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若年労働者は「雇用の安定」に満足しつつ、より条件のよい職場を探す――令和5年「若年者雇用実態調査」の結果公表

厚生労働省は9月25日、令和5年に実施した「若年者雇用実態調査」の結果を公表した。この調査は、15歳から34歳までのいわゆる若年の労働者の雇用状況や就業に対する意識をその時々の雇用情勢に応じ、テーマを替えて不定期に実施している。平成30年から5年振りとなる今回のテーマは「雇用の構造に関する実態調査」。5人以上の常用労働者を雇用する事業所約1万7,000カ所と、そこで働く若年労働者(満15~34歳の労働者)約2万3,000人を対象として令和5年10月1日現在の状況について調査した。

【事業所調査】

(1)若年労働者の雇用は減少傾向

事業所調査によると、若年労働者を雇用している事業所は減少傾向にあり、平成25年調査では80.7%だったものが、平成30年調査では76.0%、令和5年調査では73.6%と、回を重ねるごとに減少している(以下、図表はすべて「令和5年若年者雇用実態調査の概況」より)。

調査の回を追うごとに、「若年正社員がいる」事業所より、「正社員以外の若年労働者がいる」事業所の減少割合の方が高いことがわかる。

「若年正社員がいる」事業所割合を産業別にみると、「金融業、保険業」が86.6%と最も高く、次いで「電気・ガス・熱供給・水道業」79.0%となっている。一方、「正社員以外の若年労働者がいる」事業所の割合は「宿泊業、飲食サービス業」が60.4%と最も高く、次いで「教育、学習支援業」が49.7%となっている。
事業所規模別にみると、30人以上の各事業所規模において「若年労働者がいる」事業所割合が9割超なのに対して、「5~29人」規模では69.5%と7割弱となっている。
また、前回調査(平成30年)と比較すると「若年労働者がいる」事業所の割合は、正社員、正社員以外ともに低下している。

(2)過去1年間に若年正社員を採用した事業所は約33%

過去1年間(令和4年10月~令和5年9月)に正社員として採用された若年労働者がいた事業所の割合は33.4%、正社員以外の労働者として採用された若年労働者がいた事業所は19.8%となっている。
採用された若年労働者がいた事業所割合を産業別にみると、正社員では「金融業、保険業」(56.2%)、「情報通信業」(53.1%)の順で、正社員以外では「宿泊業、飲食サービス業」(34.1%)、「教育、学習支援業」(32.7%)の順で高くなっている。

「過去1年間に採用された労働者がいた」事業所の割合は、前回より減少している。

若年正社員の採用選考をした事業所のうち、採用選考にあたり重視した点(複数回答)について採用区分別にみると、「新規学卒者」「中途採用者」とも、「職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神」がそれぞれ79.3%、72.7%と最も高くなっている。次いで「新規学卒者」「中途採用者」とも、「コミュニケーション能力」(74.8%、66.9%)、「マナー・社会常識」(58.6%、58.1%)となっており、積極性や他者との関わり合いの中で円滑に業務を遂行することができる能力、スキルが重視されている。
また、「新規学卒者」に比べ「中途採用者」には「業務に役立つ職業経験・訓練経験」(14.7%、42.3%)が重視されている。

新卒者には、「コミュニケーション能力」より「勤労意欲やチャレンジ精神」と求めている割合が高い。

(3)定着のための対策は「職場での意思疎通向上」約60%

「定着のための対策を行っている」事業所は73.7%で、平成30年調査(72.0%)より微増している。正社員以外の若年労働者に対して「定着のための対策を行っている」事業所は60.1%となっており、若年労働者の定着のために実施している対策(複数回答)をみると、「職場での意思疎通の向上」が若年正社員、正社員以外の若年労働者ともに最も高くなっている。

若年労働者定着のための対策を行う事業所の割合は調査の回を追うごとに増加している。

前回調査との増減をみると下表のようになる。

全体的に、正社員に対する定着対策が前回調査より増加している。

正社員以外の労働者を正社員へ転換させる制度について、「制度がある」事業所は59.9%、「制度がない」事業所は36.9%。「制度がある」事業所の割合を産業別にみると、「複合サービス事業」(87.8%)、「宿泊業、飲食サービス業」(70.4%)「金融業、保険業」(69.9%)の順で高くなっている。

「正社員転換制度」のある事業所割合は、前回調査より高くなっている。

【就業者の意識】

(1)過去1年間の自己都合退職割合は約40%

過去1年間(令和4年10月~令和5年9月)に若年労働者がいた事業所のうち、「自己都合により退職した若年労働者がいた」事業所は40.9%となっており、自己都合により退職した若年労働者を雇用形態別(複数回答)でみると、「正社員」が28.4%、「正社員以外」の若年労働者が18.4%だった。
産業別にみると、「生活関連サービス業、娯楽業」(56.5%)、「情報通信業」(47.5%)、「卸売業、小売業」(45.6%)の順で「自己都合により退職した若年労働者がいた」事業所の割合が高くなっている。

「過去1年間に自己都合により退職した若年労働者がいた」事業所は、前回調査より減少している。

(2)初めて勤務した会社に在職しているのは55%

在学していない若年労働者が、初めて勤務した会社で現在も働いているかどうかを聞いたところ、「勤務している」が55.5%、「勤務していない」が42.7%となっている。
性別では、「勤務している」では男性が59.4%、女性が52.0%。最終学歴別に「勤務している」割合をみると、概ね学歴が高くなるほど「勤務している」割合は高くなっており、雇用形態別に「勤務している」割合をみると、正社員では65.4%、正社員以外の労働者では26.0%だった。

初めて勤務した会社で現在も勤務している」割合は、平成25年及び平成30年よりも高くなった。

調査では、初めて勤務した会社をやめた理由(3つまでの複数回答)を聞いている。それによると、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」が28.5%、「人間関係がよくなかった」が26.4%、「賃金の条件がよくなかった」が21.8%、「仕事が自分に合わない」が21.7%の順であった。
これを初めて勤務した会社での勤続期間階級別にみると、1年未満の期間では「人間関係がよくなかった」と回答した割合が最も高くなっており、1年~10年未満の期間では「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」と回答した割合が最も高くなった。また、10年以上の期間では「人間関係がよくなかった」と回答した割合が最も高く、次いで「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」となった。

令和5年調査では、「ノルマや責任が重すぎた」という回答が15.2%となっており、過去2回の調査よりも割合が高い。
性別では、女性が15.6%となっている。

(4)若年正社員の転職希望は約30%

若年正社員が、現在の会社から今後「転職したいと思っている」割合は31.2%、「転職したいと思っていない」割合は30.3%となっている。
これを性別にみると、男性では、今後「転職したいと思っている」が27.7%、「転職したいと思っていない」が32.6%、女性では、今後「転職したいと思っている」が35.1%、「転職したいと思っていない」が27.8%となっている。
年齢階級別にみると、今後「転職したいと思っている」は「20~24歳」層が35.0%と最も高い。

「転職したいと思っている」割合は、回を追うごとに増加しているが、
性別でみると、女性の方が「転職したいと思っている」割合が高いことがわかる。

現在の会社から今後、転職したいと思っている若年正社員について、転職しようと思う理由(複数回答)をみると、「賃金の条件がよい会社にかわりたい」が59.9%、「労働時間・休日・休暇の条件がよい会社にかわりたい」が50.0%と高くなっている。

「賃金、労働条件、休日」など、より良い条件の職場を求めていることがうかがえる。

(5)「雇用の安定性」に対する満足度が高い

若年労働者の職業生活の満足度D.I.について雇用形態別にみると、若年正社員では、「雇用の安定性」が66.4ポイントと最も高く、次いで「職場の人間関係、コミュニケーション」が57.3ポイント、「仕事の内容・やりがい」が55.2ポイントとなっている。
正社員以外の若年労働者では、「仕事の内容・やりがい」が59.9ポイントと最も高く、次いで「労働時間・休日等の労働条件」が54.8ポイント、「職場の人間関係、コミュニケーション」が54.5ポイントと高い半面、「雇用の安定性」(38.1ポイント)は正社員に比べて満足度は低くなっている。
「賃金」については若年正社員、正社員以外の若年労働者ともに最も満足度は低く、若年正社員でマイナス5.9ポイント、正社員以外の若年労働者では0.6ポイントとなっている。
「職業生活全体」でみると、若年正社員が37.8ポイント、正社員以外の若年労働者が45.3ポイントとなっている。

若年正社員の方が、「雇用の安定性」には満足しながら、「賃金」に対して満足していない傾向がみられる。


厚生労働省 令和5年若年者雇用実態調査の概況


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