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重層的支援体制整備事業の実施方法や財政措置について示す(7月17日)

厚生労働省は7月17日、「地域共生社会の実現に向けた市町村における包括的な支援体制の整備に関する全国担当者会議」の資料及び説明動画をホームページにて公表した(同21日、28日、8月20日に資料の一部を修正)。
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、担当者を集めての会議の開催は見送った。

「8050問題」など複合化・複雑化した地域での課題解決に向け、包括的な支援体制の構築が求められている。その一つの方策として、厚労省は先の通常国会で、社会福祉法等を改正し、「重層的支援体制整備事業」を創設した。

今般の会議資料では、同事業の令和3年度からの実施に向け、具体的な実施方法や財政措置、留意点などを示した。また実践者の取り組みとして、福井県坂井市と愛知県豊田市が報告している。

厚労省は市町村の重層的支援体制整備事業への取り組みの意向や所要見込み額を8月中に調査し、9月末に財務省に提出する来年度予算概算要求に反映していくとしている。
また財政措置などの関係政省令案について8月26日までパブリックコメントを実施しており、それを踏まえ近く政令省を公布する見通しだ。10月を目途に同事業に取り組む自治体担当者向けの研修を行う予定だ。

会議資料のポイントを見てみる。なお、資料は現時点までの検討に基づくもので、今後変わる可能性がある。
参考:地域共生社会の実現に向けた市町村における包括的な支援体制の整備に関する全国担当者会議 資料


事業実施に当たり「重層的支援体制整備事業実施計画」を策定

重層的支援体制整備事業は、市町村の手上げによる任意事業だ。取り組む市町村は、①相談支援②参加支援事業③地域づくり事業─の3つを一体的に実施することが必須になる。委託も可能だ。国・都道府県の補助について「重層的支援体制整備事業交付金」を創設。事業に係る一本の補助要綱等に基づく申請により、介護や障害など制度別に設けられた各種支援の一体的な実施を促進していく。
会議では、事業の具体的な実施方法などが示された。

重層的支援体制整備事業を実施する市町村は、実施前に「重層的支援体制整備事業実施計画」を策定することが求められる。
「どういった課題を解決していきたいのか、どういった地域をつくっていきたいのか」という目標を設定し予算・体制を整備。計画に基づいて事業を実施し、その後、実施結果について評価・検証し、さらに計画を見直していく。
厚労省は、計画策定に当たり、地域住民や関係機関等と理念や認識を共有する重要性を強調している。

計画に記載する事項について厚労省は、①事業全体の実施目的や各分野の事業に共通する基本方針②相談支援・参加支援・地域づくり支援などの提供体制③事業目標・評価指標④関係機関間の一体的な連携─の4つを示した。省令で規定する予定だ。

さらに、「重層的支援体制整備事業交付金」についても、計画に基づいた適切な事業実施及び事業内容を踏まえ、適切な交付金の算定や執行を担保していく考えだ。

他方、会議資料では、体制構築の進め方の例や拠点の整備例も示された。体制構築では、庁内関係部局や委託を想定する機関、地域住民や関係機関などとの協議の進め方について紹介。ただし、全国で同一の体制を整備するのではなく、地域の実情に応じて構築されるべきものであることや、関係者が意見交換を進め、納得しながら取り組みを進めることが重要であることを重ねて強調している。


重層的支援会議で支援の方向性を共有

会議資料では、支援フローが示された。
一体的に実施する①相談支援②参加支援事業③地域づくり事業─のうち①相談支援は、3つの事業で構成される。相談者の属性・世代・相談内容にかかわらず「包括的相談支援事業」で受け止め、単独の支援機関では対応が難しい事例は「多機関協働事業」につなぐ。同事業で各支援機関が円滑な連携を図り支援できるようにする。さらに長期にわたりひきこもり状態にある人などを対象に、アウトリーチ等を通じた「継続的支援事業」により支援していく。

多機関協働事業は、市町村全体で包括的な相談支援体制を構築するうえで重要であり、重層的支援体制整備事業の「中核を担う」とされている。基本的に本人・世帯に対して個別支援を行うものではなく、複雑化・複合化した事例に対する調整を図り、支援関係機関の役割分担や支援の方向性を整理するものだ。そのため多機関協働事業の実施者は、関係者による「重層的支援会議」を主催する。

重層的支援会議では、支援の方向性の共有や各支援機関の役割分担、支援プランの適切性の協議、プラン終結時等の評価、社会資源の充足状況の把握と開発に向けた検討などを行う。

地域には既に介護保険の地域ケア会議など、多様な会議体が存在する。出席する関係者が重複する場合などもあり、開催時間帯や出席者を調整して既存の会議体を活用することも考えられている。

多機関協働事業の実施者は、支援プランを作成し、「重層的支援会議」に諮る。プラン作成前のアセスメントに係る情報収集は包括的相談支援事業の実施者や支援機関が中心に行うが、ケースによっては多機関協働事業の実施者が行うことになる。

なお包括的相談支援事業から多機関協働事業につなぐ際は、関係機関間での情報共有などにかかる利用の同意を得るとしている。

他方、たとえば、長期にわたるひきこもり状態にある人の支援では、本人の同意を取ることが困難なことが想定される。今回の社会福祉法改正では本人の同意がなくとも個人情報の共有などを可能とする「支援会議」を同法に位置付けた。支援会議の構成員には守秘義務が課せられる。


重層的支援体制整備事業の国庫補助の算定方法を提示

重層的支援体制整備事業交付金については、介護・障害・子ども・生活困窮の分野の相談支援や地域づくりにかかる既存事業の補助金を一体化するとともに、参加支援やアウトリーチ等を通じた継続的支援、多機関協働といった新機能の事業費も追加して、一括交付する考えだ。交付された後の分野間の配分は市町村の裁量に任される。

このうち既存事業分については、国・都道府県・市町村の費用負担割合や補助基準額はそれぞれの制度における現行の規定と同様とする。新機能の補助内容は、今後、予算編成過程で決定していく。

相談支援及び地域づくり支援にかかる事業費の国庫補助申請に係る算定方法が示された。なお、下のイメージ図は相談支援の事業費の算定を想定しており、地域づくり支援の事業費も同様の流れで算定する。

まず重層的支援体制整備事業に取り組む市町村で総事業費を積み上げる。そこから、介護報酬から出される介護予防ケアマネジメントや障害者の相談支援事業において地方交付税で措置される部分など他から費用が出るものや、新機能の事業費を除外し、既存事業分を算定する。既存事業分はイメージ図では400万円となっている。

他方で既存事業の前々年度の支出額に基づいた高齢・障害・子ども・生活困窮の4分野それぞれの按分率を計算する。按分率は、4分野の実際の支出額総額における当該分野の支出額が占める割合となる。

イメージ図では、4分野の過去実績の費用を100万円として計算しており、過去実績の総額400万円に対して各分野の実績額がそれぞれ100万円なので按分率が25%になっている。
なお過去実績額に基づく按分率は、相談支援と地域づくり支援についてそれぞれ別に算定することになる。
この按分率を、先に出した既存事業分の総計に掛け合わせ、4分野の相当経費を算出する。さらにその4分野の相当経費と、本来の4分野の国庫負担基準額を比べて、低い方の額に対して国庫補助割合を掛け合わせて国からの補助額を算出する。

地域包括支援センターなどの特定分野の支援機能を担う相談支援機関の新設・廃止がある場合は、予算の増減を踏まえて按分率を補正する。
新機能の補助額は、重層的支援体制整備事業に取り組む市町村の新機能の事業費に対して補助率をかけて算定していく方向だ(都道府県負担を求めるかどうかは今後、検討するとしている)。

このような流れで国庫補助見込額を算出して国に交付申請を行う。また年度ごとに精算する。介護や、生活困窮の相談にかかる費用など義務的経費について不足がある場合は精算交付される。

なお、事業実施以降、一定期間(3年程度)ごとに、事業の実施内容や事業支出状況と、案文率に基づく事業費相当額との間に大きな乖離が生じていないか確認する機会を設けることを想定している。

都道府県の負担も国の負担と同様であり、既存の各分野で負担していた相当部分が市町村に交付される予定だ。

また介護保険の保険料部分も市町村の一般会計に新たな交付金として出される。一般会計の中で区分されることなく、活用される。


事業は地域住民・支援関係機関とともに進める姿勢で

厚労省担当者は、「地域住民や支援関係機関の納得感を醸成していくことが重要なのではないか」とプロセスの重要性を強調した。事業実施に当たり次のような留意点を示すとともに、幅広い関係者をメンバーとする議論の場を設置することも提案した。

◇市町村は、地域住民や関係機関等とともに、地域のニーズや人材、地域資源の状況等を把握し、見える化した上で分析を行うことが必要である。それらを前提としつつ、地域住民や関係機関等と議論をしながら、包括的な支援体制の整備について考え方等をまとめ、共通認識を持ちながら取組を進める。

◇特に、地域づくりに向けた支援については、既存の地域のつながりや支え合う関係性を十分理解した上で、地域住民の主体性を中心に置き、活動を応援することを基本とする。

◇事業実施後も、地域住民や関係機関等と振り返りや議論を繰り返し行いつつ、事業の実施状況等を定期的に分析・評価し、改善していく必要がある。

評価に際しては、例えば、包括的な支援が円滑に提供されているか、一つの相談機関等に過剰な負担が生じていないか、既存の事業の推進を妨げていないか、一体的になされた財政支援が適切に配分されているかなど、幅広い観点について議論を行う。

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