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BPSD対応に報酬評価を、医療は「生活」介護は「医療」の視点含めた連携へ――第222回介護給付費分科会(2023年8月30日)<前編>

厚生労働省は8月30日、第222回社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。

今回は、令和6年度介護報酬改定にむけて、「地域包括ケアシステムの深化・推進」「 自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進」を議題として議論を実施した。

具体的には【1】【5】のように整理され、それぞれの現状と課題や論点について示された。 

「地域包括ケアシステムの深化・推進」
【1】認知症への対応力強化
【2】医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護
【3】新しい複合型サービス
【4】地域の特性に応じたサービスの確保

「自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進」
【5】LIFE

本記事は、第222回介護給付費分科会における議論の<前編>として、【1】【2】に関する内容を掲載する。


【1】認知症関連加算のあり方とBPSD対応等や評価指標が論点に

【1】認知症への対応力強化を見ていくと、認知症高齢者数は2012年で462万人と推計されているが、2025年には約700万人となり65歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれている。

これに対し、2019年6月には「認知症施策推進大綱」をとりまとめ「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進してきたほか、2023年6月には、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立し、我が国としての認知症施策のあるべき姿が基本法として示された。

介護報酬においても「認知症専門ケア加算」等の評価が設けられており、令和3年介護報酬改定では介護職員のうち、医療・福祉関係の無資格者に対して認知症介護基礎研修の受講を義務付けるなどの見直しが実施されている。

一方、認知症専門ケア加算の算定率は低く、算定要件の一つである認知症自立度の利用者割合が、必ずしも各サービスの利用者実態と合致していないケースもある。

また、令和4年度の調査研究事業では、BPSDの予防・軽減に資する認知症ケアモデルの普及促進を目的に検証を行い、その有効性が示された。

さらに、介護現場のスタッフが簡便に評価できる認知症の認知機能・生活機能に関する評価表の開発を行い、施設入所者を対象に評価表の妥当性等に関する検証調査を実施した。

こうした現状や課題を踏まえ、厚生労働省では次のような論点が示された。

(論点:認知症への対応力強化)
今後、増加が見込まれる認知症の人に対し、認知症になっても、本人の意思が尊重され、尊厳をもって暮らし続けることができるように、在宅の要介護者も含めた認知症対応力を向上させていくことが求められるが、こうした観点から、認知症関連加算の算定状況や在り方について、どのような対応が考えられるか。
また、在宅や施設で生活する認知症の人のBPSDの予防を進め、重症化の緩和を図る観点から、BPSDの更なる理解促進や対応力向上が求められるが、事業所・施設等における体制構築強化に向けて、どのような方策が考えられるか。
さらに、現在調査研究においてその有用性を検証・分析している認知症の認知機能・生活機能に関する評価尺度について、今後、介護現場においてどのような活用が考えられるか。

ストラクチャー評価のみの加算では限界の声、研修との整理も必要か

認知症関連加算の算定率については全国健康保険協会の𠮷森俊和委員が、低水準の加算算定状況である要因を分析し要件設定の課題を明確にする必要性があると指摘。「認知症関連加算を重点化し、認知症対応力を向上させる方向で再考すべきではないか」との考えを示した。

高齢社会をよくする女性の会の石田路子委員は、現場の声を聞き取り算定状況が上がるよう算定要件を検討する必要があると訴えた。

民間介護事業推進委員会の稲葉雅之委員も、認知症専門ケア加算等の算定率の低さに言及。すべての加算の算定状況が分かるよう適切な分析が行われることを希望した。

また、従来の加算方式が主流となっている職員体制への加算や利用人数への加算のようなストラクチャー評価のみでは限界があると指摘。サービスの質の向上に向けて実践的な取り組みのなかから、実行上の価値が出せるようなしくみを考えていくべきではないかと提案した。

全国老人福祉施設協議会の古谷忠之委員は、認知症関連加算の算定率の低さについて、認知症ケアに関する研修の面から意見を述べた。

具体的には、専門研修を希望してもなかなか受けられない現状に踏まえさらなる受講環境の整備を求めるとともに、認知症専門ケア加算の要件に認知症介護指導者養成研修が含まれていることに「趣旨が異なる」ように感じると言及した。

認知症介護指導者養成研修を「専門性が高く今後も継続すべき研修」とする一方で、その目的は介護実務者に対する研修プログラムの作成方法や教育技術の習得であることから、認知症ケアが適切に評価されるよう再検討を求めた。

BPSDケアは報酬上の評価を期待、尺度には生活機能等の評価を

続いて古谷委員は、「BPSDの予防・軽減等を目的とした認知症ケアモデルの普及促進に関する調査研究」について、「非常に有効性が認められる結果が出ている」と評価。普及に向けた介護報酬上での評価を期待した。また、BPSDケアに関する研修について、認知症ケアに関する専門研修の位置づけ当との整理を求めた。

これについては、日本医師会の江澤和彦委員もBPSDの予防や早期対応について適切なケアを、「次回改定で評価して進めていくべき」と訴えた。

また、江澤委員は認知症の評価尺度のあり方に関しては、「生活機能に着目し、できること・できる可能性があることに視点を置いた認知症ケアあるいはケアプランにすることが重要」と指摘した。

これについては、日本慢性期医療協会の田中志子委員も、軽度認知症の人などについて、支援者の見守りや声かけのもと仕事として働ける時間を確保することが望ましいとの考えを示し、「生活能力を高く評価する尺度が必要」との考えを示した。

全国老人保健施設協会の東憲太郎委員は、現在の評価尺度である「認知症高齢者の日常生活自立度」が、「迷惑度や手間のかかり度に目をつけたもの」と指摘。認知症基本法の目的において「認知症の人を含めた国民一人一人がその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する」ために認知機能をしっかりと評価するとともに、介護現場・医療現場の双方で共通した認知機能評価指標を使っていく必要性を訴えた。

【2】医療は「生活」・介護は「医療」の視点を―連携の方策と看取りの対応を議論

続いて、【2】医療・介護連携、人生の最終段階の医療・介護を見ていく。
「医療・介護連携」については、まず、2040年にかけて人口・世帯構成が変化することに伴い、医療と介護双方のニーズを有する高齢者が大幅に増加することが見込まれている。

地域や施設で生活を送る高齢者が医療と介護双方のサービスを利用することは今後さらに増えると想定されることから、関係機関間の情報提供や情報共有を、相互の顔の見える関係を土台とした上で、効率的に行うことがますます重要となってくる。

また、これまでの医療と介護の連携に関してはさまざまな評価を行っており、必要な様式等を定めているものもある。

一方、同時報酬改定に向けた意見交換会においては、「特に医療において「生活」に配慮した質の高い医療の視点が足りておらず、生活機能の情報収集が少ないのではないか」という意見もあった。

次に、「人生の最終段階における医療・介護」に関して見ていくと、近年自宅や介護施設等における死亡割合が増加している。

令和3年度介護報酬改定では「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容にそった取り組みを求める見直しが実施されたが、実際に対応がなされた割合については施設種別でばらつきがある。

また、人生の最終段階における医療・ケアに関して話し合った内容について、医療・介護従事者と共有していると答えた人の割合は一般国民で15.8%であり、意思の共有の推進については、同時報酬改定に向けた意見交換会においてもさまざまな意見があった。

こうした現状や課題を踏まえ、厚生労働省では次のような論点が示された。

(論点:医療・介護連携)
要介護高齢者が、在宅・高齢者施設・医療機関のいずれの場においても、必要なケアを受けることができるよう、関係機関の連携を充実させる観点からどのような方策が考えられるか。
特に、医療においてはより「生活」に配慮した質の高い医療を、介護においてはより「医療」の視点を含めた介護を行うために必要な情報提供の内容や連携の在り方について、どう考えるか。

(論点:人生の最終段階における医療・介護)
本人が望む場所でより質の高い看取りを実施できるようにするためには、どのような対応が考えられるか。
本人の尊厳を尊重し、意思決定に基づいた医療・介護を提供するための医療・介護従事者の連携や支援の在り方、情報共有の在り方についてどのように考えるか。

報酬から「ステージを変えて」連携基盤整備を、「平素から顔の見える関係」への提案も

医療・介護連携に関し日本経済団体連合会の井上隆委員は、これまで介護報酬だけでなく医療側でもさまざまな手当がされてきたと振り返り、連携を進めるには報酬上ではなく、情報連携の基盤をどのように作っていくのかを検討することが重要との考えを述べた。

介護報酬・診療報酬での対応は制度の複雑化につながるとともに利用者・患者の負担が増えることから、「少しステージを変えて」検討する必要があるとの認識だ。

健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員も情報連携の体制整備を早急に進めるべきとの考えを示し、①医療と介護で共有するべき情報の内容や様式などを整備すること、②医療DX・介護DXの視点を踏まえたICTを活用した情報連携の在り方を検討することを求めた。

日本医師会の江澤和彦委員は、介護施設等からの入院患者は75%が急性期病棟に入院している一方、もっとも多い疾患が誤嚥性肺炎であることを指摘。

地域包括ケア病棟等で対応可能なケースもあることから、病棟を有する中小病院などと介護施設との平素から顔の見える・相談しやすい関係を構築することも1つの方策と提案した。あわせて、介護福祉現場での機能訓練と栄養・口腔の一体的取り組みを推進し、誤嚥性肺炎の予防につなげていく必要性を訴えた。

看取りについて「意思表示できない」・「まだその段階でない」人への支援に課題

人生の最終段階における医療・介護では、看護師の関わりについての意見が寄せられた。

日本看護協会の田母神裕美委員は、利用者本人の価値観を尊重し意思決定を支えると同時に、その意思を尊重できる体制整備が重要との考えを示した。

そして、要介護度の高い入所者がいる施設においては住み慣れた場所での看取りが可能となるよう、入所者の状況に応じた看護職配置の充実について検討を求めるとともに、それが困難な場合は外部から訪問看護が入れるしくみの充実が必要と指摘した。

大分県国民健康保険団体連合会の奥塚正典委員も、認知症対応型共同生活介護(認知症対応型グループホーム)においては看取りが難しいとの認識を示し、必要に応じて訪問看護と連携できるよう検討を求めた。

人生最終段階のケアに関するガイドラインについては、日本慢性期医療協会の田中志子委員が言及。

「わが国ならではの看取りガイドライン」という考え方のもとに、「本人の意思が聞き取れない状況になってからのあり方をもっと明確に示して欲しい」と訴えた。

日本医師会の江澤和彦委員は、意思表示ができない場合について、意思推定者である家族等と医療ケアチームが相互参加型モデル(SDM)のスタンスで話し合う適切なプロセスにより、合意を形成することが重要と指摘。この適切なプロセスがより充実する方策も検討課題であるとの認識を示した。

一方、日本介護支援専門員協会の濵田和則委員は、「まだその段階でない対象者」への意思確認に注目。

関係者においても「死を意識させ不快な思いを抱かせないか・誤解を招かないかといった懸念が強いのではないか」と言及し、こうした誤解を招かないような促し方や表現、タイミングやしくみなど、懸念を払拭させるような意思決定支援の検討に期待した。


以降、「地域包括ケアシステムの深化・推進」【3】新しい複合型サービス、【4】地域の特性に応じたサービスの確保に関する議論および「自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進」の【5】LIFEに関する議論については、「新しい複合型サービスに期待と反対の声、LIFEの対象拡大にも推進と慎重の意見――第222回介護給付費分科会(2023年8月30日)<後編>」にて紹介する。

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