「黄金の3年」の過ごし方(中村秀一)
参議院選挙が終わって
選挙戦の最終盤に安倍元首相が狙撃され死亡するという衝撃的な事件があったが、選挙結果は大方の予想通りであった。改選前より議席を増やしたのは、自民(+8)、維新(+6)、れいわ(+3)、NHK党(+1)の各党。新たに参政党が国会に議席を獲得した。一方、議席減は、立憲(▲6)、国民(▲2)、共産(▲2)、公明(▲1)の各党であり、議席確保が危ぶまれていた社民は議席を死守した。
ロシアのウクライナ侵攻という緊迫した国際情勢の下、円安が進行し、エネルギー価格や食料品等が値上がりする中で、多数の国民は安定志向であった。批判票は既存の野党には向かわず、新興政党に分散した。連合が支援する立憲、国民が議席を減らし、これに頼らない維新、れいわが伸長したことは象徴的である。
「黄金の3年」か
岸田首相は昨年10月の総選挙で勝利し、衆議院で絶対安定多数を得た。今回の選挙で両院で圧倒的多数を制することとなった。首相は自ら衆議院を解散しない限り、2025年の参議院選挙まで大型国政選挙はないという「黄金の3年」を手にしたとされる。
まさに、憲法改正の発議も含め、政策を実現しやすい環境が整ったわけである。それだけに、この3年でいかなる政権運営を行うのか、政府・与党の責任は重大である。
選挙前に閣議決定された「骨太の方針2022」では、防衛力の5年以内での抜本的強化、「新しい資本主義」に向けた重点投資、少子化対策・こども政策の推進、全世代型社会保障の構築等多くの政策が列挙されてきた。しかし、そのための財源については、選挙後に先送りされてきた。いつまでも逃げるわけにはいかない。
今後3年間の社会保障
社会保障の先行きはどうか。先の通常国会で設置法が成立し、来年4月にはこども家庭庁が発足する。新たに誕生する官庁に少子化対策、こども政策の推進のため、どのようなツールを与えることができるのか、まさに正念場だ。
2024年は6年に一度の診療報酬・介護報酬の同時改定が控えている。猶予されてきた医師に対しての労働時間の上限規制が適用される年でもある。医療・介護提供体制改革にとって節目となろう。
年金については、23年に新人口推計が公表され、24年には年金の財政検証がある。コロナ禍もあり、ここ数年の合計特殊出生率は低下している。検証結果次第では、25年の参議院選で年金制度が大問題に浮上しかねない、時限爆弾だ。
社会保障にとっては「黄金の3年」どころか、「苦難の3年」になりそうである。
(本コラムは、社会保険旬報2022年8月1日号に掲載されました)