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「骨太の方針2022」をめぐって(中村秀一)

霞が関と現場の間で

A:「骨太の方針」が決まったね。

B:6月7日に閣議決定した。岸田内閣の初の骨太方針で、注目していたよ。「新しい資本主義」が2012年から続いた安倍・菅長期政権からどれだけ政策転換するか、をだ。

A:それで、どうだった。

B:自民党内で大分もめた。安倍元首相たちの積極財政派が巻き返したのだ。

A:ロシアのウクライナ侵攻を受けての防衛費の増額の話だね。

B:政府原案では「防衛力を抜本的に強化する」だけだった。それが、NATO諸国では国防予算を対GDP比2%以上ということが本文に書かれた上に、「5年以内に抜本的に強化」と年限も入った。5年以内に防衛費が倍増することになろう。

A:防衛費は現在5兆円だから、10兆円だね。財源は?

B:何も触れられていない。来年度の防衛費については、「予算編成過程において検討」とした。概算要求時のシーリング対象からも外されそうだ。

A:財政規律が心配だね。

B:昨年までの骨太にあった財政健全化目標の目標年次(2025年度)も削られた。その上、目標年度により「マクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない」とまで書くことになった。

A:駄目押しだね。「新しい資本主義」はどうなった?

B:「人への投資と配分」など5つの重点投資分野を列挙した。参院選を控えて、政策が網羅的に並び「骨太」に見えないね。「国民皆歯科健診」などは、選挙を意識しすぎだ。

A:ふーん。ところで社会保障は?

B:「社会保険を始めとする共助」を「包括的で中立な仕組み」とし、「我が国の中間層を支え、その厚みを増す」としているのは評価できるね。全世代型社会保障の構築や勤労者皆保険の実現も盛り込んだよ。

A:岸田首相は、こども政策も倍増と答弁していたが。

B:「必要な安定財源については、国民各層の理解を得ながら、社会全体で費用負担の在り方を含め広く検討を進める」とある。

A:至極真っ当だね。

B:更に「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組み」について提案しているが、選挙後に勝負だろう。

A:少子化対策先進国は、GDP比3%程度と聞いているけど。

B:そう。現在1.7%程度だからあと7~8兆円程度必要かな。

A:防衛費もあるし、こども政策もあり、大変だね。

B:1960年代のアメリカはベトナム戦争と「偉大な社会」の両方を追求したけどね。

A:大砲も、バターもということか。

Web版への追記

【両者の会話には以下の続きがあった】

B:今日の日本ではバター(社会保障費)の予算は36.2兆円、大砲(防衛費)は5.3兆円と規模は大分違うけどね。

A:そうか。防衛費は倍増しても10兆円台なのだね。

B:そうはいっても、5兆円を増やすには消費税2%分に相当するのだよ。

A:ところで、社会保障費が大きいのはわかったが、いつころからこんなに大きくなったの?

B:1960年では、社会保障費が1,800億円で、防衛費は1,500億円だった。1970年には1.1兆円対8,700億円と差が広がり、1980年には8.2兆円対2.3兆円と社会保障が非常に大きくなった。1973年の給付改善の影響だね。社会保障費が公共事業費を上回るようになったのも1974年からだ。

A:社会保障費はこれからも伸び続けるだろうし、財源の確保が必要だね。

B:参議院選挙が終われば、年末の予算編成を控え財源をどうするかが当面の最大の課題だろうね。
(了)

(本コラムは、社会保険旬報2022年7月1日号に掲載されました)


 中村秀一(なかむら・しゅういち)   医療介護福祉政策研究フォーラム理事長 国際医療福祉大学大学院教授  1973年、厚生省(当時)入省。老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。

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