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和歌山県海南市 くらし部保険年金課

年金事務所と連携した、独自の保険料免除勧奨と年金生活者支援給付金請求書提出勧奨を実施。
その結果、2021年度現年度納付率は88.95%となり、「令和5年度市区町村国民年金事業功績厚生労働大臣表彰」を受賞。


 海南市の国民年金業務は、本庁7人(保険年金班長1人、正規担当職員6人)、支所・出張所15人(他業務兼任班長3人、正規担当職員12人)(*2024年4月1日現在)で行っている。2023年度には、「令和5年度市区町村国民年金事業功績厚生労働大臣表彰」を受けた。表彰の対象となった取組みのポイントは年金事務所との連携。海南市を管轄する和歌山西年金事務所と連携して文書による独自の保険料免除勧奨に取り組むとともに、年金生活者支援給付金請求書の未提出者に対して独自の提出勧奨にも取り組んだ。これらの取組みは住民の年金権確保と保険料納付率向上に貢献した。2021年度現年度納付率は、第1号被保険者数1万人未満の全526市区で第8位となる88.95%を記録した。こうした取組みや日頃の業務や今後の課題について、保険年金課の藤田裕之課長、的場健班長、辻寿美子主任に話を聞いた。

本記事は、特定非営利活動法人 年金・福祉推進協議会ホームページ掲載の「Web年金広報」(2024年7月号)を再掲載したものです。

「海南市ってどんなところ?」

 海南市は、市内を熊野古道が縦断し、交通の要衝の地として栄え、熊野三山への入口として知られる藤白神社には、鈴木姓のルーツといわれる鈴木屋敷があるほか、国宝の建物が3棟ある長保寺など多くの歴史的資産が存在する。また、海南市は伝統工芸である漆器のまちでもあり、「のこぎり歯状」という特徴的な黒江地区は室町時代から漆器で栄える。さらに、温山荘園や長久庭など美しく壮大な庭園は歴史の重みを感じさせる場所である。山と海の豊かな自然のもとみかん、びわやしらすなどの特産品があり、日用家庭用品や家具などの生産も盛んである。
●人口 合計46,837人(2024年5月31日現在)
 うち、20~59歳は19,668人、65歳以上は17,708人          
●国民年金第1号被保険者数 合計4,946人(2024年4月30日現在)  
 うち、任意加入被保険者108人
●国民年金保険料免除・納付猶予者数 合計2,198人(2024年4月30日現在)
 うち、法定免除582人、申請免除・納付猶予1,444人(全額免除1,022人・一部免除187人・納付猶予235人)、学生納付特例172人
●国民年金受給者数(2023年3月31日現在)
 老齢基礎年金16,964人(65歳受給者14,150人+繰上げ受給者2,814人)、障 害基礎年金 1,071人(拠出459人+20歳前障害612人)、遺族基礎年金99人            

独自に考えられた国民年金保険料免除勧奨と年金生活者支援給付金請求書提出 

――この度は、「令和5年度市区町村国民年金事業功績厚生労働大臣表彰」の受賞、おめでとうございます。どのような取組みが評価されたのでしょうか?

的場班長 一つは国民年金の保険料免除勧奨です。海南市では、和歌山西年金事務所に情報を提供していただき、5月と12月の年2回、国民年金の保険料免除勧奨者リスト(保険料未納者リスト)をもとに対象者に文書で通知を送付しています。封筒には「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」と返信用封筒が入っており、手続きできるようになっています。本来は日本年金機構から送るものですが、機構の封筒よりも市役所からの封筒のほうが住民の方に開封していただきやすいため、市からお送りしています。さらに、市役所の窓口は身近に来訪できるので、住民の方にとっては相談しやすいようです。文書で通知しても返事がなければ電話をお掛けして免除をお勧めしています。

藤田課長 住民の方が国民年金の加入手続きに来られたときには「国民年金のご案内」(図1)というチラシをお渡ししています。保険料の額や納付方法をお知らせするとともに、失業や低所得で保険料の納付が困難になったときの免除制度などについてお知らせしています。また、免除によって年金額がどれくらい減るのか心配される方もあり、追納制度についても併せてお伝えするようにしています。

<図1> 「国民年金のご案内」

――免除勧奨は保険料の納付率にも反映されたということですが、いかがでしょうか。

辻主任 2021年度の納付率は88.95%でした。2022年度には90%を超え、91.02%となっています。

――海南市の第1号被保険者はどのような方が多いのでしょうか?

藤田課長 農業を営んでいる方が多く、個人事業主の方などもいらっしゃいます。農業の方は災害で収穫が減ると収益に影響しますから、保険料を納めることが難しくなってしまいます。

年金事務所と市で「年金生活者支援給付金申請書提出勧奨者」リストを作成、絞込みを行う

――年金生活者支援給付金の請求書提出勧奨については、どのような取組みを行ったのでしょうか。

的場班長 年金生活者支援給付金の対象となる方について、年金事務所では4月1日現在の世帯状況や所得情報をもとに判定し、ターンアラウンド形式の請求書を送付しています。一方、市では上記の条件では抽出されない方、つまり4月1日以降の住民異動や所得の修正申告をした方について、独自の勧奨者リストを作成して、年金事務所に送付して対象者を確認していただき、市にフィードバックしてもらっています。そして、市から対象となる方へ勧奨の案内文を送付し、市で請求の手続きを行っています。

――具体的にはどれくらいの方が対象になるのでしょうか。

的場班長 毎月、住民異動や所得の修正申告をした方の件数は約500件あり、支給要件をもとに対象者を絞り込んでいきます。最終的には対象者が10~15人に絞り込まれます。

異動が多い市役所では年金事務所の協力が欠かせない

――年金事務所との連携が効果を発揮したということですね。日ごろの業務では、年金事務所とはどのように連携されていますか。

辻主任 来庁された住民の方の直近の年金記録などを年金事務所に確認しながら窓口業務にあたっています。
 また、市職員の一つの部署の配属期間が短く、2~3年で異動する職員が多いのが現状です。異動の多さと他業務との兼務が、知識の習得やスペシャリストの育成の壁になっているのも事実です。特に障害年金制度は複雑で難しいです。市職員の知識の習得に日ごろから年金事務所の指導は大いに役立っています。今年度は6月に年金事務所主催の研修会を市庁舎で行いました。また、下半期には障害年金に特化した研修会を開催いただけると聞いています。

――ウインドマシン(可搬型窓口装置)はどのように活用されていますか。

辻主任 1台設置しているウインドマシンは有効に活用しています。住民の方から相談を受けたときには年金記録や納付状況を確認し、納付・免除勧奨にも役立っています。例えば、「あと何か月分の納付で年金受給額が満額になります」とお伝えすることで、住民の方の励みにもなります。
 住民の方のニーズは人それぞれですので、ウインドマシンを活用しながらその人に合ったきめ細かい対応を行っています。

――住民の方への年金制度の周知はどのように行っていますか。

的場班長 毎月、市で発行している「広報かいなん」で、年金制度についてテーマを設けて発信するようにしています(表1)。内容は年金事務所に事前に確認していただいてから掲載するようにしています。

<表1> 2023年度「広報かいなん」掲載内容

※2024年度は、新たに7月号に「国民年金手続きの電子申請について」広報。

課題は障害年金の知識の拡大と電子申請の促進

――現在、課題にしていることはありますか?

辻主任 やはり障害年金制度についての知識を深めて、住民の方のニーズに的確に応えていくことが課題でもあり目標です。障害の原因も多岐にわたっていますので、それぞれの要因に応じた知識の拡大が大切です。

――市役所に来られた方への対応は何か工夫されていますか?

辻主任 他部署と連携して、住民の方がスムーズに手続きできるよう心掛けています。例えば、住民の方が他部署で身体障害者手帳などの交付申請の手続きで来庁された際に障害年金の相談を案内して連携しています。1階には国民年金業務に関連する課がそろっていますので、ワンストップで来庁者に対応できるようになっています。
 今回の表彰は、これまで年金業務に携わってきた人たちが知恵を出し合い、年金事務所と協力・連携しながら、日々の取り組みを着実に積み重ねてきた結果、受賞できたと思います。私も今回の表彰を励みにこれからも頑張りたいです。

的場班長 電子申請の促進にももっと力を入れていきたいですね。「広報かいなん」でも取り上げいますが、できるだけ手続きの煩雑さを解消するためにも、住民の方にはもっと利用していただきたいと考えています。

――本日はどうもありがとうございました。

右から保険年金課の的場健さん、辻寿美子さん、小山香名子さん、北野千安子さん


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