厚労省の有識者検討会が薬価差や医薬品の安定供給の「論点」まとめる(10月21日)
厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(遠藤久夫座長)は10月21日、論点案を大筋でまとめた。「薬価差」や「革新的な医薬品の迅速な導入」、「医薬品の安定供給」の3点について課題を挙げている。同日に出された意見を踏まえて論点をまとめ、近く中医協に報告する。
同検討会は、革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の早期上市や、医薬品の安定的供給を図るため、流通と薬価制度、産業構造の検証などについて議論し、年度末にとりまとめを行う予定としている。これまで医薬品関係者にヒアリングを実施してきたが、今後、制度の改善策を議論していくために、10月12日と21日の会合で論点案を検討した。
まず全体的な課題として、医療保険制度の持続性を確保したうえで、創薬力の強化や迅速な導入、安定供給を確保するため、薬価制度のあり方をどう考えるかということを論点に挙げた。マクロ的な視点からの総薬剤費のあり方も論点としている。
「診療報酬の不足を薬価で帳尻合わせ」
薬価差については、「医薬品の取引条件や取引形態の違いを考慮した薬価改定のあり方」を論点とした。
これまでの議論では、薬価差は医療機関や薬局の経営原資になっているのが実態であるとの指摘が出ている。また、乖離幅は品目や取引条件等により大きくばらついているので、それらすべてを現行の2%の調整幅で取り扱うのは不合理との意見もあった。
上智大学の香取照幸委員は21日、「薬価差が医療機関の経営原資になっているという話があるが、もともとの議論は、診療報酬が十分ではないということにある。それにより、必要悪として薬価差の存在が正当化されてきた。逆に考えると、診療報酬が足りないことは薬価と本来は関係がないのに、薬価で帳尻合わせをさせられている。それにより政策が歪み、産業政策や流通にも影響を与えている」と問題提起した。
「論点案」は以下の通り。
○今後の薬価制度の在り方に関する全体的課題
良質な医療や医療技術の成果を国民に確実に提供するため、医療保険制度の持続可能性を確保した上で、革新的な医薬品の創薬力の強化や迅速導入、医薬品の安定的な供給を図る観点から、今後の薬価制度の在り方についてどう考えるか。加えて、マクロ的な視点から総薬剤費の在り方についてどう考えるか。
(1)革新的な医薬品の迅速な導入について
①産業構造を起因とする課題
・ 長期収載品のカテゴリや製造方法等の実態を踏まえつつ、先発企業が長期収載品から収益を得る構造から脱却し、新薬の研究開発への再投資を促進するための方策について、どのような取組が必要か。
・ 今後の成長が期待されているアカデミア・バイオベンチャー企業等におけるシーズの開発・導出を促進するためには、どのような取組が必要か。
②薬価制度を起因とする課題
・ 革新的医薬品の国内への迅速な導入を促進するため、企業における予見性の向上を図る観点から、現在の新薬創出等加算や市場拡大再算定の運用や制度の在り方、経営や投資計画に影響を与えうる薬価改定ルールの改定頻度についてどう考えるべきか。
・ 医薬品の開発コストに加え、再生医療等製品を含め、新規モダリティ(治療手段)等のイノベーションや医薬品としての価値を踏まえた適切な薬価の算定を行うためには、どのような考え方・方法により評価を行うことが望ましいか。
(2)医薬品の安定供給について
医薬品の安定供給については、現に多数の医薬品において医薬品の供給不安が発生しているという実態を踏まえて議論を行う必要がある。
①産業構造を起因とする課題
・ 医薬品の安定供給の観点から、後発医薬品メーカーにおける少量多品種の製造や、特許切れ直後の品目に偏った現在の収益構造や産業構造についてどう考えるか。
・ 安定確保医薬品等の医療上重要な医薬品の供給を確保するため、サプライチェーン等の様々な安定供給上のリスクを評価し、その強靱化等を図り、また、実効性をもった供給調整を行っていくために、どのような対応が必要か。
②薬価を起因とする課題
・ 医療上必要性の高い医薬品の安定供給を確保する観点から、現行の薬価改定ルールの在り方についてどのように考えるか。最低薬価、不採算品再算定、基礎的医薬品等の必要な薬価を維持する仕組みについて、運用や制度の在り方についてどう考えるか。
・ 製造業者による安定供給を確保するための設備投資等の取組についてどのような評価等を行うべきか。
・ 物価高騰による製造コストの上昇などの状況を踏まえ、医療上必要な医薬品の安定供給を確保するために、どのような対応が必要と考えられるか。
(3)薬価差について
・ 薬価差が生ずる構造を踏まえ、医薬品の取引条件や取引形態の違いを考慮した薬価改定のあり方について、どのように考えるか。