介護保険に新たな公費投入を求める声も 制度改正議論がスタート――第116回介護保険部会(2024年12月23日)
厚生労働省は12月23日、「第116回社会保障審議会介護保険部会」を開催した。
議題は「介護保険制度をめぐる状況について」となっており、主な検討事項案などが示された。
これにより、2027年度から始まる第10期介護保険事業計画実施期間に反映される、介護保険制度の見直し議論がスタートされた形となる。
今後、2025年末までのおよそ1年をかけた議論を行い、制度改正へと進められていく見込みとなっている。
5つのテーマ案を設定し、新たな検討会を設置
次期制度改正に向けた状況としては、85歳以上の人口増加や、生産年齢人口の更なる減少が見込まれている。
これらに対応し、介護人材の確保を行ってくことが課題となる中、地域の介護需要に応じてサービス確保を図っていく必要がある。
それには引き続き、地域包括ケアシステムの推進、地域共生社会の実現、介護予防・健康づくりの推進、持続可能性の構築・介護人材確保等を図っていく必要があるとし、次のようなテーマによる検討事項案が示された。
地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備、医療と介護の連携、経営基盤の強化)
認知症施策の推進・地域共生社会の実現(相談支援、住まい支援)
介護予防・健康づくりの推進
保険者機能の強化(地域づくり・マネジメント機能の強化)
持続可能な制度の構築、介護人材確保・職場環境改善(介護現場におけるテクノロジー活用と生産性向上)
これらの検討項目については、今後の議論に応じて見直すものとされている。
また、2040年に向けた人口減少のスピードは地域によって異なり、人口構造も大きく変わっていく。
そうした中で介護サービスをどう確保するかが課題であり、時間軸・地域軸を踏まえた検討を行う、介護現場の人を含めた検討会、『「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会』を立ち上げる。
ここでの議論は春頃に中間まとめを行い、夏を目途とりまとめるスケジュールが示されており、介護保険部会に報告された上で引き続き様々な関係者のもと議論を行うこととされた。
なお、具体的なスケジュール案については、次のとおりとなっている。
縦割りを越えた連携と負担割合の見直しが焦点に
こうした議論のテーマを受け、特に縦割りの壁を越えた分野連携や、持続可能な制度の構築を目的とした財源構成の検討などについて、多く意見が寄せられた。
東京都健康長寿医療センターの粟田主一委員は、今後独居である認知機能低下高齢者(認知症もしくはMCIの高齢者)が増加していく見込みを踏まえ、保健・医療・福祉ニーズだけでなく日常生活支援ニーズや居住支援ニーズ、権利擁護支援ニーズなど複合的なニーズへの対応が必要になることを指摘。
こうした独居の認知機能低下高齢者が地域生活を継続できる観点から、分野横断的・統合的な社会環境を整備することが、社会的孤立リスクの高いすべての世帯類型の社会的支援のあり方に繋がると訴えた。
日本看護協会の田母神裕美参考人は、地域における需要は高齢者のみならず全世代に渡っているとし、全世代に渡る地域包括ケアの構築が求められていると言及。
そうした中で、共生型サービスの推進など、制度の縦割りを排しかつ地域に開かれたケアによって、全世代が支え合うことができるサービスの推進が高く求められていると主張した。
全国老人保健施設協会の東憲太郎委員も、地域共生社会は「縦割り」という関係を超えるものであると確認。
その上で、超えることの難しかった、障害のある医療的ケア児を介護保険施設で受け入れなど、介護・障害・子どもなどの縦割りのハードルを超えていく必要性を訴えた。
一方、制度の持続可能性に関しては、UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの染川朗委員が、税金と保険料の割合・国と地方の負担割合等に関して「正式に議題として議論をしたことがない」と指摘。
税金と保険料の負担割合を変更しないため被保険者の保険料負担は増加を続けているとし、検討の俎上に載せることを求めた。
健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員は、現役世代である第2号被保険者の保険料が、第1号被保険者の保険料より高くなっている状況を問題視。
現役世代の負担軽減も検討の観点に入れて、見直すことを要望した。
日本経済団体連合会の井上隆委員は、2018年以降示されていないとして、2040年を見据えた社会保障の将来見通しの全体像を数値で示すことを求めた。
日本医師会の江澤和彦委員は、介護事業所の赤字率や倒産件数、介護人材の流出などを指摘し、「持続可能性の観点からはとっくに赤信号」と主張。
介護を支える財源の確保として、新たな公費の導入を検討せざるを得ない状況との認識を示した。
保険料や補足給付などの年金収入基準を80万9千円に見直しへ
最後に厚生労働省より、介護保険料等における基準額の調整について報告された。
現在、介護保険料の算定においては、年金収入等80万円という基準が設定されている。
これについて、令和6年の老齢基礎年金の満額支給額が80万9千円となったことから、基準を見直し年金収入等80万9千円を基準とする。
この見直しは、2025年4月の施行予定となっている。
なお、高額介護(予防)サービス費や補足給付に関する基準についても同様の見直しを行い、2025年8月施行の予定となっていることが示された。