認知症GHでの看護体制など、地域密着型サービスより改定議論を開始――第218回介護給付費分科会(2023年6月28日)
厚生労働省は6月28日、第218回社会保障審議会介護給付費分科会を開催。前回示されたスケジュールのとおり、改定に向けた「主な論点」に関し、まずは地域密着型サービスを対象として議論が開始された。
議題として挙げられたのは、以下の3点。
令和6年度介護報酬改定に向けて
(定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護)令和4年度介護従事者処遇状況等調査の結果について
令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(報告)
訪問サービスは統合へ、小多機では居宅時のケアマネ維持に関する意見も
1つ目の議題である「令和6年度介護報酬改定に向けて」では、対象となるサービスそれぞれの概況や令和3年度改定の内容、そして現状と課題および論点などが厚生労働省から示された。
具体的には、訪問サービスである「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」と「夜間対応型訪問介護」、訪問や泊まりを組み合わせた「小規模多機能型居宅介護」と「看護小規模多機能型居宅介護」、そして「認知症対応型共同生活介護」(認知症グループホーム)についてであり、これを踏まえて議論が行われた。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護と夜間対応型訪問介護は統合に向けて進むか
訪問サービスである定期巡回・随時対応型訪問介護看護と夜間対応型訪問介護は、昨年12月の「介護保険制度の見直しに関する意見」において、機能が類似・重複しているサービスとして、「将来的な統合・整理に向けて検討する必要がある」ととりまとめられていた。
これを踏まえ、令和3年度および令和4年度老人保健健康増進等事業による検証が行われ、夜間訪問の利用者は仮に定期巡回サービスと夜間訪問が統合された場合でも、ほとんどの地域において、サービス提供を継続して受けられることなどが示された。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省では次のような論点が示された。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護及び夜間対応型訪問介護について、両サービスの機能・役割や、これまでの介護報酬改定における対応等を踏まえ、両サービスの将来的な統合・整理に向けてどのように考えるか。
また、定期巡回・随時対応型訪問介護看護について、今後の更なる普及に向けて、限られた人材を有効に活用しながら、効率的なサービス提供を可能とする観点から、どのような方策が考えられるか。
全国老人福祉施設協議会の古谷委員は、人材不足のなかで事業所を効率的・効果的に活用する観点から、「一体的に実施することのメリットが大きい」と賛同した。
また、健康保険組合連合会の伊藤委員も報酬体系の簡素化の観点から、統合に向けた検討を進めるべきではないかと後押しした。
小規模多機能型居宅介護は中重度者の在宅生活継続に寄与、看護小規模多機能型居宅介護は開設に当たっての困難も
「通い」「泊まり」「訪問」を組み合わせた2つのサービスのうち、小規模多機能型居宅介護では、中重度者になっても在宅生活の継続に一定寄与していることが確認できた。
また、やむを得ず施設・居住系サービスへ移行した場合については、常時の見守りが必要になり事業所として対応できなくなったケースなどが挙げられた。
このほか、兼務可能な職務は省令により限定されており、たとえば同一敷地内の通所介護があったとしても、管理者を兼務することができないなどの課題が挙げられた。
日本看護協会の田母神委員は、小規模多機能型居宅介護の利用者増について、事業所の利用定員を増やすことも有効であると指摘。市町村における条例による定員の設定が可能であること、それを判断するためにニーズ調査の必要性について、国から市町村に対して周知が必要であるとの考えを示した。
また、日本介護支援専門員協会の濵田委員は、事業所の利用にあたっては介護支援専門員が交代しなければならないというしくみに着目。「変えたくない」との理由で利用開始に至らなかった例もあることから、「居宅サービス利用時のケアマネジャーと選択できるなど利用しやすいしくみ作りが重要」だと主張した。
一方、看護小規模多機能型居宅介護では要介護度が高い利用者が多く利用されている特徴がある。
また、開設・運営にあたっては夜勤職員の確保が難しいなど、さまざまな困難が挙げられた。
日本看護協会の田母神委員は、専門性を有する看護師が必要とされている実態を踏まえ、特定行為研修終了者のような専門看護師による看護実践への評価が必要ではないかと訴えた。
認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)では看護職員配置が課題
医療ニーズへの対応として、医療連携体制加算の算定状況が示された。
医療連携体制加算(Ⅰ)の算定状況は80.4%であるのに対し、(Ⅱ)は1.3%、(Ⅲ)は2.3%と低い取得率となっている。
(Ⅱ)(Ⅲ)を算定しない理由としては、「看護職員(看護師・准看護師)を常勤換算で1名以上確保できない」が75.2%で最も多い結果となった。
医療連携体制加算(Ⅱ)(Ⅲ)の算定割合については「人件費等のコストが加算額に見合わない」という課題が挙げられていたことから、日本看護協会の田母神委員は、「看護職員の配置、訪問看護との連携体制の要件を考慮した評価の引き上げもご検討をいただきたい」と要望した。
また、日本医師会の江澤委員は収支差額が29.8万円と示されたことに着目し、1年のうち利用者1人が1月不在となるだけで失われる金額であることから「看護職員を配置できる状況にはない」と分析。
その上で、現在実施することができない訪問看護サービスへのニーズがどの程度あるのか、訪問看護サービスがあれば入居を継続できる利用者がどれほどいるのかを一度把握する必要があるとの見解を示した。
一方、民間介護事業推進委員会の稲葉委員は、計画作成担当者の配置基準について言及。管理者が介護支援専門員である場合、計画作成担当者は介護支援専門員である必要はないのではないかと述べた。
こうした意見を踏まえた上で、今後の改定に向けた検討が行われる見込みだ。
ベア加算の効果は7,000円程度か 他産業との比較や人材流出の面で不安の声も
2つ目の議題では、6月16日開催の第37回介護事業経営調査委員会にて了承された、「令和4年度介護従事者処遇状況等調査の結果について」報告された。
令和4年度の介護職員等ベースアップ等支援加算を取得している施設・事業所における介護職員(月給・常勤)の基本給等について見ていくと、加算の取得前(令和3年12月)と取得後(令和4年12月)を比較して、10,060円の増額となった(4.4%増)。
また、介護職員処遇改善支援補助金が交付された施設・事業所における基本給等では、交付前後(令和3年12月と令和4年9月)の比較により、9,210円の増額となっている(4.0%増)
介護職員等ベースアップ等支援加算取得の施設・事業所について見ていくと、賃金改善において最も多いベースアップ等の改善方法としては、手当の新設が65.9%と最も多い。
また、45.1%が生活相談員・支援相談員に、同率が看護職員に配分している。
一方、届出を行わない理由で最も多かったのは、賃金改善のしくみを設けるための事務作業が繁雑(40.0%)との結果となった。
こうした報告をうけ全国知事会の寺原参考人は、改善額について県内で行った聞き取り調査との乖離があると発言。この調査結果だけでは「補助金や加算のみの効果は判断できない部分もあるのではないか」とし、こうした部分についてどのように分析しているのかを確認した。
これに対し厚生労働省は、加算や補助金がなかった前回調査において基本給等約3,000円の増額が見られていたことから、「差額である約7,000円程度に加算の新設が大きく寄与しているのではないか」との考えを示した。
賃金改善に関しては一定の評価をしつつも、他産業と比較や人材流出などを勘案し不安視する意見も相次いだ。
日本介護福祉士会の及川委員は、他産業の賃金上昇の流れを踏まえれば「十分とは言い難い」との見解を示し、ギャップを埋める道筋への検討を求めた。
高齢社会をよくする女性の会の石田委員も、キャリアある職員の平均給与の増え方も他の産業と比較して見ていく必要があるとの認識を示した。
認知症の人と家族の会の鎌田委員は、これまでの処遇改善が離職率・入職率に対しどのような効果を与えたのかを確認。これに対し厚生労働省は、機会をみて報告するとの意思を示した。
一方、日本慢性期医療協会の田中委員は、介護医療院における加算の取得率が低いことなどに注目。「同一法人内の診療報酬下における病棟とで職員間の差をつけられないとの理由で算定していない事業所も多い」とし、同時改定では中医協と連携して検討していくことを求めた。
さらに、健康保険組合連合会の伊藤委員から、処遇改善に関する3加算について一本化する意見が出されていたことに賛意を示した。
介護支援専門員への処遇加算を求めたのは、民間介護事業推進委員会の稲葉委員だ。
「キャリアを積みケアマネジャーとして活躍したいと頑張っていた介護職が非常に多い」として、ケアマネ職の安定が介護業界全体の人材確保にも重要であるとの見解を示した。
令和4年度介護従事者処遇状況等調査の結果は給付費分科会において了承された。
なお、議題3では令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会での議論の内容が紹介され、今後の給付費分科会の議論においてもしっかりと活かしながら進めていくことが報告された。
次回の介護給付費分科会は7月10日の午後を予定している。