、訪問系サービスと通所系サービスを組み合わせた複合的なサービスがあった場合の利用者のメリットとして、以下の事項等も挙げられている。
①訪問サービスと通所サービスを通じて、切れ目のないケアを受けることができる
②通所で明らかになった利用者の課題を訪問でフォローするなど、より質の高いサービスが受けられる
③キャンセル時にサービス内容を切り替えるなど状態の変化に応じた柔軟なサービスが受けられる
こうした現状や課題を踏まえ、厚生労働省では次のような論点が示された。
「うまくいくなら利用者・事業者・制度にプラス」既存のサービスとの棲み分けは必要
議論においては、訪問・通所サービスの組み合わせが焦点となり、肯定的な意見と否定的な意見とが交錯した。
肯定的な意見を見ていくと、全国健康保険協会の𠮷森俊和委員からは、看護小規模多機能型居宅介護などとの棲み分けの整理は必要としつつも、併用により「利用者のより適切な把握のみならず、家族のレスパイトケアに役立つ」との考えが示された。
全国老人福祉施設協議会の古谷忠之委員は、人材の有効活用や質の高いサービス提供への期待を示し、新しいサービスが有効に活用できるようケアマネの位置づけ・報酬のあり方・柔軟な人員基準等を制度設計する必要があるとした。
健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員も、事業所の運営状況や利用者のニーズ等を踏まえサービスの創設について「検討する必要がある」との認識を示した。そして、報酬設定にあたっては効率的なサービス提供の観点から、従来に比べて利用者負担が重くならないよう検討すべきとした。
民間介護事業推進委員会の稲葉雅之委員は、「もしうまくいくならば、利用者にとって、事業者にとって、そして制度の持続可能性に関してもプラスに働く」としたうえで、①どんなしくみにより効率化が起こり人員の有効活用効果が出るのかわかりやすく示す、②事業者の参入を促すため質の低下を伴わない思い切った基準緩和、③利用者にもわかりやすいサービスが必要であるとした。
「情報連携で足りる課題」複雑な制度のさらなる複雑化に反対
一方、否定的な意見も相次いだ。
認知症の人と家族の会の鎌田松代委員は、「ホームヘルパーを増やす対策ではなくデイサービス職員にも訪問介護をしてもらおうというプラン」に見えるとし、新しいサービスを作ったとしても事業所は増えないのではないかと懸念を示した。
また、包括報酬でかつ要介護で制限されるのであれば「本人や家族にとってはサービスの後退」とし、人材不足への対応策としては「介護人材の応募者を増やす政策を考えてほしい」と訴えた。
日本経済団体連合会の井上隆委員は、訪問・通所サービスの組み合わせに関するメリットなどについて、いずれも事業者間の情報連携で足りる課題とし、新サービス創設による制度の複雑化を懸念しつつ、なぜ新しいサービスが必要なのか十分整理・検討する必要があると主張した。
全国老人保健施設協会の東憲太郎委員も井上委員の意見に同意。複雑な制度をさらに複雑化するとして反対を示した。
日本慢性期医療協会の田中志子委員も「必要性を感じない」としたうえで、地域密着型サービスにより行われるとすれば隣接する自治体の利用者が利用しにくい制度であることから、自治体またぎの手間を軽減する「現存するサービスの規制緩和を先行しては」と提言した。
「労働力不足はこの国全般の話」請求事務の共同処理等で事務負担の軽減を
こうした賛否のあるなかで、日本介護支援専門員協会の濵田和則委員は「普及するかの鍵は報酬体系のしくみによる」との考えを示した。
包括型か時間を基準とした体系かでそれぞれメリットデメリットがあり、包括型の場合は小規模多機能型居宅介護と類似サービスとなることも想定されるため、ケアマネジメントを含めどのような類型にするか検討が必要であるとした。
また、日本介護福祉士会の及川ゆりこ委員は、訪問介護サービスにおいて極めて深刻な人材不足がある一方、「高度化する介護ニーズへの対応がより求められてくるのも事実」とし、初任者研修等の受講やサービス提供責任者の要件について、しっかりと担保する対応を求めた。
ホームヘルパーの不足に関し産業医科大学の松田晋哉委員は、「労働力不足はこの国全般の話」とし、直接的なサービスを提供するため事務作業を軽減する方策を模索した。
地域単位で請求事務を共同処理するバックオフィスのしくみを提案するとともに、複雑な介護報酬を簡略化していくことが大事であるとの認識を示した。
【4】離島・中山間地域・豪雪地帯――必要なサービスの確保をめざし議論
【4】地域の特性に応じたサービスの確保についてみていくと、まず、75~84歳、85歳以上の人口は、2025年にかけて全ての都道府県において増加する見込みであるが、特に東京・愛知・大阪圏において増加が大きい。また、高齢化率は、規模の小さい自治体の方が大きい自治体に比べて高い。
2040年までの介護サービス利用者数を推計すると、ピークを過ぎ増加率が減少に転じる保険者もある一方、都市部を中心に2040年まで増え続ける保険者が多い。
こうしたなかで、都市部・中山間地域等も含めた各地域で、地域の特性に応じながら必要なサービスが確保されることが必要となる。
介護報酬をみていくと、介護従事者の賃金の地域差を反映するため地域区分を設定しており(1単位の単価)、中山間地域等における介護サービス関係施策では加算の評価などを実施している。
また、中山間地域等で市町村が必要と認める場合、人員や設備基準等を緩和した居宅サービスに相当するサービスを保険給付の対象とすることが可能とされている(基準該当サービス)ほか、離島等の地域では基準を定めず一定の質を持つサービスを市町村が保険給付の対象とすることが可能となっている(離島等相当サービス)。
なお、直近の状況を見ていくと、離島地域は都市部や中山間地域と比べ人材確保に課題がある事業所多い一方、人件費や人材確保等のための費用負担に課題のある事業所は少ない。
収支差率が0%未満の赤字となる事業所については、都市部:24.2%、離島:29.0%、中山間地域:31.1%となっている。
こうした地域の特性に応じたサービスの確保に関しては、次のような論点が示され議論が行われた。
通所サービスに特別地域加算等を、地域の実情に応じた方策の検討も要望
全国健康保険協会の𠮷森俊和委員は、「離島・中山間地域・豪雪地帯など、介護人材の確保がより困難だろう地域においては、よりいっそうのICT・介護ロボットの活用が必要になってくる」との認識を示した。
そして、老人保健健康増進等事業における好事例のなかにインカムや見守りセンサーの導入などが挙げられていることから、こうした事例の効果検証を積極的に進めていくことを求めた。
全国老人福祉施設協議会の古谷忠之委員は、地域特性に応じたセーフティネットの役割を担うことへの評価を取り入れた単価の引き上げや、経営困難な地域に対する地域加算の創設等が必要であると訴えた。
また、通所系サービスにおいては豪雪地帯や中山間地域等において地域特性による移動・送迎コストが評価されていないことを問題視。「通所系の経営状態は過去に例がないほど厳しい」として、現在対象とされていない特別地域加算・中山間地域等における小規模事業所加算の適用となるよう、再検討を求めた。
全国町村会の米本正明委員は、サービス利用者宅が遠距離である・点在していることから、移動に時間を要する事業所のなかには、特別地域加算等には該当しない地域もあると主張。必要なサービス提供が確保されるよう、地域の実情に応じた方策の検討を要望した。
【5】入力負担の軽減やアウトカム視点を含めた評価・対象サービス範囲が焦点に
「自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進」では、【5】LIFEに関する議論が実施された。
LIFE(科学的介護情報システム)については令和5年4月時点において53,370事業所が関連する加算を算定しており、運用開始以降、算定事業所数は増加傾向にある。
LIFEの導入後にADLや認知症の状態等について評価する事業所の割合が増加。LIFEの活用により、利用者の状態を多角的に把握できるようになったことや、データを参考に多職種で話し合う場を設け、計画の見直しを行うようになったなどの効果がみられた。
他方で、令和4年度の調査ではデータ提出について、約76%の事業所が負担と感じており、なかでも疾病状況や服薬情報について正確に把握することが難しいと回答した事業所が約2-3割にのぼる。さらに、LIFE関連加算で入力を求めている項目について、複数の加算で項目が重複していることや、選択肢が不足したり定義が曖昧であるなどの課題も指摘されている。
各加算におけるアウトカムの設定についても、アウトカムとしてどのようなことが望ましいかの判断など、評価の難しさも指摘されており、こうした新たなエビデンスの創出に向けてLIFEの入力項目等を見直す必要がある。
また、令和3年度介護報酬改定に関する審議報告では、訪問系サービス等の評価の対象とならないサービスや、居宅サービス全体のケアマネジメントにおけるLIFEの活用を通じた質の評価の在り方等について、今後検討していくべきであるとされている。
こうした現状と課題を踏まえ、次のような論点が示された。
負担軽減や使いやすさの向上を、対象サービス追加には慎重な判断を求める声も
健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員は、データ入力の負担が大きいことなどから「LIFEを活用したいと思わない」割合が3分の1を占めていることに注目。「入力作業の簡素化、さらなる負担軽減を図る必要がある」との考えを示した。
また、アウトカム評価の視点から、蓄積されたデータ・エビデンスを活用し、具体的な評価指標の設定・評価方法を検討したうえで、加算の算定要件に反映していく必要性を訴えた。
全国老人福祉施設協議会の古谷忠之委員は、入力項目の重複の解消やシステムの使いやすさの向上について検討を求めた。LIFE関連加算の算定基準における評価機関はさまざまであり、データ入力回数が増え間違いが起こりやすいとし、たとえば6月に揃えるなどの見直しも必要との考えを述べた。また、アウトカム評価の慎重な検討とともに、プロセス評価の項目も考えていく必要があると指摘した。
日本歯科医師会の野村圭介委員も、施設では口腔衛生管理や口腔機能向上を日常的に管理する部分であることから、現場の入力負担感もあり、できるだけわかりやすく頻度もより実態にあった方向で統一してほしい要望した。
日本看護協会の田母神裕美委員は、令和4年度モデル事業において訪問看護では8つの評価項目で6割以上が「特に問題なく評価できた」と回答していることなどから、項目の精査・負担軽減を図ったうえで訪問看護への拡大を検討するべきと主張した。
一方、日本医師会の江澤和彦委員は、訪問系サービスや居宅介護支援については検討が必要としつつも、まだ充実したフィードバックが不十分であり、PDCAサイクルをまわすノウハウや入力データの精緻化も課題であるとの認識を示し、「新たなサービスの追加には慎重に判断すべき」との考えを示した。
次回第223回介護給付費分科会は、9月8日(金)の14時の開催を予定。議題は調整中となっている。