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#57|女性活躍の動向分析―時間に制約があっても主役になれる職場へ【前編】

鯉沼 美帆(こいぬま みほ)
ドリームサポート社会保険労務士法人

労働分野の実務の参考となる情報を提供する「プロが伝える労働分野の最前線」第57回のテーマは、女性活躍の動向分析です。2016年(平成28年)4月に女性活躍推進法が施行されてまもなく10年が過ぎようとしていますが、働き続けたいと希望する女性が、希望どおりに働き続けられる環境は整備されたのでしょうか。次回(12月公開)とあわせて、ドリームサポート社会保険労務士法人の鯉沼美帆さんが解説します。今回は、いろいろな統計調査などから、女性活躍の動向を分析します。


女性活躍の背景

少子高齢化により深刻な労働力不足が予想され、高齢者や外国人などあらゆる潜在的な労働力を掘り起こそうとされている中で、「我が国最大の潜在力」と位置づけられているのが女性です。

働き続けたいと希望するすべての女性が能力を発揮できるようにすることを目的に、2016年に女性活躍推進法が10年間の時限立法として施行され、2022年の改正では労働者数101人~300人以下の事業主にも行動計画の策定・公表義務が拡大されました。

出生率をあげ次世代の社会保障の担い手を増やす環境整備のために、次世代育成対策推進法も施行され、両法律に基づき、取り組みが進んでいる企業の認定事業など様々な施策が行われてきました。

しかし、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は、2023年の雇用均等基本調査では12.7%と、調査開始時2009年の10.2%から大きな変化は見られず、政府目標の30%には遠く及びません。
男女格差を示すジェンダーギャップ指数は、2024年の順位で日本は146ヵ国中118位と、男女間での所得格差など経済分野の差異が大きいこともあり、日本のジェンダー平等は遅れをとっています。

国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査(2021年)によると、労働力人口に占める女性の割合は4割を超え、雇用者の共働き世帯数は1,200万世帯を超えており、出産後の継続就業率も7割であるなど、女性の労働参加は進んでいます。しかしその内訳は、非正規雇用者が多くを占め、女性の非正規雇用比率はどの年代でも男性の2倍以上です(図1参照)。

【図1】非正規の職員・従業員の割合 

出所:厚生労働省「令和5年版働く女性の実情」

また、図2のように、正規雇用比率は25歳~29歳の58.7%がピークで、以降働く女性の多数派は非正規雇用となっていくため、「L字カーブ」を描きます。

【図2】女性の年齢階級別正規雇用比率(L字カーブ)

出所:内閣府男⼥共同参画局「女性活躍に関する基礎データ」(令和4年7月19日)

これは、日本では女性が家庭内の無償労働の8割を担っていることが大きな要因です。女性が人生を通じて就業継続することが進んでいても、活躍やキャリアアップをし続けることはいまだ容易でないことがわかります。

このような状況から、2026年に失効する予定であった女性活躍推進法は10年間の期限延長がされる見込みとなっており、また次世代育成対策推進法も、育児介護休業法とともに今年2024年に改正され、2035年までその効力が延長されました。行動計画の策定や情報公表などが義務となる企業規模の範囲もさらに拡大される見込みです。

女性活躍の動向

すでに労働力である女性が、その本領を発揮してもっと職場で活躍していけるようにすることが課題である中で、気になる2つの動向をとりあげます。

⑴    男性の育休取得率の上昇
⑵    女性特有の健康課題への支援

⑴ 男性の育休取得率の上昇
まず、なかなか大きな変革が起こらない女性活躍をとりまく状況で、男性の育休取得率は変化を見せています。
2023年の雇用均等基本調査によると、育児休業を取得した男性の割合は過去最高の30.1%と前年の17.13%を大きく上回りました。女性の84.1%と比べれば差はありますが、10年前は2%台だったことを考えると大きな変化です。取得期間についても、「1ヵ月~3ヵ月未満」の28.0%が最も多く、女性に比べれば短いものの、ある程度まとまった日数を取得する割合が増えています。

筆者が働く社会保険労務士法人でも、育児休業の手続きを実施する中で、企業規模にかかわらず2週間以上育休を取る男性はとても増えている印象です。このことは、女性活躍に必須である「共働き・共育て」社会実現への大きな一歩です。

これは、ミレニアル世代(今年28歳~42歳が該当)の育児に対する意識の変化に加え、2022年から産後パパ育休(取得ニーズの高い産後8週間以内の期間に通常の育休とは別に取得できる制度)が開始されたこと、2023年から1,000人超の企業で男性の育休取得率公表が義務化されたことなどの取り組みが行われた結果だといえます。
2025年からは300人超の企業においても公表が義務化されるため、今後ますますの取得率上昇が見込まれます。

厚生労働省の若年層における育児休業等取得に対する意識調査では、男性の学生の92.4%が公的な育休制度があることを認知し、87.7%が育休を取得したいと考え、また取得期間も25.3%が1~3ヵ月、29.2%は半年以上を希望し、また男女ともに88.6%が、配偶者にも育休を取得してほしいと答えています。今のZ世代にあたる学生が育児期に入る頃には、仕事も家庭的責任も支障なく担える環境であることが、選ばれる企業であるために必須事項であることがわかります。

政府の施策としては、2024年1月より、育休取得や時短勤務中に業務を引き継ぐ同僚への「応援手当」を支給したり、代替要員確保のため採用を行う中小企業への助成(両立支援助成金)が拡充・新設されています。
2025年4月には、育児休業給付金とは別に、休業開始前の手取り額が減らないようにするための「出生後休業支援給付金」が創設され、また、時短勤務により下がる給与の補てんとして「育児時短就業給付金」が創設されます。

男性の長時間労働は、女性の無償労働の時間が長いことと表裏一体です。
性別による生活時間の偏りを少なくし「共働き・共育て」が進むよう取り組まれているのです。

⑵女性特有の健康課題への支援
また、女性活躍推進の傾向として、「女性特有の健康課題」への取り組みが重要視されていることも認識しておく必要があります。

もともと女性活躍推進法が成立した背景には、これまで見てきたように、女性が育児との両立が困難なことから、やむを得ず退職することを防止する目的がありました。しかし近年ではそれに加え、月経に伴い心身の不調が起こる月経随伴症(PMS)、不妊治療、更年期症状などにまで、女性の労働生産性の低下や、キャリア形成を難しくしている要因を拡張し、支援の輪を広げる動きがあります。

生理による不快な症状について、「症状が強いが我慢している」と回答した女性の割合は66.4%(日経BP「20~40代働く女性1956人の生理の悩みと仕事と生活調査」)であり、労働基準法で定めがある生理休暇も2020年度に休暇を請求した人の割合は0.9%と制度利用は進んでいません。

生理について職場ではまだセンシティブな問題で、ましてや男性の上司には相談しづらい状況です。また、頻繁な通院が必要である不妊治療を理由にした離職経験がある女性は全体の約16%(厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究」(2018年))となっています。

更年期症状によりパフォーマンスが半分以下になると答えた女性の割合は46%(日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査」(2018年))であり、また同調査では、女性従業員の約4割が、女性特有の健康課題により「職場で何かを諦めた経験」があると回答しています。

これら女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は、年間3.4兆円という推計も出ています。(経済産業省「女性特有の健康課題による社会全体の経済損失」(2024年))。

2023年には厚生労働省としても、働く女性の健康問題を把握するため約5千人を対象に初の実態調査に乗り出しています。

また、毎年政府決定している『女性版骨太の方針』2024年版では、女性活躍の取り組みとして「仕事と健康課題の両立の支援」を「仕事と育児・介護の両立の支援」に並べて掲げています。
現行の労働安全衛生法に基づく健診は性差に十分対応していないことから、問診に女性の健康に関する質問を追加することや、従業員の産婦人科受診のハードルを下げること、女性の健康課題に関する取り組みを行っている企業を評価する仕組みを検討するなど、これまでどちらかというと男性基準であった企業の健康支援に、変革が見られます。

同方針では、女性活躍推進法の枠組の中で、一般事業主行動計画に盛り込むことが望ましい事項として、女性特有の健康課題への取り組みの追加も検討されています。

性差による健康課題は、まわりに相談しにくく見えづらいことなので、元気に見える従業員が、実は我慢し、生産性が落ちてしまっている場合も少なくないのです。自身の健康と両立しながら組織に貢献できるよう、妊娠・子育て期から拡張し、ライフステージを通じた包括的な支援が事業主に求められています。 

時間的制約があっても輝ける職場へ

今回は、女性活躍の動向を見てきました。男性も育休を取得したり時短勤務を選択することを前提に、また健康課題を抱えていても通院や安静の時間を確保しながら働くことが当たり前に考えられる環境が求められています。
女性活躍推進というのは「時間に制約があっても主役になれる環境を作ること」です。

従業員が、ここでなら働き続けられる、続けたいというイメージが持てる環境にしていくために、企業が取り組むべき大切なポイントがあります。次号では「時間的制約があっても輝ける職場」にするために企業に求められる取り組みについて取り上げます。


鯉沼 美帆(こいぬま みほ)
ドリームサポート社会保険労務士法人

社会学部にて「労働と幸福が結びつく社会のありかた」を学び、企業の労働環境整備をサポートすることで、個人の生活(=ライフ=命)を大切にする社会を実現できる社労士を目指し、2021年4月新卒でドリームサポート社会保険労務士法人に入社。
現在は顧客サポート部にて複数の顧問先企業の給与計算・社会保険手続を担当。手続業務を起点とし、働く人のステップアップをハード・ソフトの両面から支えるために日々邁進している。

ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。

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代表 安中繁が、労働分野の実務のポイントをわかりやすく解説している動画です。ぜひご覧ください。


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