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山崎史郎著『人口戦略法案』をめぐる対話(中村秀一)

霞が関と現場の間で

A:山崎史郎君が『人口戦略法案』という本を出したようだね。

B:昨年11月に出版した。リトアニア大使を勤めて帰国と同時に出版している。

A:500頁を超える大著だ。彼は君の役所の後輩だろう。

B:うん。入省年次でいうと5年後輩だよ。2014年に地方創生を担当する初代の地方創生統括官になった。その頃から熱心に人口減少問題に取り組んでいたよ。

A:今度の本はどうなんだい。小説の形式でちょっと驚いたよ。

B:そうだね。とにかく、役所をやめてからもずっと問題意識を持ち続け、このような形で政策提言をまとめた。本当に偉いものだ。

A:後輩ながらあっぱれか。

B:現役時代から普通の2倍も3倍も仕事をする、精力的な政策マンだったよ。

A:内容的にはどうなんだい。人口減少に歯止めをかけて、将来にわたり1億人の人口を維持するという目標を立てているが。

B:この目標は、まさに現役時代の山崎君の仕事で、2014年の骨太方針で閣議決定されているよ。できるだけ早く「希望出生率」1.8を回復し、次に人口置換水準2.07を回復すれば、将来的に1億人前後の人口は維持できるというものだ。

A:でも、その後も出生率は上がるどころか下がっているよ。

B:それはそうだ。だから、この本では何が人口減少対策を阻んでいるか、解明しているよ。

A:「子ども保険」が提案されているね。そこについてはどう評価するんだい。

B:「子ども保険」は、自民党の若手、小泉さんたちが提案して話題になったことがある。山崎君の提案の特徴は、保育サービスなどは対象にせず、現金給付を対象にしているところだね。

A:ふーん。それから?

B:もう一つは、育児休業など現在労働保険などの対象となっている部分は企業拠出とし、現在カバーされていないグループと給付レベルの最低保障は、新たな保険料(2/3)と税財源(1/3)で賄うとしていることだ。

A:でも、何が保険事故なの? 社会保険方式になじまないと聞くけど。

B:そこが最大の論点だろうね。著者は「子どものリスク」に備えると言うが、正直わかりにくいね。

A:それでは君の案はどうなんだね。

B:逃げるわけではないが、重要なのは、まず、「子ども子育てを皆で支える」という合意形成が先だね。社会保険か、税かは技術的な問題だと思うよ。

A:先輩のくせにだらしないな。後輩のチャレンジ精神を見習った方がよいよ。  

(本コラムは、社会保険旬報2022年2月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち) 医療介護福祉政策研究フォーラム理事長 国際医療福祉大学大学院教授 1973年、厚生省(当時)入省。老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。


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