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たがいに尊重し合う持続可能な社会へ――東京都カスタマー・ハラスメント防止条例成立

10月4日に東京都第3回定例議会において全国初となる「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が可決、成立した。同条例では、カスタマー・ハラスメント(カスハラ)を「顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為であり、就業環境を害するもの」と定義づけ、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と定めている。
一方で、「顧客等の権利を不当に侵害しないように留意する」と顧客の権利も認めており、顧客、就業者、事業者それぞれの責務に言及しているが罰則はなく、抑止効果が制定の目的だ。令和7年4月の施行までに、具体的な指針を定めていく。

「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」で「著しい迷惑行為」に挙げられるのは、暴行、傷害、脅迫、強要、名誉毀損、侮辱、業務妨害、不退去などの違法な行為と、申出の内容または行為の手段・態様が社会通念上相当であると認められない不当な行為としている。
行為の手段・態様が社会通念上相当と認められない場合の例としては、⑴身体的な攻撃、⑵精神的な攻撃、⑶威圧的な言動、⑷土下座の要求、⑸執拗な言動、(6)拘束的な行動、⑺差別的な言動、⑻性的な言動、⑼従業員個人への攻撃、等と定めている。

東京都労働局の「TOKYOノーハラ企業支援ナビ」では、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対応企業マニュアル」からの引用として、カスハラの具体例を挙げている。
それによると、カスハラは9つのタイプに分類され、
①時間拘束型
● 長時間にわたり、顧客等が従業員を拘束する。居座りをする、長時間、電話を続ける。
② リピート型
● 理不尽な要望について、繰り返し電話で問い合わせをする、または面会を求めてくる。
③ 暴言型
● 大きな怒嗚り声をあげる、「馬鹿」といった侮辱的発言、人格の否定や名誉を毀損する発言をする。
④ 暴力型
● 殴る、蹴る、たたく、物を投げつける、わざとぶつかってくる等の行為を行う。
⑤ 威嚇・脅迫型
●「殺されたいのか」といった脅迫的な発言をする、反社会的勢力とのつながりをほのめかす、異常に接近する等といった、従業員を怖がらせるような行為をとる。または、「対応しなければ株主総会で糾弾する」、「SNSにあげる、口コミで悪く評価する」等とブランドイメージを下げるような脅しをかける。
⑥ 権威型
●正当な理由なく、権威を振りかざし要求を通そうとする、お断りをしても執拗に特別扱いを要求する。または、文書等での謝罪や土下座を強要する。
⑦ 施設外拘束型
●クレームの詳細がわからない状態で、職場外である顧客等の自宅や特定の喫茶店などに呼びつける。
⑧ SNS/インターネット上での誹謗中傷型
● インターネット上に名誉を毀損する、またはプライバシーを侵害する情報を掲載する。
⑨ セクシュアルハラスメント型
●従業員の身体に触る、待ち伏せする、つきまとう等の性的な行動、食事やデータに執拗に誘う、性的な冗談といった性的な内容の発言を行う。
同マニュアルには、上記タイプ別の対処方法も掲載されている。

カスハラに「怒りや不満、不安」を覚えた人は67.6%

TOKYOノーハラ企業支援ナビ」では、厚生労働省による「職場のハラスメントに関する実態調査報告書 」からの引用で、顧客等からの著しい迷惑行為による心身への影響について、「怒りや不満、不安を感じた」(67.6%)、「仕事に対する意欲が減退した」(46.2%)の数値を示し、カスハラを放置すると就業者の心身はもちろん、事業へも影響があると示唆する。

「何度も繰り返し経験した」人は、「職場でのコミュニケーションが減った」、「眠れなくなった」と答える割合が多く、心身への深刻な影響がうかがえる。
出所:厚生労働省 「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

他方、同条例では、「顧客等の権利を不当に侵害しないように留意する」ことを就業者、事業者側に求める。誰もが、カスタマー・ハラスメントを受ける側にも行う側にもなり得るからだ。

さまざまな自治体で、カスハラ防止対策が行われている

こうしたカスタマー・ハラスメントを防止する条例で想起されるのは、秋田県が2022年4月に制定した「秋田県多様性に満ちた社会づくりに関する指針」である。しかし、同指針は、「カスタマーハラスメント対策としての消費者教育に取り組む」というもので、「あらゆる差別の解消」というのが制定の主目的だった。
札幌市では2023年12月(https://www.city.sapporo.jp/somu/shiminnokoe/customer_harassment.html)から、福岡県では2024年3月からカスハラ対策(https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/customer-harassment.html)に取り組んでいるが、これらは主に行政機関に対する暴言などを防止するものとなっていて、東京都の「カスタマー・ハラスメント防止条例」のように、サービス業など一般企業を対象にしたものではない。

東京都の「カスタマー・ハラスメント防止条例」は、流通・サービス業など一般企業で、カスハラによる人材流出への憂慮が制定の背景にある。
同条例では、顧客等、就業者、事業者の三者のカスハラへの責務を以下の通り定めている。しかし、条例には罰則はなく、いずれも努力目標だ。

  • 顧客等:カスタマー・ハラスメントへの関心と理解を深め、就業者に対する言動に必要な注意を払うよう努める。

  • 就業者:カスタマー・ハラスメントへの関心と理解を深め、カスタマー・ハラスメントの防止に資する行動をとるよう努める。

  • 事業者:カスタマー・ハラスメントを受けた就業者の安全を確保し、顧客等に対し中止の申入れ等の措置を講ずるよう努める。

「顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重することを旨とする」とあるのは、顧客等と就業者は、対等な立場であるということを意味する。「顧客等と働く人とが対等な立場において相互に尊重する都市をつくりあげるとともに、カスタマー・ハラスメントのない公正かつ持続可能な社会を目指す」のが同条例の目的だ。同条例で、「カスタマー・ハラスメントの禁止を明示することで、カスタマー・ハラスメントの抑止になれば」と東京都では期待している。


施行期日は、令和7年4月1日となっている。

京都労働局の「TOKYOノーハラ企業支援ナビ」
https://www.nohara.metro.tokyo.lg.jp/learn/kasuhara/

厚生労働省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf


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